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異界の用心棒  作者: ごじう だい
9/14

西から来た男

 ヘンリクセンとの話が終わり階下へ戻ると、三十郎のギルドカードが用意されていた。

 受付前のロビーでは再び談笑が始まっていたが、三十郎の姿が階上に現れると、またピタリと止まったが、当の三十郎は気にしない。

 ラグーの町まで世話になったハンスの話に因ると、ギルドでは登録さえすれば、魔石や魔物の色んな素材を買い取ってくれる制度があるそうで、カードを作ってくれた受付嬢に訊いてみた。

「あ…、あそこの窓口で承っております……、買い取り申請にはカードの提示をお願いしております…」なるべく三十郎の目を見ないで言う受付嬢。相当怖がられているらしい。

「ありがとよ」と一言言い、カードを受け取った三十郎はその窓口に並ぶ。窓口は二つあり、両方とも二人が先に並んでいた。

 隣の買取所の一番前のヤツが終わった時、入口の開く音がした。入って来た男に、またギルド内が静かになる。ガチャリガチャリと足音を立てながら三十郎の隣の列に並ぶ。と同時に、三十郎と隣の男の番が巡って来た。

「「買取を頼む」」ギルドカードを提示しながら、三十郎の声と誰かの声が被る。

 お互いに横に振り向く。三十郎の目の前に居たのは、十センチほど背の高い、鍔の広い帽子を被った髭面の青い目の男だった。顔立ちこそこの世界の人間族と似ているものの、埃っぽいポンチョを羽織り、ダンガリーのシャツとジーンズに、ブーツに何かの金具がついた、明らかにこの世界の住人とは違った恰好と雰囲気を纏っていた。

 三十郎は腰のバッグから拳大の魔石を二つ取り出す。隣の帽子の男は左手で背中に背負ってた巾着の様なバッグの口を開け、カウンターの上に逆さにする。大小様々な魔石が二十個ほど転がり出てくる。

「「…‥…‥…」」

「査定に暫くお時間が掛かりますので、掛けてお待ちください」

「……ちょいと話をしねぇか?」三十郎から誘う。「…構わんぜ。俺も話したいと思ってた…」ニヤリと笑う帽子の男。二人してテーブルを囲む。

「……お前さん、どっから来たんだ?」口火を切る三十郎。

「ずっと西の方さ……。そっちは…?」

「…俺は真逆の東さ…。ずっと向こうのな…」会話が暫く途切れる。

「……その恰好と雰囲気…、お前さん、この世界の人間じゃねぇな…?」

「…そっちこそ、黒髪に黒い目にその恰好…。俺の国でもこっちでも見た事がねぇ…」

「どのくらい前にこっちへ?…」

「一か月ほど前だ…。そっちは?」

「俺ぁ一週間とちょっとだな…」

「あ…、あのっ! 査定が終わりました…」

 申し訳なさそうな顔をしたギルド職員が、二人の間に割って入る。査定が終わって買取の現金とその明細が盆に乗ってテーブルに置かれた。三十郎が金貨六枚。男は金貨十一枚と大銀貨三枚であった。それぞれ現金を懐に仕舞う。

「…お前ぇさんとは、もう少し話がしてぇんだが、この後用事はあるかい?」三十郎が切り出す。

「…気が合うな。俺ももう少し話したいと思ってたんだよ」ニヤリと笑う男。

「じゃあ決まりだ。一杯やろうか。俺ぁ三十郎! 伊海三十郎って名前だ」名前を聞かれない限り、自分からは名乗らない三十郎だが、不思議と目の前の男とは「馬が合う」と言う確信があった。

「…俺はハリー。ハリー・ウェストウッドだ」そう言いながら手を差し出す。ハリーも握手を求めた事が今までなかったし、相手から求められても応じる事は稀だった。そんな自分に少し照れて笑ってしまう。が、握手が挨拶という習慣がない三十郎は少し首を傾げる。その様子にハリーが「握り返してくれよ」と言い、それが挨拶だと気づき、握り返す三十郎。

「おい、嬢ちゃん。この辺で風呂に入れて旨い酒を置いてるおススメの宿はあるかい?」

 突然声かけられ、ビクッと驚く猫耳のギルド職員。料理と酒とで有名な宿を地図に記して二人に渡す。その地図を手に、二人の男は揃ってギルドを出て行った。扉が閉まると、一気に剣呑な空気が和らぐ。

「「「はああぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~っっ!!!」」」

 ギルド内に居た全員が同時に安堵の溜息を吐いた。


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