ハリー・ウェストウッド
ギルドの職員に勧められた酒場は徒歩一分ほどのところにあった、宿屋はそこから歩いて三分ほどだ。ココタの村と違い、酒場と宿屋は別になってるらしい。陽はもうすっかり沈んで、黄昏時の時間だった。
三十郎とハリーは連れだって酒場のドアを開ける、すると、今まで賑わっていた客席が一斉に静まり返る。だが二人にはそんな事は慣れっこで、壁側の空いてる席に腰を下ろした。
「な…、何になさいますか?」と、ウサギの耳をした亜人のウェイトレスがおどおどと訊ねてくる。
「旨いういすきーと…」三十郎。「この店のおススメの料理をくれ」とハリー。
「ウイスキーはショットでお持ちしますか?」と訊かれるが、ショットの意味が分からない三十郎。
「いや、ボトルでグラスは二つだ」と返すハリー。
注文を受けたウェイトレスは、すぐにウイスキーとグラス二つとチェーサー二つを運んできた。そのウイスキーの封を切ろうとするハリー。
「ちょっと待て」三十郎はそう言って、腰のバッグから飲みかけのウイスキーのボトルを取り出す。量はシングルショットの二杯分くらいしか残ってない。そのコルクを開けて、ハリーのグラスと自分のグラスに注ぐ。ボトルは空になった。
「まずはコイツで乾杯しようぜ」ニヤリと三十郎。
「…わかった」ニヤリとハリー。そしてお互いグラスを掲げに一気に飲み干した。
そして運ばれてきたウイスキーの封を切る。今度はハリーが注いでくれた。お互いのグラスに並々と注ぐと、またグラスを合わせて一気に飲み干す。それがお互いが打ち解けた合図の様に、「ふははっ!」と二人で同時に声を挙げて笑う。
ハリーは葉巻を取り出し、口に加えて火を着ける。旨い酒を飲む時はいつもこうしてる。
「そいつは?」見た事もない葉巻に興味を示す三十郎。
「シガーさ。吹かしてみるかい?」ハリーは吸い口を向けて三十郎に差し出しながら「肺に入れるなよ?」注意する。三十郎は口に加えてすぅっと吸って、言われた通りに花と口から煙を吐いた。そして一言「気に入った」
その後の会話は、お互いに自身の身の上を語る事は少なかったが、それでも二人とも、心から楽しみ、笑い合える酒の場であった。
「それにしても……」今までの話題が一段落して、三十郎が話題を変える。
「何でこの世界の若ぇ女はどいつもこいつもこんなに色っぽい恰好してんだ? 外歩いてても目のやり場に困るぞ」
「確かにな……、俺の国では胸見せびらかす女も少なからずいたが、こっちの世界は刺激が強すぎる…」
「どこ見てもおっぱいだらけなら、見つめてたっていいって事か?」
「そうじゃねぇのか?」
と、酔った中年の下品な会話をしながら、楽しそうに笑う。
そして夜は更けていく……。
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「ありがとうございましたー」と酒場のウェイトレスに見送られ、二人は店を出る。
ちょっと振らつくが、お互いがお互いに寄りかかるまでは酔ってなかったし、千鳥足でもない。時折「おっとっと」と言う程度の酔い方だった。
酒場を出て最初の角を曲がった時。
「サンジューロー、気付いてるか?」とハリーが言う。
「ああ、あの酒場から二人付けて来てるな…。それに前にも何人かいるみてぇだ」
辺りに立ち込める殺気に、二人の背筋が伸びる。
「待ちな!」と言う声と共に、行く手に四人が立ちはだかる。その四人も後ろの二人も、既に剣を抜いていた。
「「…………」」三十郎とハリーは歩みを止める。
「そこの帽子の! 死にたくなけりゃテメェが持ってる二つの鏃を寄こしな」ハリーに話しかける男。どうやらそいつがリーダーらしい。
「そいつぁ出来ねぇな。欲しけりゃ力づくで来な」そう答えながら、小声で三十郎に「サンジューロー、下の連中を頼む。但し今喋った男は殺すな。俺は屋根上の連中を仕留める」と告げ「それと、俺の獲物の音に驚くなよ?」と注意をしておく。
「わかった…」と小声で返事しながら、パチリと鯉口を切る三十郎。そして素早く振り返り、剣を構えている二人に襲い掛かる。そのタイミングに合わせて、ハリーは腰から銃を抜き、屋根の上からボウガンで狙っていた一番近くにいたヤツを仕留める。ドオォォォンッ!! その音とほぼ同時に後ろの二人を斬り伏せるが、その音は町全体に響き渡るほどの轟音だった。撃たれた男は屋根から落ちてくる。ハリーは気にせず、そのまま二番目三番目に遠くの屋根から狙っていたヤツらも続けて仕留める。三十郎は「驚くな」と注意されていたが、予想以上の轟音に身体が少し強張った。が、すぐに前に居た四人は、その轟音に怯んで隙が出来ていた。後ろの二人を始末した三十郎は、踵を返すと素早く前に向かい、話しかけてきた一人を峰打ちにして三人を斬り捨てた。
その時、後ろから飛んできた矢がハリーの足元に突き刺さる。轟音に怯んで狙いが狂ったみたいだ。ハリーは振り返りながら、後ろの建物の屋根上にいた最後の刺客を撃つ。一発目がボウガンに当たり攻撃が無力化できたが、そのまま逃がすわけにはいかない。もう一度撃つと、月明かりに照らされた影の上半身が吹き飛んだのがみえた。
「すげぇな……」と思わず呟く三十郎。
町中に響く轟音に「何事か?」と次々と住人が外へ飛び出してきた。そして斬られた死体五つの死体と、大穴が空いてる死体を見て悲鳴を上げる。三十郎に峰打ちにされた男は、その場を動けずにうんうんと唸っている。
ハリーはその男に近づき、銃を向ける。
「誰の命令で俺達を襲った?」撃鉄をカチチッと起こしながら言うハリー。
「…………」だが男は答えない。それどころか、近くに落ちてる自分の剣に手を伸ばそうとしている。
「おおっと! 考えは分かってるぜ。その剣で一発逆転を狙ってテメェ一人逃げようとしてんだろう? だがこの魔道具はマグナム500と言って女神様から貰った世界一強力な魔道具だ。お前のド頭なんか一発で吹っ飛ぶぜぇ! 確実にな。お前の雇い主を言えば命だけは見逃してやるが、さぁどうする?」
銃口を向けて薄ら笑いで言うハリー。男の手は剣の柄の五センチ前で止まったままだ。
「りょ…、領主の息子の……」男が黒幕の名前を言おうとしたその時、「何事だ? この惨状は?」と轟音を聞きつけてやって来た数十人の衛兵が割って入る。そして三十郎とハリーに「これをやったのはお前らか?」と詰め寄る。剣や槍を向けられて取り囲まれる三十郎とハリー。「三人共詰所に来てもらう。状況を説明してもらうぞ」と言う衛兵に、二人とも抵抗する気はなかった。
「付き合わせちまって済まねぇな。サンジュウロー…」
「フッ…、いいさ…」
三十郎とハリーと、賊の一人は、そのまま衛兵に連行されて行った…。




