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異界の用心棒  作者: ごじう だい
13/14

領主の屋敷へ

 衛兵に馬車に乗せられ、奥の席に座らせれるハリー。馬車のドアは片側しかなく、向かい合って二人が座れる構造になっていたが、ハリーは一人で座り、その正面には二人の衛兵が座っていた。

 車内は無言だった。衛兵は話しかける事なく、ハリーも話す事は何もなかった。乗り心地の悪い馬車だったが、四頭の馬が引いてたので、結構な速度で走っていた。宿屋から貴族屋敷に着いた頃には、もうすっかり辺りは暗くなっていた。

 領主のフェルディナンドは応接室で待っていた。その部屋に通される前に、ハリーはポンチョと帽子とガンベルトと、腰に付けていたボウイナイフを衛兵によって外された。一応のボディチェックを受けたが、衛兵が行ったのは上半身のみにであった。ブーツに仕込んだ右足のダガーナイフと左足の22LR口径の二連式デリンジャーは気付かれなかった。

「貴様がハリーと言う者か?」

 応接室のソファにどっかりと座った太鼓腹の男が横柄に言う。コイツがフェルディナンドってヤツか…。ハリーは向かい合わせの席に座る。挨拶なしの着席に、フェルディナンドの頬がヒクッと動く。執事がハリーにお茶を出す。

「アンタがこの町のご領主サマかい? フェルディナンドサマ。それで? 俺をココまで連れて来て一体何の用だ?」

 両腕をソファーの背もたれに乗せ、右足を組みながら言うハリー。その態度は明らかにフェルディナンドを舐めていた。フェルディナンドはハリーの余りの無礼さに奥歯を噛み締める。が、ぐっと我慢をする。

「単刀直入に言おう、貴様が持ってる鏃を買おう」

「ほほう…。幾らで?」胸ポケットから葉巻を取り出して口に咥え、マッチをブーツで擦って火を着けながらハリー。

「白金貨一枚…。お前等庶民が普段使ってる金貨百枚の価値がある金額だ…」

 フェルディナンドがそう言うと、傍らに控えていた執事が予め用意していた盆をハリーの前に置いて、白い布に包まれた一枚の白金貨を見せる。

「鏃二つ分の金額にしちゃあ、随分と安い気がするが…?」

「貴様が持ってた鏃の一つは、もう既にこちらにある」ニヤリと笑いながらフェルディナンド。

 やっぱりかと思いながら、「実は俺も今は鏃を持って来てねぇんだ」とニヤリと笑うハリー。「一番安全な場所に隠してある」と続けて言う。

「その安全な場所と言うのは、黒髪黒目の男の事かね?」と余裕の笑みのフェルディナンド。その言葉にハリーの口元から笑みが消える。

「私が何も手を打たずに貴様を呼んだと思ったかね? 貴様の考えなど先読みしておる。私の精鋭を貴様と入れ替わりに送りこんだわ!」勝ち誇ったように立ち上がりながら言うフェルディナンド。ハリーは自分の血が冷えて行くのを自覚する。そして首を動かさずに周りを確認する。この応接室にはフェルディナンドとその執事を除けば衛兵が五名いた。

「で? 鏃を持ってきてないこの俺をどうするつもりだ?」立ち上がって勝ち誇るフェルディナンドを下から睨むハリー。周りの衛兵は既に剣を抜こうとして、柄を握っている。フェルディナンドの命令があれば襲い掛かって来るだろう。

「そろそろ報せが早馬で来る頃だろう。貴様が預けた鏃を持ってな。貴様の命は、その報せが来るまでの間よ」そう言いながら再びソファに座るフェルディナンド。ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべたままに。

「…………」ハリーは何尾言わない。そのまま沈黙が部屋を支配する。衛兵らは柄に手を掛けたままで、執事はフェルディナンドの傍らに立ったままでいる。

「…茶が冷えちまったな…。入れ直してくれるか?」沈黙を破ってハリーが執事に言う。「かしこまりました」と執事。新たに入れた温かいお茶をハリーに差し出す。その時、袖口に隠し持っているダガーが見えた。

「…………」ハリーは何も言わず、カップに口を付けて、一口飲んだ振りをする。毒が入っている可能性を考えての事だ。

 やがて応接室の外が騒がしくなる。どうやら早馬の報せが帰って来たようだ。そして町人のような恰好をした男が入ってきて、フェルディナンドの耳に小声で報告する。ニヤニヤと笑っていたその顔から笑みが消えて行く。逆にハリーはニヤニヤと笑みを浮かべ始める。サンジューロー。やっぱり見込んだ通りの男だぜ。

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 時間は少し遡る。

 昼前に宿屋を出た三十郎は、そのまま繁華街へと足を運んだ。宿を出たときから、何者かに後を付けられてるのは承知していた。それに気づいてない振りの三十郎は屋台で売ってる物を冷やかしで見たり、或いは買い食いしたりして、何気なく人通りが少ない場所へと移動していく。宿を出てすぐに釣れたダボハゼ連中とのケリを着けるために。人通りの少ない場所へ行くと、目の前に馬車が止まり、中から五人の、全身を鎧で固めた男達が降りて来て三十郎を囲んだ。

「何でぇ? 随分と物騒な連中が出てきやがったな」串焼きの串で歯に挟まった食べカスをほじりながらニヤケテ言う三十郎。その中の一人が掌を三十郎に差し出す。

「鏃を寄こせ…」と言う鎧騎士。三十郎は黙って楊枝代わりにしていた串を、その掌に置く。

「鏃は預かってる大事な物なんで渡せねぇな。ソイツで勘弁してくれ」ニヤニヤと言う三十郎。鎧騎士はすぐに串を投げ捨てる。それが合図の様に全員で剣を抜く。

「鏃が欲しけりゃ俺を斬りな」と、鯉口を切りながら言う三十郎。右斜め前にいた鎧騎士が最初に斬り掛かって来た。その剣戟をあっさりと交わし、袈裟斬りで鎧ごと斬り伏せる三十郎。他の四人に衝撃が走る。斬られた鎧騎士は血しぶきを上げてそのまま絶命した。自分達が持ってる剣では鎧ごと斬るのは不可能だ。せいぜいが鎧の上からぶっ叩いて鎧を凹まし、相手に打撲や骨折を負わせて、その次に鎧の隙間から剣を突き刺して止めを刺す。それが鎧騎士達の戦い方だったが、こんな武器は見た事がない。鉄を斬る? 何だそれは? まさか鎧ごと斬られるとは……。鎧騎士達に戦慄が走る。

 顔の前に刀を横に構える三十郎。こうすると刃紋に映った後ろの相手の動きも見える。

「死にてぇヤツから掛かってきな…」冷たく言い放つ三十郎。その表情からは既に笑みが消えていた。

「うおおおぉぉぉっっ!!」雄叫びと共に右後ろの鎧騎士が斬り掛かってきた。それとほぼ同時に左前の鎧騎士も襲い掛かる。三十郎は素早く足で間合いを取り、左前の攻撃を避けながら、右後ろの騎士の上段を払い、次に素早く振り返って左前の騎士の袈裟斬りを払う。そしてまた振り返りながら、上段を払われて体制を崩してる騎士の左脇腹から右肩に掛けて鎧ごと斬り上げる。そしてその勢いを利用して振り返りながら、左前の騎士を袈裟斬りに斬り捨てた。あっと言う間に三人が死んだ。生き残ってる二人の騎士は愕然とする。鎧ごと斬るなんてあり得ない。こんな剣技は見た事がない。何なんだこれは?

「「…………」」生き残った二人の騎士は剣を構えたまま、無言でジリジリと間合いの足をにじる。二人共完全に腰が引けている。三十郎は目の前の騎士の剣を跳ね上げると、くるりと後ろを向いて斬り掛かろうと剣を上段に上げた騎士の腹を鎧ごと横に斬る。そして返す刀で首筋から下に斬り下ろす。その勢いに乗せてまたくるりと振り向き、バランスを崩したままの、最初に話しかけてきた騎士の脳天に刀を振り下ろす。兜が割られ、頭蓋も脳も斬られた騎士は地面に倒れる前に絶命した。

 刀に付いた血を振り払い、鞘に収める三十郎。そしてそれを見ていた群衆に向かって「おいっ!」と呼びかける。人通りの少ない場所だったが、それでも事の一連を絶句しながら見守っていた十名ほどの群衆から「ひぃ!」と悲鳴が上がる。

「そこのお前だよ…」その群衆の中の一人をハッキリと指差しながら、三十郎は続ける。指差されて狼狽える男。

「早く帰って領主に伝えな。今度はもう少し骨のあるヤツを寄こせってな……」毒気たっぷりにニヤリと告げる三十郎。その男は腰を抜かさんばかりに狼狽え、「ひいいぃぃぃっっ!!」と悲鳴を上げて、何処かへと逃げ去って行った。

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「コイツを殺せえっ!!!」報せを聞いたフェルディナンドは立ち上がって叫ぶ。衛兵が剣を抜く前に執事がハリーに襲い掛かって来た。だがそれを見越していたハリーは、左足のブーツに仕込んだデリンジャーを素早く抜くと引き金を引いた。乾いた音と共に眉間を撃ち抜かれて崩れ落ちる執事。と同時に、部屋中に響く大声で「動くなっ!!!」と怒鳴りながら、デリンジャーの銃口をフェルディナンドはに向ける。距離は一メートル程だ。ハリーの腕なら絶対に外さない。報せの男と五名の衛兵がそのまま固まる。この部屋で一番の手練れが頭を撃ち抜かれて即死したのだ。フェルディナンドを含め、誰も動けない。

 ハリーはフェルディナンドの後ろに回り、後頭部に銃口を向けながら衛兵に命令する。

「領主サマを助けたきゃ、俺の魔道具を持ってこいっ!!」さっきの銃声で、部屋に雪崩れ込んだ衛兵は七人。合計十二人の衛兵がフェルディナンドとハリーを取り囲んでいた。全員剣を抜いて構えている。

「お、お前たちっ! 早く言われた通りにしろっ!!」フェルディナンドが恐怖しながら命令する。取り囲んでいる衛兵の一人が、慌てて二つのガンベルトと取りに行く。そしてハリーに渡される。ハリーは二つのホルスターから銃を抜いて、弾が抜かれていないかを確認し、M500を一発、大理石で出来た壁に威嚇のために撃ち込んだ。轟音が室内に響き、大理石の壁には五センチほどの穴が空き、隣の部屋の壁も撃ち抜いていた。その凄まじい音と威力に、全員が恐怖する。

 二つのガンベルトをいつも通り装着したハリー。デリンジャーをブーツに仕舞い、M500を構えてフェルディナンドに言う。

「おい、領主サマよ」

「は…、はい…」

「お前さんが鏃を買おうとしたのは、お前の身内に厄介者がいるからだろう?」

「…………」何も言わないフェルディナンド。

「お前さんが今の地位が大事なのは、今回の一件で良くわかった。そこで俺からの素晴らしい提案がある……」

「……どんな提案だ…」

「なぁに簡単な事さぁ、お前ンとこのバカ息子を一族から追放すればいいだけの話さぁ。お前がケツ拭くのを止めりゃあいいんだよ。どうだ? 簡単だろう?」

「…………」また沈黙するフェルディナンド。

「お前が追放しなきゃあ、お前の一族はお取り潰しになるだろうなぁ。何故なら、俺が鏃と関係者の証言を持って王都に行くからだ。これだけの事件だ。王都も黙ってはいないだろうし、捜査の手が入るだろうなぁ? まさかバカ息子を守るために王様に逆らおうなんて思わないだろう? 家を守るか? バカ息子を追放するか? どっちにする?」

「……息子を…、スコルを追放する…」苦渋の表情で言うフェルディナンド。

「賢明だ…」言いながら銃をホルスターに納めるハリー。そして「コイツは貰っていくぜ」と白金貨を胸ポケットに仕舞う。

「それとっ!」部屋にいる衛兵全員に聞こえるように大声を張り上げるハリー。

「俺はこれから馬を一頭貰って町へ帰る。追って来るのは構わんが、その場合テメーの身体に大きな風穴が空くと思えよ?」銃をホルスターに仕舞い、部屋を出て行きながら警告する。

 屋敷の外に出ると、もう既に真っ暗になっていたが、昨晩同様闇夜ではなく、月明かりが仄かに辺りを照らしていた。屋敷の右手に馬を繋いでおく厩舎があり、その上に二つの人影が見えた。「言ったそばからこれか…」と、半ば呆れながら背中のダブルバレルショットガンを抜いて、厩舎の屋根に向かって二つの引き金を引いて撃つ。その人影は悲鳴を上げる事もなく、厩舎の屋根から落ちて動かなくなる。

 肩から斜めにかけたベルトからシェルを取り出し、ショットガンの弾を交換するハリー。その前に鐙の着いた馬が衛兵によって用意された。

 何も言わずに馬に跨るハリー。そして悠々と領主の屋敷を後にする。追ってくる者は誰もいなかった……。

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