イズモ国主フユギヌ
町の入り口に近づくと、なんだか人がたくさん集まっているのが見えた。
「ああ!!?」
突然にムル教官が大声をあげた。
「オヤジぃ!」
叫びながら走り出す。なんだ?
「ちょ」
俺たちも走って後を追った。
「オヤジぃ、会いたかったよぉ」
ムル教官が泣いていた。
そのムル教官の前には・・・
北○三郎そっくりなおじさんが立っていた。
「おいらがイズモ国主のフユギヌだ」
短く揃えられた髪、着物っぽい服を着ているが、まさにあの演歌歌手の人とそっくりだ。
そして、うんうんとうなずきながら、人なつっこい満面の笑みを浮かべている。
まわりにいるのは護衛の兵士だろうか?
みんな短髪で揃えているが、そういう決まりでもあるのかな。
そういえばムル教官も同じ髪型だ。
「あんちゃんがオオナムチくんかい?」
「え、ええ」
町の入り口まで出迎えに来てくれたようだ。
イズモ国主だから、かなり偉い人のはずなのに、これだけ礼を尽くされると、どう対応していいかわからないな。
ムル教官はひたすらオヤジぃと連呼しながら号泣している。
「食事を用意してるんだ。おいらと一緒に食べようじゃないか」
気さくな感じで話しかけてくれる。
偉い人とは思えないくらい、とても感じがいい人だ。
というか、むしろ北島○朗にしか見えない。
俺たちはフユギヌさんの後について町に入った。
ムル教官は一生懸命にフユギヌさんに話しかけていて、フユギヌさんは笑顔でうんうんとうなずいている。
町はさすがに国主の居城があるだけあって、道幅も広く大きな建物が並んでいる。
道行く人がみな、フユギヌさんを見ると足を止めておじぎをしている。
どうやらかなり人望が厚いようだ。
たしかにあの物腰や笑顔は、とてつもないカリスマを発散している。
「スセリやミナは来たことがあるの?」
「わたしははじめてです」
ミナも首を振っていた。
「さすがに立派な町だね」
「そうですね。聞いていたよりも立派な町です。イズモ国はワ国の盟主であり、ワ国が急激に版図を広げていますので、町も急速に発展しているようですね」
「あれはなんだろう?」
「文官の訓練所ですね」
ひときわ大きな建物があるので聞いてみると、どうやら役人を養成するための学校のようなものだった。
ヨドエにあった訓練所の文官バージョンってところか。
国土が拡張する中で文官がいくらでも必要だろうし、この町に来れば仕官の道が拓けるのだから、多くの人がこの町を目指して集まるのだろう。
城壁を二回潜り、角を曲がるとフユギヌさんの居城に着いた。
大きなホールに通されて、丸い大きなテーブルを囲んで全員が席に座った。
「今日は来てくれてありがとな」
フユギヌさんは本当に気さくな人だ。
右隣に俺、左隣にムル教官、そして俺の隣にスセリ、その隣がミナだ。
フユギヌさんの後ろには、屈強な兵士が二人、槍を持って立っている。
「オヤジって呼んでくれ! 今夜は無礼講だ!」
フユギヌさんが立ち上がり、運ばれてきた酒の樽を割った。
テマの式典でムル教官がやってたやつだ。
ムル教官はフユギヌさんのことを師匠だと言っていたが、こういうことも習ってるんだな。
フユギヌさんは目を細めてうまそうに酒を飲み、くぅーっと声をあげた。
「ほら、飲みねぇ飲みねぇ」
俺は中学生なんだが、この世界ではお酒は二十歳からではないようだ。
まあ、とても断れる雰囲気ではないし、一杯だけいただこう。
「くぅー」
強い酒だ。
「いいねぇ。いい飲みっぷりだ。ささ、飲みねぇ」
スセリも飲んだのか顔が赤くなっている。
色が白いから赤いのが目立つんだな。
かわいい。
「え? ミナ強いな」
「あい」
ミナはカパカパ飲んでいる。
しかも顔色ひとつ変わらない。
まさかの酒豪?
酒豪の幼女?
なんぞそれ!?
「さあ、食おう!」
食事が運ばれてきた。
「フユギヌさん、いただきます」
「なんだそりゃ? オヤジって呼べよ。な?」
「わ、わかりましたオヤジさん」
オヤジさんは俺の背中をバンバンと叩くと、運ばれてきた料理に手をつけた。
「おにぎりだ!」
俺はおにぎりをおいしそうに食べる神を見た。
ムル教官もおいしそうに食べていたが、オヤジさんはもう別格だ。
ムル教官はこれも習ってたのだろうか?
こんなにおいしそうにおにぎりを食べるなんて、ちょっと想像を絶している。
そこで俺は気づいた。
神話で大国主命の父神の名が天冬衣なのだ。
俺が大国主命だとすると、フユギヌさんをオヤジと呼ぶことは神話と符合することになる。
思わぬところで神話を意識させられることになった。
「オオナムチくん」
「はい」
「国主の仕事がなんだかわかるかい?」
「国主ですか?」
この時代の国主、つまり国王のようなものなんだろうか?
その仕事、わかるようなわからないような、俺はすぐには答えられなかった。
「国主の仕事ってなぁな。民草をしあわせにすることさ。だから、おいらは笑うんだよな」
たしかにオヤジさんの笑顔は最高だ。
ムル教官は感動したのか、隣で号泣している。
「おいらぁ、わかるよ。オオナムチくんは大王の器だ。さあ、今夜は飲もう」
それからは酒宴だった。
腹を割った話もいろいろできたと思う。
オヤジさんが歌を歌ってくれたが、ものすごく上手かった。
なにがよかったのかわからないが、オヤジさんは俺のことを気に入ってくれたようだ。
俺は生命の祝福の効果でほろ酔い程度だったが、オヤジもムル教官も泥酔していた。
スセリはあまり飲まなかったようで、ほんのりと顔を赤くしている。
ミナはかなり飲んでいるのにケロッとしている。
その夜、酒宴は遅くまで続いた。




