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蜂とムカデの試練

 俺たちは早朝に出発して根の国を目指している。


 昨夜の話し合いで、ハッチルートが採用されて、ハッチが先頭を走っている。


「うーひゃっふーい! あたたたたた!」


 ハッチは奇声をあげながら、両手の真剣アメノムラクモノツルギで、障害物となる草木なんかを薙ぎ払ってくれている。

 ただ暴れたいだけだろうけど、進みやすくなるからなにげに助かるな。


 飛んでくる枝葉なんかは、ミナが弾き飛ばしている。

 ミナもまた楽しそうだ。

 身体に似合わぬ大剣を、笑いながら振り回す幼女って、かなりシュールな感じだ。


 ときおり、魔物の破片も飛んできているが、もうこれはなんでもおかまいなしに斬ってるだけだな。


「ハッチさんとミナさんはすごいのですね」


「ああ、そうだな」


 俺とスセリはその後を走っている。


 てか、自然破壊がはなはだしいが、まあ森は深くて木だらけだから、少しくらいは問題ないだろう。


 はっきり言って、すごいいきおいで進んでいる。


 そういえば神話的にはこの先どうなるんだっけ?


 たしか、大国主命は、オオヤビコの助言で根の国のスサノオに会いに行って、宮殿の入り口でスセリ姫と出会い、お互いにひとめぼれで恋に落ちるんだよな。


 そして、その場で俺には未経験な大人のアレ的な契りを交わすのだ。


 それからスセリ姫がスサノオに、美しい神が来られたと大国主命のことを紹介する。

 スサノオは、大国主命に試練を与えるんだよな。


 ひとつめが、蛇の部屋の試練、これはスセリ姫の蛇のヒレで解決する。


 ここまでがすでに実現している感じだな。

 スセリと会うのが早かったのと、スサノオ大王に会ってないのに、蛇の部屋の試練が終わった感じか。

 細かいところで違うところもあるが、大筋的には合致(がっち)してるってところか。


 神話では、次の試練は、(はち)とムカデの試練になっている。

 これもスセリ姫の蜂とムカデのヒレで解決するんだよな。


 それと、スサノオ大王とまだ会っていないから、次に実際に起こる出来事の予測としては、スサノオ大王との謁見か、蜂とムカデの試練かになるか。


 てか、神話の大国主命ってスセリ姫に助けられてばかりだな。


 いや、待てよ。

 スセリとの大人的なアレもまだ起こってないな・・・

 これから、あるのか・・?


 いや、これはキャパ的に無理だ・・・

 俺は大賢者になることが約束された、エリート妖精(フェアリー)なのだ。

 こんなところで道を踏み外すわけにはいかん。


 いや、まてまて。

 俺は結果的に大賢者が確定していただけで、大賢者を目指していたわけではないだろう。

 ふつうにかわいい女の子は好きだし、そういうことにも興味がある。

 チャンスも実力もないとあきらめていただけだ。


 でも、スセリと俺って結婚する話になってんだよな?

 こんな色白で純情(ピュア)な感じのお嬢様と・・・


 てことは、あれか?

 アレなのか?


 アレがあるのか?


 やばい、混乱してきた。


「どうかされたのですか?」


「はうぁ!」


 スセリが声をかけてきた。

 やばい、やましいことを考えてたから顔が赤いかもしれん。

 てか、スセリの顔を見たら、もうこれはダメだ。

 自分でも顔が真っ赤なのがわかる。


「いや、全然だいじょうぶっす! あ、あとどれくらいかな?」


 あからさまに話題をそらした。


「ハッチさんのルートはわたしにはわからないのです」


 朝から二時間くらいかな。

 俺の感覚的には、もう島根県に入ってると思う。


 そういえば、島根県の根って、根の国の根なんだろうか?

 違うかもしれないけど、それっぽいよな。


 すると、頭に日本地図が浮かんだ。


「オートマッピング!?」


「え? なんでしょうか?」


「あ、ごめん、いやなんでもないよ」


 驚いて大きな声が出てしまった。


 叡智(えいち)の祝福の効果だ。

 黒い色の日本地図の中で、通ったところが明るく詳細表示されている。


 洞窟の出口が岡山県新見市、野営をしたのが鳥取県日野郡日南町だったようだ。

 俺の知識をもとにしているから、現代地名が出ているようだ。

 俺が現代で見たことのある日本地図がベースになっているわけか。


 アマや隠れ里、テマやヨドエなんかはそう表示されている。

 俺の得た情報によって、リアルタイムに地図が更新されてる感じだな。

 こいつはすげえぜ!


 現在位置も赤い点で表示されている。

 頭の中にナビがある状態だな。

 人工衛星とかGPSとかないだろうに、どんなテクノロジーなんだ?


 待てよ?

 ツクヨミ様からの祝福だから、月から電波とか出てるとか?


 いや、さすがにそれはないかw


 そして、今いる場所は・・・


 島根県安来市広瀬だな。

 月山(がっさん)って山のふもとのあたりか。


 ここも月か。

 まあ、偶然の一致だろう。


「うわ!」


 先頭のハッチとミナが止まっていた。

 考え事をしていたから、ぶつかりそうになってしまった。


「どうした?」


「着いたよん」


「え? スサノオ大王の宮殿?」


 俺たちは崖みたいなところに立っている。

 ハッチの指差す方向を見ると、岩がむきだしの険しい谷みたいなところを、なにかが歩き回っている。


「ここはわたしの家ではありません」


 スセリがスサノオ大王の宮殿ではないことをおしえてくれた。


「時間早いし寄り道していこうぜ! 害虫駆除(がいちゅうくじょ)だブーン!」


「はぁ?」


「知っています。! オオナムチさん、あれはムカデです」


 スセリが声をあげた。


「ムカデ?」


「はい。戦争で死んだ者たちが、死魔(しま)となって(よみが)り実体化した魔物です」


 目を凝らしてみると、谷で歩き回っているのは、鎧をつけた兵士の亡霊みたいな感じだ。

 てか、こんだけ太陽出てるのに、そこはまったくおかまいなしなのね。

 まあ、魔物が普通にいるわけだから、こういうのがいても普通なのか。


「鎧をつけていて、手足が斬られようと向かってくる様から、ムカデと呼ばれておそれられているのです。ここは宮殿から遠くはありません。こんなところに、これだけの数のムカデが溜まっているなんて・・・」


 スセリの顔が青ざめている。


「ボーナスタイム! ひゃっほいゾーン!」


 ハッチはわくわくした顔だ。

 ミナも張り切っているのがわかる。


 そこで俺は気づいてしまった。


 これって次の試練じゃないかと。


 蜂とムカデの試練じゃなくて、『ハッチ』とムカデの試練なわけだ。


 ハッチとムカデの試練・・・


 おいおい駄洒落じゃねーかよ!


 まあ、神話ルートでクリア確定なわけだから、なんとかなるんだろう。


「んじゃ、行くか!」


「あい」


 さあ、試練のお時間だぜ!

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