第二十七話 親衛隊のみんなありがとう。そしてごめん!
大ホールの入り口で、ルウが待っていてくれた。
「はい、これ。ショーのチケットですよ。持ってないですよね?」
「え?うん」
「それじゃ、親衛隊さんたち、ムイチくんをよろしくね!」
ルウは小さく手を振って、楽屋のほうへ歩いて行った。
「ムイチさんっすね?今夜は気合入れていくっすよ!」
俺はリュックを背負った男に、別室に連れていかれた。
他にも三人の男達がいた。
あれ、見たことある人がいるなと思ったら、ムル教官がいるじゃねーか!
なにしてんのこの人www
「え?なに?」
「今日のライブ、完璧に楽しめるようにするっすよ!」
なんか棒を渡された。
え?これって魔力で光るの?
「まずはやってみせるっすよ!」
すげえ!
こいつらのダンスはキレッキレだ。
「どうっすか?」
「え?これって俺もやるの?」
「当然っす。義務っすよ」
「そこ、手が違うっす」
「ああ、そうっすね。そこで推しメンの名を叫ぶんすよ」
ちょっとなんだかよくわからない特訓だったが、ひとつ言えるのは、ムル教官の技量がすげぇってこと。
なんか、他のオタクっぽい人たちも、ムル教官には敬語であいさつしていた。
あらゆる意味で、この人なんなのよw
そして、大ホールに移動した。
チケットは、一番前の席だった。
ついにはじまる。
開演前の静寂は、いやがおうにも期待を高めてくれる。
ステージを覆っていた、分厚いカーテンが上がっていく。
溜め込んだ期待が、大歓声に変わって放出される。
大ホールを歓声が埋めた。
ステージには光の洪水。
おいおい、これって魔法だろ。
しかも、かなり高等なやつ。
魔道師を何人使ってんだよ。
光の中から50人くらいの少女たちが現れた。
48人かな?
いや、これ以上は踏み込むのはやばい。
とにかく、揃いの衣裳の少女たちが、最高の笑顔で現れた。
赤を貴重にした衣装、ミニスカートはふりふりした感じ。
半そでからは細い腕が出ている。
ひとしきり踊ると、中央の一人を残して全員が座った。
あれ?
立って歌い出したのルウじゃねーか!
ルウのソロパートからスタートなの?
センターなのかよ?
透明度のある伸びやかな歌声。
黒髪のツインテ。
生足に黒のロングブーツ。
アイドルオーラぱねぇ!!
全員が立ち上がって踊り出した。
腕を突き上げ、腰を振り、片足を上げる。
場所を入れ替わりながら、流れるようなキレキレのダンスと歌。
みんな息がぴったり合っている。
おいまて!?
バトゥンさんがいる!!
てか、ミナもいるじゃねーか!
こんなのいつ練習したんだよwww
ホールはもう熱狂の渦だ。
ムル教官も親衛隊のみなさんも、光る棒を振りながら、踊り、そしてコールを入れている。
「ハーイハイハイ!めちゃくちゃかわいい!バトゥン!ハイ!」
推しメンコール。
俺も全力で叫んだ。
叡智の祝福のおかげで、俺は理解も習得も成長も早い。
なんかこの城に来てから、能力の使い方を間違えているような気がするが、もう何も考えられない。
汗だくになって踊り、のどが枯れるほど声援を送った。
会場が一体になるって、こういうことを言うんだな。
親衛隊のみんな、ほんとは最初はバカにしてた。
でも、今なら俺が間違ってたと言える。
すると、突然、ステージ上の少女たちが、左右にまっぷたつに別れた。
スポットライトがセンターに集中する。
そこには・・・
歌い出すヤカミヒメ様がいた。
女神の歌声。
バラードに涙が止まらない。
みんな泣いている。
ただただ、絶え間なく襲いくる感動に身をまかせた。
次はダンスナンバー。
センターはヤカミヒメ様。
歌って踊る女神。
まわりを彩る美少女たち。
そこからはもう記憶が無い。
絶叫と拍手と歓声が入り混じる中、二度のアンコールの後にステージが終わった。
カーテンが閉まった。
親衛隊のみんなと、泣きながら何度も握手をした。
今日のことは忘れないって誓った。
すると、もう一度、カーテンが上がった。
イナバ国王だ!
一転して空気が変わった。
「イナバ国王である。今夜のパーティーはいかがだったであろうか?」
拍手喝采だ。
もちろん俺も全力で拍手をした。
「これより、今日のメインである告白タイムである」
あ、そういやこれって婚活パーティーだったなww
もう全力で忘れてたよw
ステージ上に女子達が並んだ。
ヤカミヒメ様が中央だ。
「さあ、男達よ!ステージに上がり、意中の娘の前に並べ!」
ああ、そういうシステムなのね。
男たちが、それぞれ意中の女子の前に並んだ。
ミナの前に並ぶやつ多いな。
幼女だぞおい。
犯罪だぞ。
ルウやバトゥンさんも人気あるな。
俺か?
もちろんステージに上がる勇気など無いわww
ヤカミヒメ様の前、これはもう圧倒的です。
俺たちイズモチームの男たちも、かなり並んでるっぽいです。
てか、ムル教官がいるじゃねーかww
あんた、引率だろうがww
なにやってんだよ!
そしてあらかた男たちが並び終えると、イナバ国王が厳かに告げた。
「女たちよ!意中の男の手を取れ!」
女子たちが男たちの手を取り、ステージ上にカップルができていく。
会場から拍手が沸き起こる。
静かな祝福の拍手だ。
ルウとミナはごめんなさいをしているな。
よしよし、ちょっと安心した。
バトゥンさんは、見えない。
気になるが、それよりアレだ。
ヤカミヒメ様だよ!!
100人くらいいるんじゃないの?
イケメンもいるし、金持ちそうなのも、強そうなのもいる。
誰を選ぶんだろう?
会場のすべての人が注目している。
ヤカミヒメ様が男たちに向かって歩き出した。
100人くらいいる男たちが割れて道ができる。
誰を選ぶんだろう?
あれ?
ステージの一番前まで来たぞ?
そして、ヤカミヒメ様は、まわりの男たちを見回して言った。
「あなたたちではありません」
落胆の空気。
ムル教官が泣いている。
てか、あんた絶対無理だからw
国王もがっかりした顔だ。
いやあ、まあ素晴らしいステージだった。
すごくいい思い出ができたよ。
最前列中央で、すごくいい席だったしね。
実際、今もステージ上のヤカミヒメ様は、なんと俺の目の前にいる。
あ、目が合った。
やばい、うれしいぞこれは!
そしてヤカミヒメ様は、俺の目を見て言った。
「あなたさまが、わたしを自分のものにしてください」
そして、ステージから俺の胸に向かって飛び降りたのだった。
いろいろとごめんなさい!




