第二十五話 ヤカミヒメ争奪戦開幕
イナバの国の王都ヤカミはでかい町だ。
イナバ国王の居城を中心に広がる町並は、王都の名にふさわしく栄えている。
ヤカミヒメは、イナバ国王の一人娘だ。
早くに王妃を無くした国王に、溺愛されているらしい。
19歳だそうだ。
ヤカミの姫だからヤカミヒメなのかと思ったら、ヤカミヒメの15歳の誕生日に、都の名前をヤカミに変えたらしい。
どんな親バカだよと思ったが、ヤカミヒメは幼い頃より聡明で美しく、求婚する貴族や、その美しさを見てみたいという観光客が増え続けた結果、それによって都がここまで発展したらしい。
現在、俺はイナバ国王の居城にいるわけだが、たしかにここに来るまでに見た町並は、観光都市のそれだった。
町はどこもかしこも人でごったがえしているし、さまざまな服装や人種が入り乱れている感じだ。
店もたくさんあったし、どの店もにぎわっていた。
そういえばヤカミヒメグッズの店とかあったな。
急いでたので入れなかったけど、時間ができたら行ってみたいと思った。
しかし、ヤカミヒメってどんな美しさなんだよ?
都を発展させるほどの集客力を持つ美貌って、一体どんだけなんだよ?
こうして興味を持つ人は多いだろうし、たしかにそんな話を聞いたら見に行ってみたいと思うわな。
でも、こういうのってほとんどの場合は、期待はずれのことが多いよね。
俺もあまり期待しないでおこう。
人の噂って尾ひれがつきやすいし、テレビも写真もインターネットもないこの世界では、話が大きくなりやすいのかもしれない。
ところで、ヤカミヒメの19歳ってのは、この世界では婚期ギリギリらしい。
10歳くらいから嫁ぐこともあるし、平均すると15歳くらいのようだ。
王都発展の源泉なわけだから、むしろ結婚させたくないと思っていたようなのだが、20歳の大台を前にして国王も焦っているらしい。
それで、今日の婚活パーティーが計画されたようだ。
もう、はっきり言っちゃうと、婚活パーティーって規模じゃありませんよ。
ヤカミヒメを筆頭として、女性参加者は約300人。
そして、男性参加者は、36カ国から集まった約2000人。
まあ、36カ国って言っても、ほとんどが村みたいな規模らしいけどね。
参加する豪族の家臣や関係者も含めると、現在この都に1万人規模の人が集まっているらしい。
平時の王都の人口が1万人に満たないらしいから、今は二万人くらい、つまり二倍になってるってわけ。
町の人口を二倍にしちゃう婚活パーティー、ちょっとすごすぎてわけわかんない。
一年以上の準備期間で、王都は特需の真っ只中ですよ。
で、俺が今なにしてるかって?
順番に説明すると、この城に入った俺たちは、まずは大きな控え室に案内された。
俺たちはイズモ代表になるんだけど、かなり待遇がよかった。
ひょっとしたら一番よかったのかもしれない。
他の小さな国から来たようなところは、城の外に臨時に建てられた、仮設小屋みたいなのが控え室だったしね。
そして、控え室ではまず万宝袋から、山のような荷物を出した。
もうイズモのみんなに隠すのは無理だったから、ムル教官に頼んで、万宝袋のことは口止めしてもらった。
みんな正装に着替えて、アクセサリで飾り、髪形を整えてドレスアップした。
女性陣は化粧もバッチリ決めている。
うわ、バトゥンさんきれいだな。
シックなドレスは、大人の女性の色気がある。
俺はコミュ障スキルのひとつ、見ていないように視線をはずしながら、視界のはしっこで覗き見るという、我ながらキモイ技術で堪能させてもらった。
なぜかミナとルウも着替えさせられていた。
ルウは某国民的アイドルグループみたいになってる。
もう狙いすぎ感が半端ないが、キラッキラでやばい。
ごちそうさま。
ミナは幼女パワーが炸裂って感じ。
可憐だし、大きなニーズがあるだろう。
でも、一歩間違えば逮捕される感じだ。
大きなお友達のみなさんは、気をつけてほしい。
みんな、気合が入りまくってる。
ワクワクと緊張で、パーティー開始を待っている様子だ。
俺も着替えて、準備万端だ。
というか、もうすでに働きまくっている。
俺は汗でしめった三角巾を取り替えて、手を洗った。
俺が身にまとう聖衣は、割烹着。
俺の戦場はパーティー会場ではなく厨房だ。
中坊が厨房。
そう、俺の役目は、パーティーの食事を用意する調理補助なのだ。
料理長の指揮により腕をふるう、30人の調理場チームの一員。
そのもっとも下っ端の調理補助が俺だ。
皿洗いとも呼ばれる重要な役目だ。
序列30位だな。
今、誰か一人増えたとしたら、俺は序列31位になる自信がある。
やってやるぜ!
そして、婚活パーティーがはじまった。
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