第二十三話 おひさしぶりねそうかもね
二日目、俺たちはセキガネを出発して、イナバを目指して歩いている。
今日も天気がいい。
海沿いの道をほがらかに歩いている。
「のどかだな」
今日の夕方までには、イナバに到着する予定だ。
昨夜一緒にしばかれていたハッチは、朝起きたらいなくなっていた。
いや、昨日のことは二度と思い出したくない。
まあ、14歳ってのは、黒歴史を量産する年頃だからしかたがないよね。
とりあえずそういうことにしておいてほしい。
今日は朝飯をたくさん食べたから、元気があふれている。
まあ、残飯だったけどね。
もちろん貴族のみなさんの食べ残しですよ。
おっと、これも記憶を封印する必要がある案件です。
もう記憶喪失になりたいよね。
ホント人生っていろいろあるよ。
さて、話題を変えよう。
俺は隊列の最後尾を歩いていて、先頭からはかなり遅れている。
一番うしろって気楽でいいよね。
隣にはミナがテクテクと歩いている。
いや、本当にのどかだ。
日本海がとてもきれいだしね。
って、あれ?
海になにか見える。
「船か?」
ミナが指差した方向に船が浮かんでいて、こちらに向かって進んでいるようだ。
手漕ぎの船だな。
おや、なんか船の上の人が立ち上がったぞ。
こっちに気づいたようで、手を振っている。
なにか叫んでるな。
「助けてぇー!」
「えっ!?」
俺はなにごとかと、海に向かって走った。
砂浜からすぐ入ったところで海の色が濃くなっていて、そこからはかなり水深が深いようだ。
すると、いきなり船が浮き上がった。
いや、海面が盛り上がったのか?
ちがう、船の下になにかがいるようだ。黒くて大きな魚影。
「サメだ!」
海中に船よりでかいサメがいた!
サメが船に噛み付いて持ち上げている。
俺は槍を片手に海に飛び込んだ。
ほどなく船が大破して、乗っていた人が落ちるのが見えた。
乗っていたのは女か!?
船があった場所まであと少し、俺は必死で泳いだ。
女が沈んでいくのが見えて、俺も追うように潜った。
海水が鼻や口に入ってきて、潮の匂いと味がする。
全力で手足を動かして水を掻くが、サメが巨大な口を開けて女の背後から迫っている。
表情のない大きな黒い目が禍々(まがまが)しい。
やばい、間に合うのか?
間一髪のところを、女の手を掴んで引いた。
ギリギリ間に合ったようだ。
ひとまずほっとしながら女を抱えて、水面に向かって泳いだ。
しかし危険が去ったわけではない。
通りすぎたサメが身をひるがえしてくる。
でかいな。10メートル以上はある。
「だらぁッ!」
俺は万宝袋から取り出した槍を、向かってきたサメの頭.の額に突き刺した。
サメは、そのままの勢いで海面を抜けて空中に飛んだ。
「うおっ!」
俺はサメに突き刺さった槍を持ったままで、抱きかかえている女とともに、サメに乗って飛んでいる形だ。
サメはその勢いのまま砂浜に着地した。
砂浜を揺らすように、ものすごい音がした。
地響きに驚いて、みんなが集まってきた。
ひやっとした場面もあったけど、なんとか助けることができた。
「おい、大丈夫か!?」
抱えていた女を見ると、気を失っているようだ。
そして、その女はなんと・・・
隠れ里の巫女ルウだった!!?
わりと早い再会になりました。




