第4話「模擬戦──牙は静かに顕れる」
※本作は、少しだけ長い時を生きる1人の主人公が、かつての仲間を探し求めて、彷徨う物語です。
彼の記憶はどこか朧げで、それでも手放さなかったものだけを頼りに進み続けます。
再会が彼の救いになるのか、それとも──
それはまだ、誰も分かりません。
彼の旅はどこか“間違って”いるかも知れませんね。
ゆっくりと進む物語ですが、温かい目で見て頂ければ幸いです。
───それでは、この物語をお楽しみください。
学園長室に少しの間静寂が走った。
その静寂をかき消すようにフィンが声を上げた。
「お前、さっき自由に測れって言ってたよな?」
セナはフィンの目を見て応える。
「あぁ…確かにそう言った」
フィンはそれを聞いて鋭い目になり、微笑んだ。
「じゃあ、俺と今から模擬戦しろ」
その場にいた者全員は、それを聞いて驚いた。
何故なら、ただの傭兵が英雄のフィンに勝てるはずがないと、感じていたからだ。
セナは何も言わずに、ラウスへ視線だけやる。
ラウスはそれを理解して、呆れたような声で言う。「はぁ──セナ…手加減してくれるか?」
セナはそれを聞いて、何一つ表情を変えずに答えた。
「当たり前だ。もし手加減しなかったら、死んでしまうからな」
フィンはこれを聞いて期待と、舐められていると言う苛立ちで少し機嫌が悪くなっていた。
「そんなに言うなら、今すぐにやろうぜ…?」
ラウスは頭を抱えて、言葉を放った。
「模擬戦を許可する。場所は──訓練場だ」
訓練場に着いたセナは少し驚いたような声でラウスに話しかける。
「おい、なんでこんな人がいるんだ?」
ラウスはため息をつきながら答えた。「英雄と新たに来た臨時講師の模擬戦だ。見物人が集まるのは当然だろう」
「おそらく、ナリルかフィリウスが広めたんだろう。」
観客席には、すでに教師や生徒たちが集まり始めていた。そこにはさっきまで一緒にいた、英雄達も観客席に並ぶ。だが、ざわめきの中心にあるのは──フィンではなかった。
「誰だ、あの男…」「ラウス様と一緒にいたってことは関係者か?」「いや、どう見てもただの傭兵だろ…」
値踏みするような視線が、セナに突き刺さる。
セナはそれを一瞥し、興味なさげに視線を外した。
セナは無言のまま訓練場中央へ歩み出る。
それを迎えるように、フィンが口を開いた。
「おい…一応言っとくが、俺は本気で行くぞ」
「そうじゃないと、意味がないだろう」
セナは不思議そうな声で応える。
訓練場に、音が消えた。
誰もが息を止める。
観戦する教師たちの視線が、一点に集まっていた。
中央に立つのは、二人。
火を宿す英雄、フィン・ランバード。そして──無感情に立つ、傭兵セナ・ラーファリア。
ラウスが2人の間に来て、確認をしにくる。
「ルールは単純だ。降参か、戦闘不能で終了。……それで双方いいな?」
ラウスの声が響く。
「ああ、問題ねぇよ」「……問題ない」
短いやり取りの直後。
「──開始」
ラウスが放ったその一言で、空気が裂けた。
「行くぞッ!」
フィンが地を蹴る。
一瞬で間合いを詰め、炎を纏った剣を振り抜いた。
速い。
剣が炎を纏いフィンが言葉を紡いだ。
「烈火一閃…!」
炎の斬撃がセナの眼前までくる。
並の“人間”なら、反応すらできない速度。
だが──
次の瞬間、セナは布に覆われた武器を静かに持ち上げた。
──そして、セナの武器に斬撃が触れた瞬間、フィンの炎の斬撃は消えてしまった。
セナは一歩も動かず、その斬撃を受け止めていた。
いや、正確には違う。
受け止めたのではない。
──武器が、“魔法を喰っていた”。
フィンの剣に宿る炎が、揺らぐ。
「……は?」
次の瞬間。
炎が、消えた。
「魔力……喰ってんのか?」
フィンの声に、わずかな動揺が混じる。
セナは答えない。
炎は消えた。だが、布だけが焼け落ちていく
そしてセナの武器はその姿を顕す。
フィンは驚いたような声でセナに話しかけた。
「は?…なんだお前のその武器。」
驚くのも無理はないだろう。それは槍のように長く、大剣の刃を持ち、先端には砲身が付いている異形の武器だった。
中央には、何かを装填するための機構がある。
そしてセナは鞄に手を入れて、ある物を取り出した。
──それはただのガラス瓶だった。だがセナはそれを武器のスロットに一本入れ、言葉を紡いだ。
「──装填。」
見えない何かが、武器へと流れ込む。
先ほどまでフィンが纏っていた炎。それが、そのまま“弾”として蓄えられていく。
「……なるほどな。面白ぇ」
フィンが笑う。
ならば、と言わんばかりに魔力を高めた。
「喰えるもんなら、喰ってみろよッ!!」
爆ぜる炎。
先ほどとは比較にならない熱量が、剣に宿る。
そのまま、連撃。
上段、横薙ぎ、突き。
間断のない攻撃が、セナへと襲いかかる。
だが。
全てが、届かない。
ガギン、ギィン、キィン──
鋭い金属音の中に、微かな異音が混ざる。
炎が削れていく音。
セナは一歩も退かない。
ただ受け、
ただ吸う。
そして。
瓶が満ちる。
「──放つ」
小さく呟いた。
武器が、僅かに震える。
「放撃──炎焦」
──次の瞬間。
轟音。
圧縮された炎が、一閃となって解き放たれた。
「ッ──!?」
フィンの体が、大きく弾かれる。
防御は間に合った。
だが、衝撃までは殺しきれない。
数歩、いや数メートル。
地面を削りながら、後退する。
「は、はは……マジかよ」
口元を歪めるフィン。
その目は、完全に“戦士”のそれだった。
「いいじゃねぇか……!」
再び、炎が燃え上がる。
先ほどよりも、さらに濃く。
「今度は、こっちが本気で行くぞ」
空気が、変わる。
フィンはゆっくりと剣を構えた。
「行くぞ」
次の瞬間、地面を蹴り、一直線に距離を詰める。
速い。
だが──セナは、動かない。
ただ、その動きを“見ている”。
フィンの剣が振り下ろされる瞬間。
セナは僅かに身体を傾け、それを最小限の動きで躱した。
風が裂ける音だけが、遅れて響く。
「……っ!」
フィンの目が見開かれる。
今の一撃は、決して軽いものではない。
それを、ここまで“余裕を持って”避けられるとは思っていなかった。
だが、止まらない。
そのまま連撃へと移行する。
斬撃、斬撃、斬撃。
速度を上げ、間合いを詰め、畳み掛ける。
しかし──
「遅いな」
セナの低い声が、静かに落ちた。
その言葉と同時に、セナの手に握られていた武器が、僅かに持ち上がる。
カチリ、と乾いた音。
空の瓶が装填される。
フィンの剣が再び迫る、その瞬間。
セナは一歩踏み出した。
避けるのではない。
“踏み込んだ”。
刃と刃が交差する。
──が。
ぶつかる寸前。
セナの武器の銃口が、フィンの剣へと向けられた。
「装填完了」
次の瞬間。
フィンの剣に纏っていた炎が、音もなく“吸われた”。
「……は?」
一瞬の空白。
理解が追いつかない。
炎が消えた?
いや違う。
奪われた。
その一瞬の隙。
セナは引き金を引いた。
「──放撃…焔」
轟音。
圧縮された魔力が、至近距離で解き放たれる。
フィンの身体が、衝撃と共に大きく後方へ弾き飛ばされた。
地面を滑り、砂煙が舞う。
静寂。
誰も、言葉を発さない。
やがて――
フィンがゆっくりと立ち上がる。
口元を拭い、笑った。
「……なるほどな」
その目には、さっきまでの余裕はない。
純粋な戦意と、理解できないものへの興奮が宿っていた。
「もう一回だ」
そう言って、再び構える。
だが──
「やめておけ」
セナの声が、それを止めた。
フィンの動きが止まる。
「これ以上やれば、お前は自分の限界を超えるだろ」
淡々とした声。
だがその言葉には、確信があった。
「そして俺も、手加減ができなくなる」
その一言で、空気が変わる。
周囲の教師たちが、息を呑んだ。
冗談ではない。
この男は、本気で言って
フィンは数秒、セナを見つめ─けど
そして、剣を下ろした。
「……今回は、俺の負けだ」
誰一人として、歓声を上げなかった。
それが、この戦いの異常さを物語っていた。だが観客は一足遅れて、その言葉に訓練場がざわめく。
英雄が、認めた。
目の前の“傭兵”を。
セナは何も言わず、武器を下ろす。
その横顔には、勝利の色はなかった。
ただ──
どこか、遠くを見るような目をしていた。
第4話ご視聴いただきありがとうございました。
さて第4話は主にセナとフィンの戦闘でしたが、どうだったでしょうか。
英雄であるフィンに勝つセナ、そして謎の武器と、装填と放撃これらは一体なんなのでしょうね?
後空白が多いところと少ないところがあるのは、深い意味はありません




