第3話「重なる記憶」
※本作は、少しだけ長い時を生きる1人の主人公が、かつての仲間を探し求めて、彷徨う物語です。
彼の記憶はどこか朧げで、それでも手放さなかったものだけを頼りに進み続けます。
再会が彼の救いになるのか、それとも──
それはまだ、誰も分かりません。
彼の旅はどこか“間違って”いるかも知れませんね。
ゆっくりと進む物語ですが、温かい目で見て頂ければ幸いです。
───それでは、この物語をお楽しみください。
シエルが学園長室に入った後セナは扉の前に立っていた。
セナは、開ける前からすでに分かっていた。
この先に、“何かいる”──
胸の奥が、ざわつく。
次の瞬間。風が吹く。
セナの頭にノイズが走る。
その奥で、別の光景が重なった。
崩れた空。血で染まった地面と風の匂い。
「セナ──」
そこで、切れる。
呼ばれていた。
──確かに、誰かに。
その声と、今の声が——ほんの一瞬だけ重なった。
「……っ」
セナはわずかに目を細める。
錯覚だ。
そう、無理矢理片付けようとする。
学園長室からラウスの声が聞こえた。
「入れ。」
そのまま、重厚な扉を押し開けた。
学園長室は異常なほどに静かだった。
高い天井。整然と並ぶ書棚。そして、その中心に立つ男。
ラウス・エルグレイン。
「来たか」
その声は落ち着いていた。
まるで、最初からこうなると知っていたように。
「紹介しよう」
ラウスは軽く手を上げる。
その瞬間、扉の奥から気配が増える。
セナの視線が動いた。
そこには——
“英雄”と呼ばれる者たちがいた。
最初に一歩前へ出たのは、炎のような男だった。
「フィン・ランバードだ。戦闘担当だな、よろしく」
明るいが、目は鋭い。
(強い)
一目で分かる。
(……こいつは)
“知っている強さ”だ。
だが、思い出せない。
次に、静かに頭を下げた女。
「スイ・リンファ。実技補助と潜入任務担当」
視線は柔らかいが、隙がない。
聖職者のローブを着た男が続く。
「ソルド・エイレスです。治癒と支援魔術を担当しています」
穏やかだが、芯が強い。
大きな影が一歩前に出る。
「ウェイラス・ドーラだ。守るのは得意だ、任せろ」
低い声、揺るがない存在感。
雷のように鋭い空気。
「ナリル・イナリス。実戦指導だ」
短い言葉。視線は常に周囲を測っている。
軽い調子で笑う男。
「フィリウス・ユーティア。授業は退屈にしないようにするよ」
空気を和らげるようで、どこか読めない。
そして、重い気配。
「エレウス・ロードス……戦闘訓練担当だ」
一言だけ。圧が違う。
静かな声。
「アルレア・フリスト。魔術理論と応用」
冷静で、観察する目をしている。
ゆるく笑う影。
「ナリティ・ウラスナ。まぁ適当によろしく」
掴めない存在。
最後に、明るくシエルが話しかける。
「一応もう一回自己紹介するね!私はシエル・ファルリア。担当教科は遠距離実技を担当してるよ、よろしく〜」
全員が名乗り終えたあと。
視線が、セナに集まる。
ラウスが言う。
「こいつが今日からの臨時講師だ」
短い説明。
それだけだった。
沈黙。
一瞬だけ空気が重くなる。
フィンが先に口を開く。
「んで、お前」
フィンが一歩前に出る。
そして、セナが顔を少し向ける。
「どれぐらいの強さなんだ?」
空気が、僅かに張りつめる。
──試されている。
セナは、短く答えた。
「さあな」
たったそれだけ。
僅かな沈黙。
セナは静かに言葉を紡いだ。
「測るなら、好きに測れ」
ナリルが目を細める。
「一応聞いとくが、戦場経験は?」
「ある」
即答。
ウェイラスが腕を組む。
「ふーん……見た目は細いがな」
セナは何も反応しない。
ただ、無意識に視線がシエルに向く。
その時、一瞬だけ止まる。
そして
——また“あの感覚”。
さっきより強く。
その瞬間──
世界が、重なる。
風。
崩れた空。
倒れる影。
「……また、助けられたね」
知らないはずの言葉。
なのに——
胸が、痛い。
ラウスは、そのセナの様子を見ていた。
そして誰にも聞こえないような声で、静かに呟く。
「──やはり、な」
それは誰に向けた言葉でもない。
ラウスは少し暗い表情から元に戻った。
「自己紹介は済んだな」
「今日からここが、お前の仕事場だ」
セナは静かに頷く。だが何も答えない。
その代わりにただ一度だけ、全員を見る。
そして——
その中にいる“何か”を探すように、目を細めた。
(俺は、何を探しているんだ?)
それはセナ自身にもわからない。
だが──
ラウスのいう通り
(ここに来たことは、間違っていない)
そういう理由もない確信だけが、残っていた。
第3話ご視聴ありがとうございました。第3話ではセナが英雄達と顔を合わせる話でした。まだ戦闘がないですが次回第4話では戦闘シーンがあります。お楽しみに。




