【第160話】高級な肉
暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!
「なんかいまいち理解できない」など「話無理矢理すぎだろ」など思うかもしれませんが、そこはご愛嬌ということで!
メイト・マルマロン
アクロ・アイト
オリビエ・ペル
メアリー・フォレスト・レンズ
ライカ
ヨイ
ゼレン・フォレスト・レンズ
リメア・フォレスト・レンズ
貴族のシンとその騎士達は、街の外にある、ここよりかは幾分かマシな宿に宿泊するようで、今日は解散ということになった。ゼレンは、シンとリメアがちゃっかり明日の待ち合わせ場所を決めていたことを見逃さなかった。
彼らと別れた後、ゼレンとリメアとヨイは家路に着いていた。盗賊によりぐちゃぐちゃになってしまった昼飯はシン達が立て替えてくれたらしい。
「まさか我が家でこんな肉が食べられるなんて……夢じゃないよね?」
リメアはシンから頂戴した硬貨を日光で輝かさせながら、ゼレンが持つ、袋に入る高等な牛肉を見た。
「いやー、一日で食べちゃうの勿体無いよねー、最低一週間は持つよねそれ? ……、お兄ちゃん?」
「………、え? あ、あぁそうだな、美味しそうなこれ」
ゼレンは惚けた様子でふらふらと歩きながら、ボソボソと弱々しい声で乾笑いした。
「どうしたの? いつもの汚いお兄ちゃんならもっと喜ぶと思うけど」
「そういう気分じゃねーんだ……はぁ」
ゼレンは失恋した男子校生ばりに持ち込んだ様子で、盛大にため息を吐いた。
「あ? ……あーそう?」
リメアはめんどくさそうに眉を寄せた後、まぁいいかと放置することにした。暫しの沈黙、人通りが少なくなってきて、ザクザクと土道を歩く音がやけに耳に聞こえた。
「はぁぁ〜……」
ゼレンは再び壮大にため息を吐き出した。
今日も秋晴れ、しかし太陽は少し雲隠れしていて、まま肌寒い。今日も街は健在である。
――――――――――――――――――――
「はいお肉。残せるように切っといたから」
そう言って机に並べられたのは、小皿に乗った親指サイズの肉、といつも通りの食パン。買った時は両手で持つほどの大きさはあったのに随分節約するもんだ。
「……」
ヨイはコクっと頷いてから、皿を自分の近くに持ってくる。ほわっと肉肉しい匂いが鼻に充満する。思わず涎が出て、ゴクっと飲み込んだ。
これがゼレンがいつしか言っていた空腹感のスパイスというやつか……。
「……」
と、こんな時いつもなら誰よりもはしゃぐゼレンが神妙な面持ちでリメアを見据えていたことに気がつく。
「なぁ、リメア…………本気なのか」
低い声音で訊いたゼレン。その声音から微量の憤慨の念を感じる。愛妹がどこぞの男に取られそうになっているなら感情は錯綜する。当然のことである。しかしリメアはキョトンと呆けた後、答えた。
「本気なわけないじゃん、何言ってんのお兄ちゃん」
「そうか……じゃあ俺は今からあのクソガキを殺してく――……ってえ?」
剣を掴み上げスッと立ち上がったゼレンだったが、聞き間違いかと聞き返した。
「だから嘘だよ、嘘。あんなポッと出のやつに惚れるわけないじゃん。何言ってんのお兄ちゃん」
「あ、え? えぁーと、つまりどうゆーこと?」
言葉がうまく紡げないゼレンは、タジタジになりながら説明求む。リメアはパクと肉を齧ってから答える。
「分かってなかったの? んん……じゃあ一から説明するね――ッうまぁ!!」
涙が溢れるほど感動したリメアは、勿体無いなんて忘れて一口で肉を頬張った。「うんまぁ〜〜!」と頬に手を当て感嘆の声を漏らした。
「そ、それで?」
ゼレンは先ほどの質問を繰り返した。リメアは正気に戻り、涙を指でチョンチョンと拭いながら呼吸を整えて語り出した。
「あ、あぁ……。まずね、我が家に伝わる家訓に『好機逃すべからず』ってあるよね?」
「いや初耳なんだけど」
「今作ったから、とにかくあるの! それでね、あれは好機だったんだよ、私がもしあいつの彼女……はたまたお婿さんになればその恩恵が受けられる。つまりお金、大金が手に入るんだよ!!」
腰に手を当ててドーンと自信満々に言い切ったリメアは、ふふ〜ん、どう? と聞くように二人の反応を待つ。
「…………」
「……」
絶句するゼレンと、見向きもせずパンを頬張るヨイ。
「反応が薄い!!」
「待て! 待て待て待てぃ!! ゆるさねぇぞお兄ちゃんは! リメアがあのクソガキのかッ、かかかかかkk彼女……? オムコサン? ――考えただけで殺人衝動がッ、クソッ収まれ!!」
ゼレンはグググと剣を握る腕を抑えて唸る。リメアは冷めた視線で受け流しつつ続きが語る。
「だから嘘だよ、貴族と縁を作っといてデメリットもないだろうし、良い感じに行けば貢いでもらえそうじゃん?」
考え方が下衆い。そう思うのはヨイだけだった。
「……そうか、まぁそれを聞いて少しは安心したよ。でも大丈夫だからそんな身を売るような行為やめろ、金は俺がなんとかするから」
いつの間にやら衝動は収まったのか、ゼレンは胸を撫で下ろしなが言う。しかしリメアは口をむーと尖らして否定的だった。
「な、なんだよ?」
「お兄ちゃん、私だってできることはしたいの、ママを早く治してあげたいの! 私だって……頑張れるもん」
「……けどお前はまだ子供だし……」
「で、でもお兄ちゃんだって子供でしょ? この生活はもう悠長なこと言ってられないと思う、子供が毎日働いて、毎日こんな物しか食べられないなんておかしいよ……」
リメアは悲しそうに目を伏せて、ヘナヘナに湿気っている食パンを見つめた。
リメアはずっとこの不憫な生活に疑念を感じていた。こんなの間違っている、なぜ自分たちはこんなに辛いのだろうと。
そんな中、兄はまるで問題ないかのように毎日明るく働く。普通より幸せそうに笑う。それが不思議でしょうがなかった。
「世界が狂ってるなら、私たちが少しくらい道を踏み外しても赦されるはずだよ」
リメアは反応を窺い、上目遣いでチラッとゼレンを見る。部屋に重苦しい沈黙が流れる。ヨイは構わずパンを食べる。
「……」
ゼレンは目を瞑り何かを逡巡した後、フォークを掴み、肉に刺した。
「お兄ちゃん……?」
リメアの呟きに答えずに、肉を口に放り入れた。モグモグとその旨さを十分に味わった後、ゴクリと豪快に飲み込んだ。
「……分かった……、でも絶対に無理すんなよ」
その言葉はいつものゼレンの声で、慕われる優しい声音だった。リメアはパァーと顔を明るくし、「うん!」と頷いた。
「でもあれだからな!? 彼女とかは認めてねぇからな何があってもそこは譲らん!!!! もしあいつが狼でいきなり襲ってきたら……くっ、殺す!!」
「お兄ちゃん過保護気持ち悪い……だいじょーぶだって! 私だよ? そんなに心配?」
「――そうだな、だよな! お前だもんな?」
ゼレンは謎の説得に納得した。
「そーそー! 俗に言うハニートラップって言うの? 知らんけど。任せておいて!」
「まぁアレだ、あいつが本当にお前の彼氏に相応しいかは慎重な審査が必要だな……、明日デートなんだろ?」
「うん、街の案内という名のデートかな、多分」
頬にちょんと指を当てて思い出すリメア。ゼレンはニヤッと笑って指を立てた。
「明日のデート、そこであいつの男っぷりを観察させてもらうぜ。それてお前に似合う男が判断してやる。もし似合わないと判断した場合は即ギリだ即ギリ、こんな作戦やめろ」
「は、はぁ……、私が本当に惚れた場合はどうするの?」
「――――」
当然の問いにゼレンは息を詰まらせた。その様子を見てリメアはクスッと笑った。
「ねーねーどーするのー? 私がお兄ちゃん見捨ててシンと添い遂げる気になったらどーするー?」
机に身を乗り出して意地悪そうにニヤニヤ笑うリメアは、下からゼレンの顔を覗き見る。
「もしそうなったら―――死ぬ」
「わーわー!! ジョーダンジョーダンだからぁ!!」
すごい勢いで剣を引き抜いたゼレンは喉元に刀身を当てた。リメアは急いでそれを止めようと椅子から立ち上がった。
微笑ましい団欒風景を眺めながら、ヨイは蚊帳の外感を感じながら、いつのまにか昼飯を食べ終えていた。
ご精読ありがとうございました。
毎週平日の朝に投稿してくので次回もぜひ読んでください。
シャス。




