【第158話】鈍い音と血生臭さ
暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!
「なんかいまいち理解できない」など「話無理矢理すぎだろ」など思うかもしれませんが、そこはご愛嬌ということで!
メイト・マルマロン
アクロ・アイト
オリビエ・ペル
メアリー・フォレスト・レンズ
ライカ
ヨイ
ゼレン・フォレスト・レンズ
リメア・フォレスト・レンズ
『頭も良くない、剣も魔法もできない……、お前なんて産まなきゃ良かった……』
遠く淡い記憶。昔、お母様に言われたことがあった。当時の僕にはよく意味が分からなくて気にしなかったけど、今思えばとても酷いことを言われていた。
でも僕は挫けない。お兄様達がみんな剣や魔法の才能があるなら僕にだってあるはずなんだから。
『努力すれば、必ずいつか、報われる』
そう信じて今までやってきた。これからも頑張る気でいる。
それでも、やっぱり現実は辛くて、僕にできないことはごまんとある。実際、僕は彼女を助けられなかった。
「――様ッ!」
あの時、彼女を見た時、僕は直感したんだ。
「――ン様!!」
――君は僕が守る……、
「シン様ッ、起きてください!!」
「――ッ!?」
ガバッと体を起こしたシン。高い壁に囲まれた視界、空は青く澄んでいた。一瞬ボーとした後、目の前にいる騎士に視線をやる。
「ディラさん……? ……あー……、ディラさん!!? 僕は一体!?」
「大丈夫ですシン様! 今すぐに医者に連れて行きますから安心してください」
「え? あ、え? ……痛くない?」
「え?」
シンは身体の違和感に驚いた様子で手を眺めて呟いた。騎士はそれを見て、身体の傷を確認する。
「……! 傷が塞がっている!? 一体どうして?」
身体に開いたはずの傷は、どういうわけか血も止まり、全て完治していた。
――――――――――――――――――――
「おいこら逃げんなや!! はぁ、責任から逃れるな!! ……はぁ、いやマジでッ……逃げ足速くねぇ!? はぁ」
狭い路地をネズミみたいにチョロチョロ逃げまくるこの命より大事な妹を盗んだ盗賊を追いかけるゼレン。この入り組んだ路地道……慣れてるあいつに分がある! くそっ!
「助けてお兄ちゃ――!」
どこからか聞こえてくる妹の声だけを頼りに盗賊を追う。姿を捉えても角を曲がればいなくなる。ちょこまかとうざったい。
「クソォ、クッソぉ!!」
このままじゃ、リメアが奴隷に売られちまう!!
「俺の妹を返せー!!」
その咆哮は囲まれ建物に反響して、やがて消えるだけだった。
「ちょっと! あんた変なところ触んないでよ!」
ゼレンが追う盗賊は、風のように速い足取りで、知り尽くした路地を走り回っていた。
「この路地で、俺を捉えられるやつはいねぇ。全てを知り尽くしてるこの俺の前ではな……」
「ちょっと!! 変なところ触んないでって!!」
「このまま完全に撒いた後、こいつを隣町まで運んで……、仲間はどうするか……」
「ちょっと!!!! 私の胸ばっか触んないで!!」
「うっせぇな触ってねぇだろ!!?」
何こいつ、肝座りすぎだろ怖いわ。なんかムッスーってしてるし。この気の強い感じ、育てるの苦労しそうだな……。
ま、まぁいい、とりあえず撒けたっぽいしそろそろいいだろう。あそこを曲がれば通りに出られる。そのまま馬車を拾って――。
盗賊が今後の予定を考えながら曲がり角を曲がった瞬間、その足は止められた。
「――ッ、……お前は」
通りに出るための道には、一人、黒髪の青年が立っていた。逆光で顔は見えないがシルエットから剣を腰に携えているのは理解した。
「……」
そいつは何かするわけでもなく、沈黙したまま立ち塞がるだけだった。
「ヨイ……」
すると、ガキが呟いた。知り合いとなるとこいつもゼレンの仲間か。たった一人、問題ない。排除する!
「退け!」
盗賊は腰から小刀を引き抜きながら、ヨイに向かって一直線に駆け出した。その生々しい鋭利さにリメアはハッと本能的に叫んだ。
「ヨイ! 危ない逃げて!!」
ヨイにとって人間の感情は理解できないが、その他は全て手に取るように分かる。筋肉の変動や関節の可動域、一つ一つの呼吸の速度、瞬きのタイミングなど。
それどころではない。風や空気の流れ。音の波と反射。物理法則の全て。直線上での時間の流れ。
「……」
全部分かる。だから最初から彼がここに来ることも分かっていた。
ヨイは無機質的な真顔のまま、剣を掴む。まるで家に帰るような自然な足取りで、一歩踏み出した。
――――――――――――――――――――
「はぁ、はぁ、はぁ……――ッ」
やっと追いついたゼレンが曲がり角から現れた瞬間この状況を見て息を飲んだ。
「ヨイ……?」
リメアは怯えた様子で尻餅をついていた。その視線の先には、ヨイが剣を持ったまま、盗賊の前に立っていた。
当の盗賊といえば、血塗れで傷だらけ。ヒーヒーとか細い呼吸音が微かに聞こえた。瀕死、死んでしまう寸前だった。
「……」
服を盗賊の返り血で汚したヨイは、そんな盗賊を冷たい目で眺めた後、剣を掲げた。そして、躊躇なく、振り下ろ――
「待て!!!」
そうとしたが、ゼレンの制止によりヨイは手を止めた。ヨイはゼレンが到着したことを確認すると、血が滴る刀身をぶん! と血を振り飛ばし、鞘に仕舞った。
「……」
その光景に圧巻されてしまったゼレンは、暫し呆けた後ハッと我に返り、リメアの肩を抱いた。
「お兄ちゃん……」
「待たせたなリメア……もう大丈夫だ」
「……うん、分かってた。お兄ちゃんなら必ず助けてくれるって……まぁついでにヨイも」
リメアは恥ずかしそうに視線を逸らして付け足した。ゼレンは安心しつつリメアを立たせた後、悲しそうに眉を寄せ、盗賊の前に膝をつく。
「ヨイ、お前先回りしてたのか? それともたまたまか?」
「……」
答えないヨイの代わりに、リメアに視線を移す。リメアはその視線で問われていることを理解して答える。
「ヨイは、先に立ってた。多分……分かってたと、思う、けど……」
確認するようにチラチラヨイを窺いながら言った。チラッと後ろ目で真偽を問うたゼレンにヨイはコクっと頷き肯定した。
「そうか」
ゼレンは短く言って、盗賊に触れた。すると盗賊の身体は淡い光に包まれた。傷は塞がり血が止まる。回復魔法により全身の傷が治ると、ゼレンは手を放し、立ち上がった。
「……」
どうやらゼレンにとってあまり良い選択ではなかったようだ、敵でさえも傷つけないというプライドに反したのか……。ヨイが考えていると、ゼレンは振り返りパッと笑った。
「サンキューなヨイ、助かったぜ。……でも、殺すのはダメだぞ、それだとこいつらと同じになっちまうからな。それに、人を殺していい気はしないだろ?」
ゼレンが初めて、ヨイに何かを強制した気がした。それほど、殺生は避けたいのだろう。別にニンゲン一人殺したくらいで何も感じないけど。まぁそういう点で言えば良い気はしないな、悪い気もしない。
「とりあえずこいつ持ってくか……」
ゼレンは盗賊を肩に背負い、ずり落ちそうになるとグッと背負い直した。これも分かっていたヨイは当然の如くゼレンの後に続いた。
「……」
リメアは振り返り、地面に残った盗賊の血溜まりと、鼻に残る血の匂いと、耳に残る生々しい音と、脳裏に焼きつく光景を思い出す。
あの時のヨイは、眉一つ動かさず透明のような瞳で、盗賊から視線を逸らすことなく見つめ続けたまま、殴っていた。
あの時、あの時だけは。ヨイが人間とは思えなかった。アレは何か……超越した何かだった。そこに『心』なんてなかった。
リメアは底なしの恐怖に後ろ髪が引かれる思いで、二人の後を追うことにした。
ご精読ありがとうございました。
毎週平日の朝に投稿してくので次回もぜひ読んでください。
シャス。




