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【完結】異世界唯一の透明人間、好き放題生きていく。  作者: 秋田
【第3章】フォレスト・レンズ家編

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155/264

【第155話】始まりの終わり

暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!

「なんかいまいち理解できない」など「話無理矢理すぎだろ」など思うかもしれませんが、そこはご愛嬌ということで!


メイト・マルマロン

アクロ・アイト

オリビエ・ペル

メアリー・フォレスト・レンズ

ライカ


ヨイ

ゼレン・フォレスト・レンズ

リメア・フォレスト・レンズ

「仕事は大体畑仕事、他にも商店の手伝いとか建物造りの手伝いとか雑草除去とか獣狩りとか糸をクルクルするやつとか……まぁいろいろやってる」

 日も暮れ、空はすっかり錆びた銅のように紺色(こんいろ)に染まっている。薄暗い道を並んで歩くゼレンとヨイ。その行き先はぜレンが先刻言っていた。

『仕事終わりは剣術の稽古に行く』

 ゼレンは(やまい)の母を助けるべく金を稼いでいる。その生活は充実しているとは言いがたく、むしろだいぶ我慢を極めている。ほぼ毎日働き詰めの生活をしているおかげで、資金は貯まっているらしいがまだ病を治せる病院に入れるほど貯まっていないそうだ。

 もともと中規模な街の中、その(すみ)のトタンの古屋に妹とともに住んでいるゼレン。

「……」

 彼はどうしてこんな苦しい生活を続けられるのか。それは世界が美しいものと考えているから。苦しめば苦しかった分、見返りがあるはずと、そう信じているから。

『世界はそういう風にできている』

 なにも証拠もない根も葉もない自論。しかしゼレンはそれをあたかも事実かのように語る。それほど現実を楽観視しているのか、もしくはそう盲信することで正気を保っているのか。

 自分はそう造られているとは思わないが。

 なんて分析している間に、二人は山に入っていた。整備の行き届いていない砂利道を歩くこと数分、開けた緑地に出る。

 真っ暗な広場は、星がキラキラと瞬く夜空によりほんのり照らされているだけだった。

「アレだよ、俺の練習台。あんなもんしかないから」

 そう言って指差したのは、広場の中央にあった大きな岩。その表面には削れたような切り傷が無数にあった。

「騎士になるにはやっぱ練習は大事でしょ? この時間なら外にいるやつなんて山賊とか盗賊だけだし人がいないからゆっくり鍛錬(たんれん)に励める」

 山賊とから盗賊がいるから人がいないのだが、ゼレンは気にすることなく一本の木の下に向かう。どうやら警戒心はないらしい。

「ほら、ここに埋めてあんだよ剣、昔のたれ死んでた山賊から奪ったやつだけど」

 木の下で草や土を軽く退けると、地中に長方形の箱が埋まっていた。中にはゼレンの言っていた剣が入っていた。

「街中で剣持ってるのもアレだからな〜。さて、やりますか〜」

 剣をブンブン振りながら体をほぐしていくゼレン。その剣は錆と傷だらけで、今にも折れてしまいそうだった。

「……」

「お前はそこで見てろ、まずは俺が手本を見せてやる」

 なぜかヨイもやる流れになっていた。理解不能により沈黙を返したヨイを無視してゼレンは岩の前に立ち、剣を構えた。

「すぅー……――カッ!!」

 ゼレンは息を細く吸い込んだ後、思いっきり剣を振り切った。剣はカーンと硬い音を立てて岩にぶつかった。

「と、このように体を回転させつつ剣を振る、ともすればこのように岩にヒビが入る」

 ゼレンは切り込んだ箇所を指差して自慢げに胸を逸らして言った。

 しかし岩は無傷で、むしろ剣の方がポロポロと崩れていた。

「……ほーん、まぁアレだ、剣が剣なら岩は切れてたからな?」

 誤魔化すように剣をヨイから隠したゼレン。そう言うが岩に一度でも切れた跡はなかった。

「ううん……ま、まぁそれ、とりあえずヨイもやってみろよ、俺みたいに」

 ゼレンは真偽を疑っていたヨイに、詮索(せんさく)はよせ、と言うようにポンと肩を叩いた。ヨイは剣を受け取ると、渋々岩の前に立つ。

 剣技、もちろんやったことはない。

「……」

 ヨイは少し悩んだ後、棒立ちのまま剣を真上に掲げた。ゼレンはその様子を隣で真剣に見つめる。

「……ほう、その構えからどうやって――」

 ゼレンが師匠ぶった口調で呟いた瞬間、ヨイは剣を振り下ろした。なにかするわけでもなく、垂直に岩に叩きつけた。

 カーン……、と(むな)しい音が山に響く。

「………、ぶっはっはっは!! おまっ! それ〜!!!!」

 何が面白いのか一瞬硬直した後、笑い転げるゼレン。ヨイは少しムッとして剣をゼレンに差し返す。相変わらず真顔。

「ヒーヒー、あっ、いやいや悪い! その意外でッ……くく、そんなかっこいいのに無様すぎてさー!」

 笑っている理由が最低すぎる。涙すら溜めて爆笑するゼレンは、暫く悶絶した後、次第に収まってきたのか体を起こした。

「……ふぅー! ……まぁ初めてだしな、仕方ねぇな。俺も笑ったし最高だったぜ」

 グッと親指を立てるゼレンはキラリとウインクした。ヨイはそれを避けつつ、剣をもう一度差し返す。

「……」

「あ、悪い悪い……ようし! じゃあ今日から特訓だな! じゃあなくなった俺の分の剣を手に入れないとな……」

 またもや勝手に話を進めるゼレンは顎に手をやりムムムと唸っている。なぜ剣を受け取らないのか。

 と、その時。

 ぐぅぅぅ……。

 空洞に響くような音が二人の耳に届く。ヨイは変な感覚がして自分の腹に触れた。まさか、空腹感……?

「腹減ったのか? じゃあ今日はもう帰るか、仕事も初日で疲れたろうしな、剣は明日探しに行こうぜ」

 ゼレンは動揺するヨイの横を通り過ぎ、もと来た道を引き返していった。残されたヨイは剣を虚空に差し出した形で固まる。

 なぜ受け取らないのか……。


――――――――――――――――――――


「ただいま帰ったぜー」

 スラム街の一角に(きょ)を構える木とトタンで造られた家とは言い難い古屋。そこにゼレンとリメアと母は狭狭しく暮らしていた。

「おかえりお兄ちゃん。今日は早いね」

「ヨイが腹減ったみたいだから今日の稽古は休みにしたんだ」

「そーなんだー」

 入ったのはいいものの、どこに行けばいいか分からずとりあえず棒立ちするヨイは、二人の会話を聞きながら室内を見渡す。

 ボロボロの壁や天井にたった一つの電球、家具も揃っているわけもなく椅子や机、小さいベットしかない。子供だけでこの暮らしはさぞかし苦しかろう。

「そんなとこで突っ立ってないで座ったらどうですか?」

 リメアが少し突っ張った様子で言ってきた。食卓にはリメアが用意したパンが三人分並べられている。そこに座れと言うことだろう。

「……」

 ヨイは頷いてから空いていた椅子に座った。目の前にはシワシワなパンが一斤のみ。

「知ってるか? パンってのは実は色々あるみたいで、こんな丸いやつもあるらしいぜ。しかもチョコレート入りだってよ! パなくね!?」

 ゼレンはそのパンを頬張りながら楽しそうに言う。どうやらパンは食パン以外知らないらしい。

「あー、市場(いちば)に出かけた時見かけたかな。でもあれ一個で六百テトしたんだよ!? ぼったくりもはなはだしいよホントに!」

 それに対して食パンをちょびちょび千切って食べていたリメアは怒った様子でプイとそっぽを向いた。

「ろっ!? たっけ〜、六百あれば何ヶ月食えるんだよ。うわー食べて〜!」

「無理無理、そんな贅沢できるわけないない……そういうのは選ばれた人が食べられんの! 我慢我慢」

 机に突っ伏したゼレン。机はギシと鈍い音を立てた。

「……」

 兄であるゼレンより妹のほうがしっかりしているのはどういうことなのか。まだ十歳くらいに見えるが。

「それにほら、ウチも思いもしない出費でアレだし……」

 愚痴を漏らすようにポソっと呟いたリメアは、横目でヨイに視線をやった。ヨイはゼレンを真似るように食パンにハムハム(かじ)り付いていた。

「いいじゃねぇーか、この街はこうやって助け合って生きてくの」

「どちらかといえば私たちが助けられる側じゃ……」

「あ!? お前惨めだと思わないのか!? 人に助けられるなんて!! 俺は助けなんて要らないね!」

「助け"合う"のがこの街じゃなかったの!?」

 はぁ、とため息を吐くリメア。ゼレンはそれに満足そうに勢いによって上げた腰を落とす。

「しかしまぁ心配はいらん、ヨイが働くなら給料は二倍になる。チャラチャラ」

 ヘラヘラと言うゼレンは、広げた手を水平に動かしてプラマイゼロを表す。お前減給されてませんでした今日。

「ま、そうだよね。……まぁなんだかんだすぐにいなくなるもんね! みんな!!」

 なぜか強調するよう語尾をあげて喋るリメア。ヨイが理解できずにゼレンを見ると、ゼレンは悲しそうにゆっくり机に顎を乗せた。

「そーなんだよ…んみんな元気になったら出て行ってさーいや嬉しいんだけど寂しいじゃん?」

「……」

「お兄ちゃんが人を拾ってくるのはよくあることなの、子供とか大人関係なく困ってそうな人はね。けどみんな一週間もすればここでの暮らしに耐え切れずに出ていくのよ」

 補足したリメアの言葉で理解した。だからリメアはヨイが来た時慣れた感じで納得していたのか。

「違うぜ、みんな一人で生きていけるようになったから出て行ったんだ。そんな俺が鬼みたいに言うなよ……」

「絶対そうだって! 四六時中働いて暇な時間鍛錬に費やして休みもままならない生活、普通の人には耐えられないよ、ご飯もこんな少ないのに、家もボロボロで」

「慣れたらそんな辛くないって! 住めば(みやこ)とか言うだろ?」

「無理無理、この生活に耐えられるのなんて私たちくらいなんだから」

 悲しいことだが、なぜか胸を逸らして自慢げに言っているリメア。どうやらそこに優越感を抱いているようだ。確かにこの暮らしにその幼さで耐えられるのは誇っていいだろう。

 と分析しているとリメアがよいしょと体の向きを変えてヨイを目の前に見据えた。

「だから、ヨイも無理しないでね?」

 にっこり笑顔で優しく告げられたヨイ。遠回しに『だからお前も早く出ていけ』と威圧している気がする。とりあえず頷いたヨイ。まぁ実際、出ていくつもりは一切ないが。

「まぁでも、ヨイもキツかったら言ってくれていいからな、記憶が戻った時とか。俺たちに遠慮は不要だから、楽しくやってこう」

 体を起こしたゼレンは嬉しそうに笑いながら、肘杖をつく。

 これから。ヨイは改めて自覚する。自分のニンゲンとして人生はまだ始まったばかりだ。それがなんなのか分からないが必ず手に入れる。『心』を。

ご精読ありがとうございました。

毎週平日の朝に投稿してくので次回もぜひ読んでください。

シャス。

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