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【完結】異世界唯一の透明人間、好き放題生きていく。  作者: 秋田
【第3章】フォレスト・レンズ家編

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154/264

【第154話】労働

暇で暇で仕方ない方はご視聴ください!

「なんかいまいち理解できない」など「話無理矢理すぎだろ」など思うかもしれませんが、そこはご愛嬌ということで!


メイト・マルマロン

アクロ・アイト

オリビエ・ペル

メアリー・フォレスト・レンズ

ライカ


ヨイ

ゼレン・フォレスト・レンズ

リメア・フォレスト・レンズ

「母さん、新しい家族連れてきたよ」

 目の前の寝具には、白髪で、痩せ細った女性が横たわっていた。母さん、つまりゼレンとリメアの母体(ぼたい)と言える。

「今日も仕事頑張ったよ。ダン爺さんにはまた怒られちゃたけどな、それでも成果は褒めてくれるからいい人だよな」

 ぜレンは益体(やくたい)もない話を、寝ている母の前でペラペラ語っている。母からの反応はない。

 ここはゼレンとその妹であるリメアが普段生活している古屋の隣にある別の古屋だ。こちらの方がむしろ風の隙間も少なく、頑丈な造りだ。住むならこっちのほうが良さそうだが。

「お金もいい感じに貯まってきたし……、あそうだ! そういや今日新しいトレーニング方法思いついてさぁ!」

 楽しそうに語るゼレンを横目で見て、思い出す。

『母さんは病気なんだよ。メアリが産まれてすぐにな、国の人たちが生ていられるように色々やってくれたけど、起きることはない。もう十年くらい寝続けてる』

 寝たきりの母を気遣い、なるべく良い環境で寝させてたい。そういうところだろう。

「……」

 血筋を(おもんぱ)り自己を犠牲にする、これもまた人の『心』と呼べるだろうか。

「……うん、じゃあまた明日……」

 すると語り終えたのか、ゼレンはそう小さく告げると椅子から立ち上がる。最後に布団を肩まで上げてから、振り返る。

「じゃあ戻ろうか」

 そう言ったゼレンの顔は、場違いなほどに、明るく真っ直ぐ前を見ていた。


――――――――――――――――――――


 翌日。

「つまりだ!! 母さんは病気を治すために!! 俺は今働いている!!」

 ゼレンは言葉を区切りながら、(くわ)を振り落としていく。汗と土が飛び、ゼレンの服はだいぶ汚れていた。

「……」

 隣で、ヨイも見よう見まねで鍬を振り落としている。鍬を地面に入れ、土をひっくり返す。機械のように繰り返していく。

「ふぅ、……しっかし、お前筋いいなぁ……筋肉もあるし、なんかやってたのかな」

 いつの間にか鍬を杖のように使い休んでいたゼレンは、懸命に働くヨイを眺めて呟く。

 ここはゼレンが働いているという家から数分歩いたところにある畑である。現在土を(たがや)している最中である。

「まぁとにかく母さんの病気を治すには金がいるんだ、それ以外にも、金は必要だ……だから貯める! まず母さんを治すのが最優先だ」

 ゼレンは腰に手をやり、コキコキ鳴らしてほぐしながら明るく言う。迷いはないと言う感じだ。たくさん悩んだ挙句の結果だからだろう。

「……」

 貨幣文化。人間が物々交換から発展させた、簡単かつ分かりやすい共通の付加価値をつけて流通させる文化。人間が編み出した文化の中で最も世界を占めている文化である。だが、同時に貧富の差などの問題も生まれた。

 硬貨の量産は神であるヨイにとってはこれまた簡単なことだが、ヨイはそんなこと決してしない。仁義ではなく平等性に欠けるからである。

 人間となったのだから、この世界の(ことわり)を重視するべきだろう。

「それに、剣術を鍛えれば騎士団に入れるかも知れねぇ、いや入る!! 騎士団に入れば給料はここの安月給より格段に上がってリメアにもいいもん食わせてやれる!」

「……」

 だからゼレンは体を鍛えているのか。農夫をやるなら剣術など無意味だと考えていたが、そんな目的があったとは。

「それだけじゃない、俺は傲慢だからな。できることは全部したいんだ」

 すると、ゼレンはヨイに豆だらけの手のひらを見せた。ヨイは相変わらず無機質な無表情でその手のひらを見る。

「俺は、回復魔法を開発している」

 自慢げにゼレンはニヤッと不敵に笑うと、手のひらは淡く光る。すると、ほんの数秒で手の豆は無くなった。回復魔法、ゼレンは使えるようだ。

「これで母さんを治せるかも知れねぇ。今できることは全部する。これは騎士団に入れなかった場合の第二案だよ」

 ゼレンは覚悟に満ちたようにギュッと手を握って言った。

「……」

 ヨイは無言のまま鍬を振り落とす。

「実はお前を助けたのはこの回復魔法に関係してんだけど……あの時殴られたお前の顔治ってたよな? あれは回復魔法なのか?」

「……」

 本題、というか主題という感じで聞いてきたゼレン。母を治すための回復魔法に対して、突然出会い、謎の回復をした少年、どうやらゼレンはヨイではなく回復に興味があったらしい。

 しかしあれは回復ではなく、ヨイが傷や怪我を経験したことないことによる再現不足が招いた無傷。回復したわけではない。

「……」

 沈黙するヨイに対し、ゼレンは(しば)し目をパチパチさせて回答を待つ。すると、どこかで鳥が飛び立つ音がして、二人の上を通り過ぎていった。

「……まぁ、ゆっくりでいいよ、分かったら言ってくれ?」

 青空を羽ばたいていく鳥を見送った後、ゼレンは朗らかに笑いながらヨイの肩をこづいた。相変わらず、ヨイは無反応を返す。

「うーん、流石に反応はしたほうがいいなー」

 と、顎に手をやり目を細めるゼレンは、軽い感じで唸った。

「とりあえず何か言われたら、肯定は首を縦に振る、否定は横に振る、とかならできるかな?」

 言われたヨイは少し考えた後、脳が適応していき、プログラムができる。

 ヨイは変わらずの真顔だが、コクと小さく頷いた。するとゼレンはフッと口端(くちはし)を細めて笑い、もう一度ヨイの肩をこづいた、今度は先ほどよりも強かった気がする。

 ヨイはこづかれた肩を眺める。あの男からは感じれなかった痛み。だがゼレンから受けたこづきには明らかに感触があった。

 ヨイは気がつく。接触と攻撃、そこにある差は威力の強弱だけで、差はない。と言うことに。

「おい! お前ら!! サボってんじゃねぇぞ!!」

 その時、いきなり遥か後方から怒号が飛んできた。

「ヤッベ、ダン爺さん怒ってら」

「なんか言ったかゼレン!!」

「言ってないっすよー!! ……相変わらずうっせーなーあの爺さん、怒ると血圧上がるぞ?」

「聞こえてんぞクソガキ!! 俺は高血圧じゃねぇ! さっきから聞こえてんだよ安月給辺りからなぁ!!」

「なんで聞こえてんだよ地獄耳……」

 怒り……本能的に備えられている感情。大した驚きはない。が、人間は怒りの表現として、単なる物理的攻撃ではなく糾弾や迫害、無視や愚痴などで解消することがある。『心』を持つのは精神を持つのと同じこと、いわゆる精神的攻撃である。

 そこに関して言えば、それもまた『心』の一端(いったん)なのだろう。

 なんて考えている間に、ダン爺さんは既にヨイの隣に駆け寄ってきていた。スッとしゃがみ込み、ヨイが耕した土を見つめる。

「――……たくっ……、お前より断然うまいじゃねぇのか? この新入り」

 ダン爺さんは無造作に放置された無精髭をざらざら触りながら聞いた。その途端ゼレンは期を逃すまいとパッと笑い、前に出る。

「で、ですよね! こいつやっぱ素質ありますよねー! いやー僕なんて敵いっこないっすよーはっはっはっ!」

「何笑ってんだクソガキ、素人に負けんなよ何年やってんだお前は」

「……」

 頭をかきながら誤魔化すように高らかに笑ったゼレンを一言で黙らしたダン爺さんは、どっこらせと立ち上がりヨイを見る。

「お前良い、これからも頼むわ」

 そう言い残すと、そのまま元いた畑の方に戻っていった。ゼレンはふぅ〜とため息を吐き出して、地面にばったり倒れ込んだ。

「あっぶねー、減給されることだったー……あの爺さんすぐに減給すんだよ……いやー助かったぜヨイ〜――」

「お前は減給だからなゼレン」

「…………」

「……」

 ヒューと風が吹き、静寂を運んできた。

 今日も晴れ、何気ない一日である。


――――――――――――――――――――


 指示された畑仕事に従事している間に、太陽はその燃えたぎる炎を冷やし、遠く地平線に沈んでいっていた。それを追うように、空の蒼さは着々とオレンジ色に染まり始めている。

「……」

 太陽の煌めきは、その最後の灯火で世界を照らそうと踏ん張るように、ゆっくり、とてもゆっくり沈んでいく。それをヨイは呆然と見つめていた。

「おし、お前らそろそろ上がっていいぞー!!」

 その時遠くから声が聞こえる。ダン爺さんがこちらに向かって叫んだようだ。するとゼレンは鍬を肩にかけ、振り返る。

「おし終わりだヨイ、お疲れさん」

 へっと笑ったゼレン、ほぼ一日中鍬を振り続けていたが疲れている様子はない。ゼレンは首にかけていた綿の粗いタオルで額の汗を拭く。

「……ん? あ、ほれ、お前も使えよ」

 ヨイがタオルを持っていないことを思い出したゼレンは、ヨイにタオルを差し出す。差し出されたタオルを受け取り、ジッと見つめて固まる。

 ヨイは汗をかかない。疲労もない。タオルは不要なのだ。そのはずなのに。

「……」

 ヨイは初めて、自分が汗をかいていることに気がついた。ゆっくり額に触れると、指先が濡れていた。

「……うわー……、……世界って綺麗だよな」

 まるでヨイを試すかのように、共感を求めるように、嬉しそうに微笑んだ。真っ直ぐの瞳は、光り輝く太陽の残光(ざんこう)を眺めて、とても美しいものを見るように細い目をしていた。

「……」

 ヨイも(なら)うように沈みゆく太陽を見つめる。

 きっと彼には、この世界は素晴らしく美しいものに見えるのだろう。苦労も苦痛も困難も難儀も、全て快楽のためにあるものだと考えている。そんな都合の良い未来を熱望(ねつぼう)している。

 だから、この世界が、とても輝いて見えるのだ。

「……」

 ヨイは相変わらずの真顔で、ヨイと同じ景色を眺める。

 変わりゆく空色は自然の摂理。流れる雲も常識の範囲内。生暖かい春風と、どこからともなく漂ってくる香ばしい匂い。ニンゲンたちの言葉を交わす声。

 全て、当たり前の日常。

 まだ、ヨイには美しいものと思えなかった。

 ――ただ、その時が来なければ良かったとは、この時はまだ、誰も思わない。

ご精読ありがとうございました。

毎週平日の朝に投稿してくので次回もぜひ読んでください。

シャス。

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