飼い犬
羽の生えた猿のような魔物の羽を空中で切り落とす、バランスを崩し落下するソイツが地面に着く前に細切れにして物言わぬ肉の塊にする。
「確実に魔物も強くなってきてるな、それに…。」
俺はロットンネイルについた血を振り払うと地面に落ちる前に凍り付き固まった血が地面にぶつかり音をたてる。
「山に登ってるから当然と言えば当然だけど気温の下がりかたも異常だなここは。」
俺はロットンネイルの刀身をシュッと撫でるとバリバリと凍った血が剥がれ落ちる、武器の切れ味と言う観点で言えば瞬間で血と脂が凍ってくれるのはとてもありがたいが、血を吸い上げて糧にする俺からすれば少し残念というかなんというか。
「大丈夫かエンヘル?」
足下にいるエンヘルに声をかけるとどこか明後日の方向を見えていたエンヘルは俺の方を向き力なく吠える、しかし鼻には小さなつららが出来ておりガタガタと身体を震わせていた。
「…まぁお前は毛があるとは言え地面から近いしなぁ。」
俺は流石に気の毒だと思いエンヘルを持ち上げて抱える、エンヘルは唐突の出来事に少し固まるが少しすると嬉しそうに尻尾をブンブンと振り回しながら俺の顔を舐めてくる。
「……お前なぁ。」
俺のほっぺに凍り付いて離れなくなったエンヘルの舌を掴んでベリッと剥がすとエンヘルは気まずそうに小さく喉を鳴らした。
それから1時間ほど山を登っていると胸に抱えたエンヘルが前方に向けて吠え始める、抱えた腕に吠える際に垂れる唾液に少々きったねぇなぁと思ったが腕に落ちる頃には凍っていた、依然エンヘルは前方に吠え続ける為前方を見やると人影を見つける。
人影もこちらに気がついたようでこちらに手を振ってくる、どうやら二人組のようであちらもこちらに向かって歩み寄ってくる。
「冷えるな、兄ちゃんはどうしてこんなとこにいるんだ?それに…そのなんだ?犬…じゃあねえわな。」
「あぁ、コイツはさっきテイムした鎧狼?っていう魔物だ、コイツのレベル上げのためにもちょっと強い魔物と戦う必要があるんでな。」
防寒対策を完璧にとった男は相方の少女に軽くアイコンタクトをすると納得したように頷いた。
「俺たちも似たようなもんだな、下のダンジョンは今王家が使ってるって話らしいし面倒に巻き込まれたら事だから娘とこっちに来たんだ。」
アーヴィ・タリウスの殺害を企んだその息子であるシルマ・タリウスが山の下のダンジョンに陣を張っていたのでそのことを言っているのだろう、直近で面倒に巻き込まれた俺からすればこの二人の考えは正解だと言えるだろう。
「それにしても兄ちゃんそんな薄手のかっこで寒くねえのか?」
男は少し馬鹿にしたような声色で聞いてくる、俺はエンヘルを地面に下ろしながら応える。
「寒くない…って言うと嘘になるけど…一応当てはあるんだ。」
俺が人差し指を立てながら軽く頬を緩めニッっと軽く笑う。
「アテ?」
俺は立てた人差し指をゆっくりと娘の方に向けると刹那エンヘルが娘の喉笛に噛みついた。
「なっ――?!」
男がそれ以上言葉を発することは無かった。
※
「こうして暖かい格好になるとさっきまで結構寒さを我慢してたってわかるもんだな。」
男の着ていた外套に身を包みながら誰に言うでも無く呟くとそれに応えるようにペット用の服を着た犬のようになってしまったエンヘルが元気よく吠える。
「それにしてもさっきの二人は結構強かったんだな。」
ステータスカードを確認すると俺のレベルは11に上がっておりエンヘルは4になっていた、服を剥ぎ取る際に確認できた冒険者ギルドのランクを示すタグは金色だったためそこそこやり手だったことが窺える。
「死んじまえばそんなことは関係無いけどな。」
俺は二人のクランタグを投げ捨てると煙草を加え火を付ける、寒空の元吸う煙草は普段より味が繊細に感じられるような気がする、これは王都に居た頃生徒会の顧問だったシエン先生が言っていた言葉だった気がする、煙を吐き出すと寒さによる吐息と混ざり普段より煙の量が多く感じられる。
道すがら幾匹かの魔物を鏖殺しながら進んでいくとちょうど暖を取れそうな洞穴を見つけた、これ幸いと俺はエンヘルを伴って中に入ると手頃な枯れ木を集め焚き火を灯す、雪により湿気った木はなかなか点火せず苦労したが空気そのものは乾燥していたので火がついてしまえば消えることは無かった。
先程の二人は殺した際にちょっとした隠蔽として四肢をもぎ取って内臓をエンヘルに食い荒らして貰った、その際にいくつかの内臓を非常食として持ってきたのだが既に凍り付いてしまっていたので適当な木に刺して焚き火の近くに刺しておく。
「…どうしたんだエンヘル?」
洞窟に入ってから終始落ち着かない様子のエンヘルに俺は問いかけるとエンヘルは俺の服の端を噛んで洞窟の奥の方へと引っ張っていく、それを不審に思った俺は眷属の行動に対して素直に従いついて行く。
エンヘルは洞窟の行き止まりまで行くと壁に向かって吠えだした、寒さで脳味噌まで凍ったのかと一瞬思ったが先程二人の冒険者を見つけたのもエンヘルが先だった為半信半疑で壁に向かって足下の小石を投げつける、すると小石は俺の想定通り跳ね返る――事は無く壁に吸い込まれ消えていった。
「…疑って悪かったお前はもう俺の眷属なんだもんな。」
ロットンネイルを引き抜き壁に向かい突き刺すとそれまで存在していた壁は霧のようになって消えていった、奥にはそれまでの洞窟とは違い明らかに何者かの手が入っているかのような綺麗さを持つ通路が現れた。
「偉いぞエンヘル大手柄だ…これはダンジョンだ…。」
俺に褒められたエンヘルは嬉しそうに俺の回りを駆け回りそれと同じように俺は表情をほころばせた、肉は焦げた。




