都合
法国にて王族殺害の犯人の処刑が予定通り行われた、ケイと呼ばれる12,3歳の黒髪の少年は何を言うでも無く首を刎ねられ一月に渡って衆目に晒されることになった。この事は法国第二王子トリゲル・カエターニの死亡と共に報じられ大陸全土にその情報は広がった。
言うまでも無くその少年はケイでは無く本人はとっくに帝国についている頃だろう、しかし法国的にも自国の王族を殺されておいてその上一度は拘束した犯人を逃がしましたでは済まないのだ、たとえ全くの別人であっても犯人は罰を受けたという事実が面子を重んじる法国では必要なのだろう、その様子を現地で最後まで見届けたアルスは軽く一息つくとアラクネの待つ情報部の拠点へと帰るのだった。
「さぁて…問題はミハイちゃん達をどうするかだよね~…」
アルスは帰るなりアラクネに合いに行く、変装の為にアラクネに作って貰った変異の薬の解毒薬を貰いに行かなくては一生女性として生きていかなくてはならないことになってしまう。肩まで伸びた艶やかな銀髪を揺らしながらアラクネの居るいわゆる医務室のような部屋に入るとアラクネは鬼の形相でこちらに詰め寄って来る。
「あんたケイを助けに行くからその巫山戯た格好になったのよね?どうしてケイが死んだって噂が流れてるわけ?」
普段は隠している蜘蛛足も腰から生えてアルスを持ち上げ壁に押しつけてくる、かなり怒ってるみたいだがアルスはいつもと変わらず微笑をしたまま何も言わない。
「ケイの命に関わる話よ、今回ばかりはあんたの口で言いなさい…。」
壁に押しつけられ宙に浮かんだ状態でアルスは伸びた髪を指でクルクルと弄りながら少し思案顔をした後口を開く。
「うーん…キミには言いたくないかな?」
刹那アラクネの魔力が爆発的に解放される、人間の下半身部分は千切れ飛び血に塗れた蜘蛛の腹と複足が生えてくる、手も刺々しい外骨格に覆われ殺意に包まれたアラクネはアルスに飛びかかる。
「落ち着いてアラクネ。」
アルスがゆったりとした動作で手を前に突き出す、するとアラクネの突進を見えない壁が受け止めた。
「落ち着いていられるわけないでしょう?!ケイは仲間じゃなかったの?!ミハイ達になんて伝えるつもりなの?!」
「ケイは仲間だよ、それにミハイちゃん達にはケイは死んだしそれを見てきたとしっかり伝えるよ。」
アルスの言葉にアラクネはさらに殺気を強める、もはや殺し合いに発展するのは避けられないかと言うくらいのプレッシャーが場に広がる、がアルスはゆっくりと口を開く。
「アラクネ…僕を信じてくれないか?」
アルスは普段の笑顔をフッと止め一瞬刺すような視線でアラクネを見つめる、それだけ言うとアルスは普段通りゆったりとした笑顔を浮かべる。
「…わかったわよ、数十年ぶりに気持ち悪い笑いを止めたあんたに免じて信じてあげるわ…」
アルスから手を離し背中から生えた足をズルリと引っ込めるとアルスに向けて解毒薬の瓶を投げて渡す、アルスは受け取るや否や一気飲みした。
「ん、ありがとうね。」
アルスはそれだけ言うと部屋から出て行き今度はミハイ達の元へと向かう、ミハイとニシャトは既に同じ部屋でアルスの報告を待っていた。しかしアルスが帰ってくる間に処刑の噂は広まっており二人とも悲痛な面持ちで、また吉報をすがるような目でアルスのことを見つめてくる。
アルスは何も言わず眉を軽く下げ首を小さく横に振る、ミハイは目から大粒の涙を流し下唇を噛み切る勢いで噛み血を流す、ニシャトはケイの死を受け止めきれないようでどこか驚いた表情でオロオロしている。
「…ケイ様をも凌ぐ相手が法国にはいるのでしょうか…?」
ミハイは泣きながらアルスに問う。
「いや純粋な力では彼を越える存在はなかなかいないだろうね、ただ彼は魔道具のようなもので力を封じられていたみたいだね…」
それを聞きミハイはさらにむせび泣く、今は法国への怒りよりも主を亡くした悲しみが深いのだろう、アルスは二人を尻目にそっとその部屋から出る。
自室に戻ったアルスはすぐさま筆を執る、勿論内容はケイが死んだと言うことでありそれ以外には何も書かない非常に簡潔な仕上がりになった。
封蝋をして魔道具である暖炉に手紙を放り込む、これで魔王軍には届くだろう。
「あー疲れた…」
ソファーにどっかりと腰をかけると自然とため息が出る、徐々に体も元に戻ってきており髪は短く、身長はゆっくりと元の高さに戻ってきている。
アルスは「ケイに死んで貰う」という大きな賭けに出ていた、正確に言うと世間に、特に魔王軍にケイが死んだと思わせる賭けに出ていた。
ケイは「カリスマ」と言うスキルを持っておりしかも将来的に「支配者」という魔王軍の権力をひっくり返す素質を十分にもったスキルを保持する存在だ。
感の良い奴らは既にケイの有用性に気がついていたようで魔法軍に直接顔を出すよう何度も通達が来ていた、アルスはそれを時に無視し時に受け流しだましだましなんとかやり過ごしていた。
ただでさえ人間に近い魔物という存在のケイはとても希少でいくらでも使い道はある、その上「カリスマ」持ちであると知られればそれは使いたいと思う奴もいれば邪魔になる前に始末したいと思う奴もいるわけで、こと魔王軍においては後者が圧倒的に多かったのだ。
ケイは強い、だが魔王軍の面々からすればまだ経験もレベルも圧倒的に足りない、ケイには世界を見て回ったり、経験を積む時間が余りにも少なかったとアルスは反省していた。
だから今回の事件はアルスからすればむしろありがたく、またケイを自由にする千載一遇のチャンスだとも考えた、ミハイやニシャト、アラクネまで騙す必要があるのかと言えば少し警戒しすぎかとも思ったがアルス自身相手に触れただけで記憶のやり取りが出来る存在なのだ、類型やそれ以上のスキルを持つ存在が居ないと考えるのは危険だ、そう考えたアルスは誰にも事実を伝える事はしなかった、アルスの嘘は法国の面子を保持するために出た嘘によってさらに補強されたのだ。
「ミハイちゃん達には悪いことしちゃったよなぁ…」
アルスはソファに寝っ転がると天井を見つめ一言そう呟いた。
次章入れませんでしたすみません。




