捕縛
王国の生徒が法国の第二王子トリゲル・カエターニーをその従者共々殺害したという情報は一瞬にして大陸中を駆け巡った、幸いその場に居合わせたレナート・カエターニ指揮杖者とその従者が犯人を捕らえることに成功する、この事件は王国と法国の関係を急速に悪くし開戦も秒読みかと思われたが王国側の謝罪及び賠償金の支払い、国境線からの撤兵など法国からの多くの要望を無条件で飲む事によって事なきを得た。また捕らえられた犯人は裁きを受けるため身柄を法国に送られることになった。
王国の王子であるウィルマー・グリンデルは自身の怒気を隠そうともせずにグリンデル国王の、自身の実の父親の元へ向かっていた。荘厳な意匠を施された大扉を雑に押し開け対面するなりウィルは口を開く。
「何故なにもしないのですかッ!お答え下さい父上!」
机に両手を叩きつけ問うウィル、そんなウィルを静かに見つめながらゆっくりと口を開く。
「ウィルマー…これはもう国家間の問題だ、いまや法国は我が国と戦争したがっている事を隠そうともしない、そんな法国から何とかもぎ取った平和を無に帰せと?」
「……でもっ!」
目には涙をにじませながら抗議するウィルを手で制して王は言う。
「我が国に戦争をする力はもはや無い、それを知っているから貴重な勇者であるオスカー・モラレスを嫁がせてまで法国と協調路線を取っているのだ、それを高々平民の子供一人の命で台無しにするつもりはない。」
国王は静かにだが力強さを感じさせる口調で言い切るとそのまま部屋から出て行く、薄暗い部屋にはウィルのすすり泣きだけが残った。
※
水をぶっかけられた軽い衝撃と冷たさを感じはっと目を覚ます。軽く頭を振ると水が散り殴られた左頬がズキンと痛む、辺りは薄暗く目の前には柵があり腕には相変わらず枷がはまっている。
「随分寝たな、目覚めはどうだ?」
バケツを片手に持った男が俺の顔をのぞき込んでくる、どうやらコイツが俺に水をぶっかけてくれた張本人らしい。
「お陰様で。」
俺は固定された手で顔を拭い男を見る、男は椅子を俺の前に置き座りながらこちらを見ていた。
「ここは?」
「法国の地下牢だ。」
最後の記憶は王国の宿屋だったはずだ、そこから法国というとかなりの間気を失っていたのか?
「拷問官か?随分すんなり教えてくれるんだな?」
俺が皮肉っぽく言うと男も鼻で笑いながら返す。
「いやただの牢屋番だよ、それにアンタに関しちゃ俺も同情はしてるんだぜ?」
「同情…ねぇ?」
俺は大げさに首を傾げて口元をゆがめる。
「トリゲル様はアンタが殺したんじゃねぇんだろ?」
男は何処か寂しそうな目で俺に向かって問いかける。
「そうだけど…なんでだ?俺が殺したことになってるんだろ?」
「なんでってお前一二、三歳だろう?そんな子供にやられるようなお方では無かったし…それにレナート様がトリゲル様を疎ましがっていたのは末端の俺でも知ってることだしな…」
その気になればトリゲルは殺せただろうがそれは置いておくとして…、詰まるところ俺は政争の具にされたという所か、とは言え慣れ親しんだ王国だったとは言え油断しすぎたのは自分に責任がある。
「で?俺はどうなるんだ?」
「…詳しくは言えないが裁判がある、その後は恐らく…」
「公開処刑ってところか?まぁ王族殺しの罪だ楽には殺してくれないんだろう?」
男は何とも言えない表情で顔を伏せる、大方当たりを引いたのだろう。男はいたたまれなくなったのかそのまま牢を出て行く。
「まぁ下手に拷問されなかっただけでも運が良かったと喜ぶべきか…にしてもマジどうすっかな…?」
腕の枷を忌々しく眺める、実は男と話している間に躁血を試そうとしたが不発に終わったのだ。レナートはレベルダウンと言っていたがこれはなかなか凶悪でほとんど力が入らない、下がったと言うより底を割ってマイナスに突っ込んだ気分だ。
牢の鉄格子はとても抜けられるような隙間は無く恐らくこの鉄にも強化の魔法が付与されているのだろう、どちらにせよレベルの下がった俺には破れないので意味がない、牢の壁に小さく通気口用の穴が開いているがそこにもご丁寧に鉄格子がありそれをどうこうというのは現実的ではない。
本格的に出来ることの無くなった俺は床に寝っ転がって天井をただ見つめる、牢からはどうやっても出られそうにない、となれば牢から出される裁判の時か処刑の時にしかチャンスはないだろう。
「じゃあまぁ…寝るか。」
現状やることが無くなったので飯が出されることを祈りながら眠りにつくことにした。




