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少年と本の天使  作者: Unknown
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第一話 遭遇戦

 ――力、力とは物事を動かす力。生きるために必要な力。大きく分けるとするなら現代では純粋な力、権力、経済力と言ったところだろうか。

 純粋な力には暴力や戦力、対象に力を加える事で物事を動かす力。権力は人を動かして物事を動かす立場にいる力。経済力はもっと簡単に言えばお金の力、お金によって物事を動かす力。

 誰もが強者でありたい、勿論そこに向けての努力をしている者も多いだろうが、努力の仕方を間違っていたり、努力をしても結果を得られなかったり、何もせず諦めて弱者の立場にいる者も多いだろう。

 では、力を求めているのに努力をしない底辺にいるようなそんな弱者が唐突に大きな力を手に入れたらどうなるのだろうか――――。




 それは彼に唐突に起きた。急な浮遊感、そして酩酊するような感覚……視界が黒く染まり、何が起きたのかそんなことすら自覚できないまま彼は落とされたのだ。

 どこに落とされたのかわからない、ただ落とされるような感覚はあった、一瞬のような長い時間であったようなよくわからない時間が終わり、彼が瞼を開くとそこには学生服のようなアニメやラノベで好まれていそうな制服を着た集団がそこにはいた。

 最も近くにいるのは手に剣を構えた同じ年代に見える男性、その近くにいる少女は銃を構え彼に向けており、もう一人の少女は杖を持ち彼をにらみながら佇み、その少女を守るように盾を構えた青年が彼をじっと見つめている。そしてその後ろには同じ格好をした多くの人達。

 何が起きたのか考える暇も整理する暇もなく彼に声が掛けられる


「そこの天使……動くな。動くと私達はお前を討滅しなくてはならない」


 剣を構えた男性が彼に向けて話しかける。

 彼は話しかけられているのを自覚できていたがそれよりもっと気にしなければならないことが彼には起こっていた。

 力――そう力を得たことを彼は一瞬の間に理解した、その使い方も強さも――。

 なぜかはわからない、ただ理解した。

 彼の口元は自然と三日月を描きつつあったが、それを隠すためにこちらに渡った時に手に持っていた本を口元に当て笑みを隠す。

 理解した彼は自身の姿が幼い少女のものに変わっていることも知っている、ただそれに対する驚きよりも力を得た昏い暗い喜びを噛みしめている。

 警告を与えた男性は特に反応をしない彼――少女に我慢できなくなったのか声を張り上げる。


「おい! 聞いているのか? お前の命はこちらが握っている。今すぐ全力で攻撃してお前を討滅してもいいだぞ!」


 男性は『預言者』によりここに天使が落ちてくることを事前に知っていた。精鋭を連れ、人数を多めに連れてきて何があっても対処できるように準備を整えてこの場面に挑んだ。

 『預言者』の予言と同じ場所、時間にそれは現れた。

 首都にある図書館の禁書庫、そこに置いてあったはずの薄汚れた木製のテーブルが消え、古い本が組み合わされて作られたような大きな椅子、その椅子の周囲には装飾された本が積み上げられている。

 椅子に深々と座る黒く長い髪を持つ少女。髪によって顔の半分以上隠れており瞳は見えないがその様子はぼんやりと宙を見ているようでこちらを向いていない。

 天使としての力は感じるものの階級は高くないようで、ただのか弱い少女に見えた。

 念のために杖を持つ少女――葵に視線を送る。葵は首を横に軽く振ることで応じた。

 葵は天使の格、魔力の強さを測ることができる、そして首を軽く横に振ることで魔力はそう多くはない、危険性は少ないと彼に伝わった。

 魔力が少ない天使は階級も低く、能力はないかあったとしても脅威なものではないというのが通説だからだ。

 それならば強気に出よう、天使という存在は多くが強い力を持ちこちらに落ちてくる。

 その力を利用し暴れるもの、悪用する者、最初は協力的であってもいずれ裏切る者――。

 そういった人に被害を与えた天使は堕天使と呼ばれるが、堕天使を対処するために組織されたのが『ユダ』だ。

 肉体的に優れた者、知識に優れた者、魔術に優れた者、堕天使によって被害を受けた者、そういった天使排斥派と首輪をつけて利用しようと集まった者達でもある。

 今回は天使を捕獲もしくは討滅することが目的であった、なので最初に舐められてはいけない。

 天使を甘やかしてはいけない、利用できるのなら首輪をつけて利用し、それができないようであれば討滅する。それが『ユダ』の方針であり男性の望みでもある。

 そして男性は本でできた椅子に座る天使に高圧的に声をかけた――――それが過ちであることに気付くことはなく。

 力を測るのは測るものによりその脅威度は変わる、男性と葵は単純な力の強さで測り対応を間違えた……ただそれだけだ。


「はあ、疲れますね。こういうのは本当に。行き成りその態度は無いんじゃないですかね」


 本の少女が口を開く、本を口元に当てたままなので声は聞き辛いものもあったかもしれないが、男性にははっきりと聞こえていた。

 返答を聞いた男性が顔を少し赤くし怒りの声を上げる。


「なんだその態度は、力を持たない天使なぞ一瞬で討滅できる! 口の利き方に気を付けろ!」


 本の少女は深くため息をつき、口元から本をずらし、やれやれといったジェスチャーを行い彼の声に答えた。


「力を持たないね、どこまでそちらにこちらの"力"のことが理解できているのかはわからないけど、その調子だとほとんど理解できていないようですね。安心しました」


 その直後、男性は右手を軽く上げる。

 小さな音が響く、銃を構えていた後ろの少女が本の少女に向けていた銃を撃ったのだ。

 銃弾が本の少女の腕に届くその直前――銃弾が宙に留まり、カランと音を立て地面に落ちた。


「行き成り小さな少女に向けて銃を撃つなんて……殺す気ですか?」


 首を傾け先ほどのことは何でもなかったのかのように無表情で答える。


「借り物の力ですがこれで十分だったようですね」


 攻撃してきた相手に反応がないからなのか少女は語り始める。


「いやはや、行き成り攻撃をしてくるとは本当に思いませんでした、困ったものです。こちらは攻撃する意志も争う意志もなかったのに、いやあ本当に残念です」


 本の少女は口角を吊り上げると同時に本を口元に当てそれを隠す。


「ありきたりな言葉ですが、殺そうとするなら殺されても構いませんよね?」


 微笑を浮かべた少女を見たのが男性がこの世界で認識した最後の光景だった。

 何か重たいものが落ちる音が辺りに響いた――――。

 男性がいた場所には一冊の本が落ちており、男性の姿は見えなくなっていた。

 本の少女以外の周りの誰もがその現象に意識をもっていかれ、停止していた。

 そんな中ゆっくりと椅子から立ち上がりその本に近づき、本の少女は男性がいたところに落ちていた本を拾い上げる。


「ふむふむ、こうなるのですね」


 本の少女は本をぐるぐる回しながら表紙背表紙を確認して中を開く。


「ジョン・クラークの一生……」


 停止した彼らの時がゆっくりと戻り始めるのも気にせず本を少女はパラパラとめくる


「皇歴645年、堕天使による街一つの凍結事件、『永久凍土』によって家族を失う。その後自身の剣の腕を利用し『ユダ』に入隊する……」


「さっきの会話から推測するに私は天使と呼ばれる存在で貴方達に危険視もしくは逆恨みされて襲われている……ということでいいのですか?」

 そう銃を向けていた少女に本の少女は聞いてみた。もしかしたら返答してくれるかもしれないと、攻撃的なのは本になったジョンだけかも知れないと、そう考えて。


「パパを……パパを返せぇ!」


 銃を構えた少女が叫び声を上げる。

 今にも襲い掛かってきそうな少女に本の少女はその本に手を当て二言ほど呟く。


「Rewrite――Summon」


 本が宙に浮き、パラパラとページが捲られていく。

 辺りを照らすように光が溢れ、周囲の空間に歪みが起こる。

 パキリ――何かが小さく割れるような音と同時に本が小さく砕けていき、紙片が人の形へと広がっていく。


「ではそのパパを返しましょうか、ああ……安心してください。傷つけてはいませんので」

「な、何を言っている! パパを……」


 次の言葉が出る前にそれは銃を持つ少女の前に現れた。

 『ユダ』の制服を着て、彼の持っていた剣を持ち、彼の顔をした男が現れた。


「パパ!」


 少女は叫び男へと近づこうとする――があと2メートルといったところで停止させられる。

 男は手に持つ剣を少女の首元に突き付けたからだ。


「パパ?」


 不安そうにする少女に向けて男は言い放つ。


「主にこれ以上近づくな」

「パパ! 何で……」


 首元に剣を突き付けられたまま銃の少女は泣きそうな声をあげる。


「お前の親である前に、私は主に忠誠を誓っているのだ、娘でも主に害成す者は斬る」

「どうして……」


 両者は動かず言葉だけでやり取りをする、そんな中小さな笑い声があがる。


「くふふ……若いから親とは思わなかったんだけど義理の親子かな? まあ、そんなことはどうでもいいんですけどね」


 銃の少女はそう告げた本の少女を睨むも盾になるように男がその視線を遮る。


「まあ、ネタ晴らしすると記憶の書き換えで絶対の忠誠を私に対して持たせて召喚しただけですけどね」


 本の少女はああ、こういうの一度やってみたかったと思っているのはきっと銃の少女には伝わらないだろう。


「何よそれ! パパを戻してよ!」


 銃の少女が悲痛の声を上げるも本の少女はそれに対して小さな笑いで返すだけだ。


「落ち着け、サラ」


 後ろにいた盾を持った青年が銃の少女――サラの肩を掴み止めて諫める。


「そうだよ、今この状況で争っても……」


 葵も一緒となってサラに声をかける。


「じゃあ、どうしろって言うのよ!」

「私は面倒ごとが嫌いなのでそのまま帰るのなら手を出しませんよ。まあ、パパは念のために返しませんが、くふふ」


 サラが悲痛な声を上げても本の少女はまったく気にしていない様子でサラを煽りながら笑う。


「一旦引こう、サラ。この天使の権能が分からない以上これ以上は危険だ」

「で、でも……」

「けん制とは言えサラの攻撃がまったく効かなかったし他の手段が通じるかもわかりません、一旦引くべきです」

「葵……」

「相談しているところ悪いのですが決めるのなら早く決めてもらえませんか? 帰るのなら手は出しませんので」


 こういった時に決まるまで口を出さないお約束みたいなものがラノベとかにはよくあるが本の少女はそんなお約束をスルーして面倒だから早く帰れと促していく。


「くっ、絶対パパは返してもらうわよ! 一旦引くわ、皆」

「了解」


 そう彼らは返事をした後この図書館から去っていく。

 辺りに静けさが戻り本の少女はゆっくりとため息を吐き腕を横に振るう。

 そうした瞬間に剣を持った男は紙片へとなっていき彼女の手元に集まりやがて元の本の姿へと戻っていく。


「ふう、なんとかなりましたね。初めから権能と周囲の本の知識があって助かりました。なければ首輪をつけられひどい目にあっていたでしょうね」


 そう本の少女はぼやきながら天井へと目を向けてこれからどうしようかと頭を悩ませ始めた。










 『ユダ』の施設にある会議室では今回落ちてきた禁書庫の天使についての対策とジョン・クラークの対応をどうするかについて話し合いが行われていた。

 サラの放った魔力が小さく魔術障壁が弱い天使に使う対天使弾頭が無効化されたこと、それと対象を本にし記憶を書き換えて配下に置く恐ろしい権能。

 その権能を打ち破る方法や対天使弾頭の無効化方法など様々な知識を持った人物が検証や方法などを探るもののこうだろうといった予想が限界で権能については対策すら不安の残るものとなった。

 唯一決まったものが図書館と本を所持していたことから対象の天使を『本の天使(ライブラ)』と呼ぶことになったくらいだった。

もう一つ考えはあるのですがとりあえずまとまった文を書けたのでこちらを投稿。

色々考えはあるけども書くのって難しいと改めて思いました。

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