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細めた瞳に、笑う顔。
その顔が好きだなぁと、いつまで経っても思ってる。
◆◇◇
朝です。
問題の一夜が明け、気分はリラックスモードです。
お布団の中でゴロゴロしながら、至福気分を満喫中の私はダメ人間です。
問題の解決ぅ? してるわけなかろうっ! と逆切れしたい。
していたら私はまだお布団の中でゴロゴロしていないのです。
本来ならば、登校のため通学路を歩いている時間帯に、私は河子の電話の会話をバックミュージックに、ニャーンと猫顔を披露してみる。
ちなみに人前でやると、無言で頭をはたかれる表情だとだけ言っておこう。
「ええ。ええ。そうなんですよ。昨日の夕方から熱が出ましてねぇ。夜中にまた熱が上がってしまって急いで緊急医に駆け込んだんですよう。
その時にはわからなかったんですけど、もしかしたらインフルかもしれない、なんて言われましてねぇ。ええ。はい。はい。ありがとうございます。今日また検査をしに行ってきますが、どうもしばらく……。はい。ええ。ありがとうございます。はい。では、失礼します」
もちろん熱が出た訳でも、病院に行ったわけでもない。
結局解決を見せなかった緊急会議の内容に、私は答えを出せず、かと言って今日も歴史の授業がある教室に登校するのもはばかられたため、一週間ほど休むことにしたのだ。
ちなみに数日休んでも術の残滓は薄まらない。
現実逃避? いいえ。これは戦略的撤退です。
それに、解決を見せないながらも、無い頭で捻り出した手は打ったし後、数日の内には事態も落ち着きを見せるのではなかろうかと思う。
まぁ、『手は打った』なんて格好良く使ってはみたものの、昨日鳴達に教えてもらった土の龍、ツチばぁに、お宅の卯木先生何とかなりませんか~~? とメールしてみただけなのだが。
面倒見の良いツチばぁのことだから、きっと今日中には何かしら反応してくれる気がする。
他力本願も良い所だが、使える人脈がある、と言う所も自分の力であると思うことにしよう。
メアド教えてもらう時に、このことに思い至って、鳴に言ったら『まぁ、そうですね』って返って来た時にはマジで激おこだった。
気付いてたんなら言えよっ! と言うか何であえて言わなかったっっ!!
鳴には鳴の思う所があったのかもしれないから言わなかったけどね!!
まぁ、それでなくてもにぃにの臨時授業の期間は後数日。
だから私が一週間休んでいる間には、とりあえずクラスの平穏は戻っている予定だ。
にぃにの記憶と行動にどう対処するかの根本的解決にはなっていないけど、とりあえず私はこの休みを満喫するのだ! と、灯処ちゃんにお気楽なメールを送ることにした。
◆◆◇
結局あの後、微妙な空気を醸し出した室内での沈黙に耐えられず、早々に弟分達を家に帰したものの。
一夜明けても逃げ場が無いというのは考え物だと卯木はひっそりと思った。
昨日、喧嘩 (……のようなもの)を繰り広げた子供たちしかいない教室が自分の担当クラスって。
良い年した大人が何をと思われるかもしれないが、なまじ小さなころから面倒見ているだけに昨日の自分がいかに理不尽だったのかも、それに対する彼等の心境もわかってしまうから余計に始末が負えないのだ。
弱冠、重たい空気を肌で感じながら抜け出した朝のホームルーム。
正直、ホームルームから直ぐ授業に入らず良かったと卯木は情けないことを思いながらも、鳴るチャイムと共に次の教室、彼唯一の普通科の受け持ちクラスの教室へと入った。
「おーっし、席つけー。始めるぞー」
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順調に進む授業。
国風文化の成り立ち。
有名な恋の物語に、女の闘いとその末路。
政権争いに敗れた女性のエッセイに目を止めた卯木は板書を止め、誰かに読ませるためにいつもの容量で出席番号を決める。
「教科書八三ページ。五行目からを、そうだな。今日は……三日か。出席番号三番、雨宮」
口にしての少しの違和感。
無意識に出席簿のフルネームを目で追った。
“雨宮千世子”。
おかしい。
頭の中を占め始めたのは、大量の疑問符。
自分は……卯木は、このクラスに入り込むに当たって、クラス全員の名を把握していたはずだ。
否、していた(・・・・)。
それなのに、どうしてこんなにも初めて口にしたような感覚なのだろうか。
頭には数の減らない疑問符。
胸を過るのは少しの不快感。
まるで蓋が、開いたような……。
「“あめみや”さん?雨宮、さん……、あ! 今日、休みでーす」
教室内から上がった声にも違和感が拭えなかった。
まるで“初めて聞く名前”のように繰り返された苗字。
しかしお湯に溶かされる氷のように、消失する不思議。
生徒自身も気付けない自然な馴染み様に、卯木だけが眉を顰め、声を上げた生徒の目線を辿る。
ポカリと空いた窓側の席。
今までここにどんな生徒が座っていた?
週に数回ある授業の中で、何度も名前と顔を照らし合わせた。それなのに。
|あそこに座っていた生徒の顔が思い出せない(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。
「先生ーー?」
窓際の空席を睨み付け、どうやら数秒固まっていたらしい。
指名しいた生徒の欠席を教えてくれたクラスメイトが、訝し気に卯木を呼んだ声で卯木はやっと我に返った。
「あ、ああ。そうか。……じゃあ、“雨宮”の前の席、吉田」
同様を取り繕いながら、卯木は手元にある名簿を指でなぞる。
“雨宮千世子”。
呼び方を改めて確認し、授業が終わってからの行動を思い描きながら、卯木は板書の続きをするためにチョークを取った。




