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短めです。
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見事な浅葱色を艷やかに流し、すっくと立った少女。
顔面は見えない代わりに、臍をチラリと見せながら(頭からシャツを被っているため、必然的に)、どこから出したのかわからない大量の水を、滝津の水の上からばら蒔いた。
傍から見ていても、この場にいる誰よりも上質と思われる神気を纏った水。
空中でばら蒔いたことで、粒の様に形作られたそれらは、彼女の意志を反映するかのように指の動き一つで、卯木の張っていた結界を補強した。
水を使っている、その一点により、一番に正気に戻ったのは滝津だった。
なによりも、その浅葱色の髪。
年に数回、遠目から見るその色は、確かに滝津の瞳に染みている。
「……水龍様?」
「……、やめてくれないかな。さすがにそれは、おこがましいよ」
けれども、その推論はピシャリと否定された。
あまりにも、容赦の無い否定のしかたに、こんな時ではあるがTシャツ覆面の不審者に……、と反抗的な気持ちになりかけたりもしたが、Tシャツ覆面の不審者に水龍であると、肯定されなくて良かったと安心したのは滝津だけの秘密だ。
「じゃあ、……っっ、お前は一体……っ」
「つぎ兄!!」
「卯木兄さんっ、酷い怪我だ……っ」
安心したと共に、やっと周りの音が滝津の耳に入ってくるようになる。
だが同時に、自身を襲ったのは止めようの無い震えだった。
一歩間違えたら死んでいたかもしれない。それぐらい鋭い刺突だった。
負った状況はまるで違えども、卯木の血だらけの腕を目に入れた瞬間滝津はそれを実感した。
指先から小さな震えが走り、間もなく全身へと広がる。
膝から力が抜けた。
「……ぁっ……」
強烈なTシャツ覆面の存在で、飛んでいた現実感が戻ってしまってはもう、駄目だった。
ガチガチと合わない歯の根が、酷く耳障りだ。
滝津は……、私は、死ぬところだったのだ。
時間を置いて襲ってきた死の実感は、面白いほど簡単に滝津の全てを覆ってしまった。
もう、立てない。
守護龍の加護はあれど、滝津はわかっていなかったのだ。
加護があれば、確かに滝津が死ぬことは無い。けれども、それだけなのだと。
命は守られど、怪我はする。
わかっていた。
わかっていると思っていた。
滝津はあまりの不甲斐なさに、自らの身体を強く抱き締める。
顔を俯け、下を向いた。その時、ふわんとした丸い水の玉が滝津の目の前に浮かんでいた。
「……え?」
これは、一体?
そう思ったのが最後。
『眠れ』
水を通した、力の乗った言霊。
何の防御も編めなかった滝津はなす術なく、その意識を刈り取られた。
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バタリ、バタリ、バタリ。
三人の人間が、一斉に床へと倒れ伏した。
女の動作は一瞬。腕を軽く横に振った、ただそれだけ。
ただそれだけで現れた手の平大の水の玉が四つ。
それらが、ふよふよと教室の内外にいた意識ある四人の目の前に来たかと思うと、女の発した力ある言葉によって、弾けて消えた。
一言。『眠れ』と。
こんな技は長年、槌永の術者として廉条に関わって来た卯木でも見たことはなかった。
どうやら、軽い洗脳術の一つなのだろうが幸か不幸か、今の卯木には激しい痛みを訴える腕の裂傷がある。
卯木以外の年若い術者三人は、あまりにも予想外な出来事に、何の対処も出来ずそのまま女の術に呑まれたようだ。
けれども、女の暗示よりも自らの傷の痛みの方が勝った卯木には暗示が上手く掛からなかったのか。それなりの眠気は感じるものの、他の三人のように昏倒するには至らなかった。
しかし卯木は、額に脂汗を浮かせつつ、あたかも女の術に掛かったかのようにゆっくりと床に倒れた。
あくまでも気性の話ではあるのだが、風は移り気、火は気まぐれ、水が流されやすいという特性がある。
これはあくまでも特性であり、人によって大小はあるものの、属性の特色として性格に出やすいというのは、どうしてもあった。
その話の中では、地の有り様は別格だ。
地もそれに連なる木も、移り気、気まぐれとはまた異なる。
地は地で、ただどっしりとそこにあり、木は自らが倒れないようにしっかりと根を張る。
だからだろう。槌永の……、『土』の術者達は、何事にも動じ難い精神と、冷静に状況に応じる適用力に優れていた。
それは卯木も例外では無く。
Tシャツ覆面の女は、見た目からして怪しくはあるものの、危ない所にあった滝津を助けた。
その時に『故あって、助太刀いたすっ!』とも叫んでいたのだ。
もし、女に自分達を害する気があったとしたら、まず滝津を助けることもしないであろうし、それを匂わせる言を出すことも無いだろう。
三人を……、卯木を含めれば四人だが。
三人を眠らせた手腕も見事なものだった。
女がその気ならば、あの一瞬で自分達の命は無かったのだ。
だが、誰もが眠るだけに留まっている。
卯木にも掛けられたからこそわかる。あの術には本当に、眠らせる以外の意図は無かった。
ならば、彼女は卯木達を眠らせて、何をする気なのか。
今、女に立ち向かったとしても卯木には、腕の裂傷があり、気を失っている弟分達がいる。
何をするにも不利な状態であるからこを、正体不明な女の動向だけでも知っておかなければ。
痛みと眠気の中、今にも閉じてしまいそうな瞼を持て余しつつ、卯木はそれでも薄らと目を細めた。




