An unnatural woman【高坂】
僕と遠見さんそしてやっとパーカーを着てくれた女性は、なるべく人目に付かないようにと路地裏の廃墟になっていたバーに忍び込む。
遠見さんはコンビニから持ってきていた小さなスナック菓子の封を開け女性に手渡した。
「……ありがと」
別に誤解を解く必要は無いと主張する僕に遠見さんは納得しかねたらしく、一生懸命女性に対して僕の人間性を説明していたのだが……正直『殺人犯』は合ってるので中々事態は進展せず女性の警戒心を解くには至らない。
「はい、高坂さんも」
このように隠れて腹ごしらえしている状況な訳であった。
「あ、あなたが私を襲うつもりが無かったのは分かったわ。一応お礼言っておきます。助かりました」
ボリボリと棒状のスナックを齧りながらお礼とも言えなさそうな言葉を吐き出しそっぽを向く女性。
「それに今時『殺人犯』なんて笑っちゃうしね。どいつもこいつもシェルターからあぶれた人たちはそこらじゅうで殺し合いしてるし」
「そうなんだ」
キっと僕を睨み付ける女性。相槌打っただけなのになあ。
それにあんた助けたの僕なんだが。
女性は埃にまみれたカウンター席で備え付けのテーブルに肘を突きながら不機嫌そうに黙りこくってしまった。
「じゃあ危ないじゃないですか。ひとりでなにしてたんですか?」
カウンターの中に入り何か無いか物色していた遠見さんがひょいと顔を出し女性に問いかける。背丈が足りなかったのかテーブルを掴んでいた。
裏で背伸びしているに違いない。
「ちょっと探し物をね。でももういいの」
僕に対する態度より幾分柔らかい表情で遠見さんと会話する女性。
美人の部類には間違いなく入る。少しだけブラウンがかった髪は胸元まで伸び、くっきりした顔立ち。レイプしようと言うアホ共の欲望を掻きたてさせてしまう『実績』だってあるし。
僕はこの人ニガテだけど。
「それにね、最近はもう目立った動き無くなってきたのよね」
「動き?」
僕は遠見さんと女性の話を聞くことにする。
僕が口挟むときっと拗れそうだし。
「あと4日でしょ?今更縄張り争いなんかしても意味ないし。この辺りは少し前までしょっちゅうグループ同士の抗争があったって聞いたけど。ほら、この辺ってお店一杯あるでしょ」
「でも色々残ってるよ?」
「牽制し合ってたからお互い手が出せなかったんでしょうねこの辺りは。で、いざこの時期になってみると……もういらないわけ、なーんにも」
今更食料だなんだって騒いでるヤツなんか居ないってことか。
物資を掻き集めたところで4日すれば隕石は確実に落ちてくるのだから、抗争やらナワバリなんて一切合切無意味。
そりゃそうだ。
「ていうかあんたたち何にも知らないのね」
全く僕の方を振り返ることなく呟く女性。
でもこのキツ目の口調は僕に話しかけているんだろうなあ。
「ご存知の通り殺人で死刑待ちだった僕は外に出たのつい最近だし、リンコは病院で手術後ずっとこん睡状態だったらしくて起きたの最近だし」
僕の言葉を受けて女性は遠見さんに向かい表情を和らげながら言葉を繰り出す。
「リンコちゃんって言うの?可愛い名前だね」
「そうかな?」
僕の話なんか聞いちゃいねえこの女。
でもまあ、僕だってこの女には確認しておきたい事がある。
物凄く、不自然だ。
普通過ぎる。
いでたち、物腰、精神状態。
この女にはその全部に違和感がべったりと張り付いているのだ。
イカレたグループ同士で殺し合いが行われていたと言い。
後4日で全てが終わると言うのに。
この女性はなぜ。
「……」
・・・・・・・・・・・・・・・・
どこまでも他人事のように語るのか?




