A person with important sense of superiority 【遠見】
「僕にはあなたが落ち着いてるように見えるんだけど。ほとんど異常だと言ってもいいくらいに。なんで?」
カウンター越しに話す私と女の人。
高坂さんはその少し離れた所のボロボロのソファーにふんぞり返りながらぶっきらぼうに問いかける。
「……」
分かりやすいなあ高坂さんは。絶対こういう人のことが好きじゃないんだろうな、とパッと見で悟った。
自分の足を大仰に組んで顎を気持ち突き出しつつ不機嫌そうな表情。大柄な態度がなんて似合うんだろう。
「教えてあげてもいいけど……あなたが得するような事は絶対に無いって事だけ覚えていて」
この人も気が強いなあ。
女の人は高坂さんの方へ顔半分だけ振り向くと、あんまり良くない表情をした。絶えず人を小バカにするような薄い笑み、綺麗な人なのにもったいないと思う。もう全部終わるんだからもっとちゃんと笑えばいいのに。
「私は避難できるの。だからあと4日っていうのはあなたのような下品な人達。あ、ごめんなさい。リンコちゃんの事じゃないわ」
私に向かい少し焦ったように弁解する女性。そんなこと気にしなくていいのに、真剣な目で私に謝罪するから……黙っておこう。
「隕石が衝突するのはエジプトとかトルコとかあの辺りなの。詳しい位置はパニックを避けるため発表されてないけど間違いないわ」
「……」
地理的にピンと来ない。私は勉強とかしてないから一般常識にひどく疎いのだ。高坂さんは分かるのかな……腕を組んで難しい顔をしながら女の人の背中を睨んでるけど。
「シェルターじゃなくて……避難?」
高坂さんはいかにも胡散臭そうな表情を隠さずにそう呟く。
「そうよ。大型の戦略輸送機を改造した超大型避難機。隕石が激突する地球の反対側の南太平洋上空で航行したまま3ヶ月生活出来るわ」
「ああ、なるほど。そのタイムラグで小さな優越感を維持してるってわけだ」
「小さくないわよ。あなたはあと4日、私は3ヶ月。私は本当に心から良かったって思ってる。父の築いてきた信用と財産で私は長生きできるんだもの」
お金持ちとかセイジカとかなのかな?
でも結局死ぬのは一緒なのにここまで心底安心できるってなんだかすごいなあ。
私は想像する。閉鎖された飛行機の中、崩れていく世界を小さな窓から眺めながらちょっとだけ命を繋ぐ人たちを。
「……」
・・・・・・・・・・・
そんな最期はいやだなあ。
「ふんふん。で、その自分の優越感を確認するために汚らわしい外界にわざわざ足を運んできたのか?」
もう!何でそういう言い方しか出来ないかな!
ほんとは優しいのに高坂さんはいつも誤解を招くような態度を取る。だから今こんなに拗れてるっていうのに!
「ま、それも無いとは言えないわ」
うわあ、あるんだ。
「探し物してるって言ったのは男、なるべく顔が良くて背が高い20代の健康な男性ね」
「はぁあ?」
はぁあ、である。私は高坂さんの呆れ返ったため息に思わず心の中で同意してしまった。
「子孫繁栄とかって事か?3ヶ月って言ったって……そんな誤差みたいな時間でしかも飛行機から降りられないのに?」
「そんな事考えてないわよ。単純に身体、セックスの相手を探してたの」
ななななななな。
なに言ってんのこの人!?
せせセックスってああアレだよね、いろんなところ舐めたりお互いのカラダをむさぼり合うって……例のアレだよね!?
「……相手居たじゃないか。邪魔したかな?」
高坂さんは2人のレイプ男を追っ払ったらしいが、ひょっとしたら楽しんで合意の上の行為かも知れなかったって事?
ひぃやああああああ。世紀末ってすごいなあ。なんでもアリなんだなあ。
「なに言ってんのよ。私不細工キライなの。だからアレは助かったわ、さっきも言ったでしょ?」
「ソーデスカ」
もう高坂さんは呆れを通り越して興味が無くなってしまっている様だった。ボロボロに風化しかけている落ちてた雑誌を拾い上げ、見るとも無くペラペラ捲っている。
「輸送機の中は私物の持込み制限がすごくてさあ。ダンボール1個だけなの。旦那は隕石騒ぎで何を思ったんだか首吊って自殺しちゃったしさ。娯楽は無いわひとりだわって……あんな所セックスくらいしかやる事無いってのに」
この人、普通に見えてたけど。
欠けている。
やはりこの人も何か壊れているように見える。
そう思うと……本当に高坂さんは変な人なんだなあ。全然ブレないしめったに動じない。なんだか高坂さんといると安心しちゃうんだよなあ。
「でももう男探しは諦めたわ。もう戻らないといけないし。で、リンコちゃんに相談なんだけど」
「ふはっ!?」
いきなり名前を呼ばれてうろたえる私。
「旦那が死んだから後一人分乗れるんだけど、リンコちゃん一緒に行かない?話し相手になってくれればいいからさ」
んんー。
なにを言ってるんだこの人は?行く訳ないじゃない。
私は高坂さんと居るし、高坂さんだってそう思ってるのに。なにが哀しくてせせ……セックス大好きな上から目線の人間と、逃げ場なんか無い狭い部屋に閉じ込められなくてはいけないのか。
「リンコちゃん可愛いし。見てるだけで癒されそう」
どっちもイケる口なのかこの女!?
私は人生で初めて貞操の危機をひしひし感じてるぞ!!
「ちょ、高坂さん!なんとか言って……」
私はその光景に目を疑った。
あちこちほつれた安っぽい絨毯の上、高坂さんは自分の両膝をぺたんと突き額を床に擦り付けている。コレは……はじめて見たけど、土下座ってやつじゃないんだろうか?
「そんなことしたってあんたは連れてかないわよ?」
汚いものでも見るような目つきで高坂さんを見下ろす女性。
それでも高坂さんは頭を上げなかった。そのままの姿勢で言葉を吐き出す高坂さん。
「僕はいいから。リンコがちょっとでも長く生きられるんなら僕はそれでいいから」
どうかよろしくお願いします、とそう言って再度力強く床に額を押し付ける高坂さん。
私は。
自分の見ている光景が理解できずに……頭を真っ白にしたまま突っ立っていた。




