憧れの対象としての衣類【高坂】
「み、見て下さい高坂さんっ!」
「手付かずだ。ツいてる」
4件目のコンビニ。
前の3件はもう荒らされ尽くしていて、電気も来ていなかったので役に立ちそうな物は歯磨き粉と小さな懐中電灯くらいのものだった。
「ふわあああ!アイスが!アイスクリームさんがおられます!凛々しい姿で!」
そこの冷凍庫は灯りこそ付いていなかったものの冷気をふんだんに蓄えており、中の冷凍食品もその鮮度を保っている。
遠見さんはその冷凍庫に飛びつくと頭を突っ込み冷風を浴びながら叫ぶ。
しかし、アイスクリームに敬意を払う二十歳の女の子はどうなんだ?
「ハーゲンダッツですハーゲンダッツ!」
「落ち着こう。ま、アイスクリームは溶けるからとりあえずそのままにしといてまずは食糧を」
ぼつぼつぼつ、とアイスクリームの箱を切れ目に沿って開封する遠見さん。
カップのモノじゃなくウェハースで挟んだタイプのモノだ。
「なんか言いました?」
アイスクリームにガブリと齧り付きながら僕に振り向く遠見さん。
「いや、何でもない」
まぁいいか。
「…………」
ここは街の中心部でオフィスビルの半地下に位置する店舗。
一般的なコンビニよりも随分店舗は小さい。シェルターの奴らも出来れば車で大量の物資を一度に運び込みたかったんだろうがここは車で乗り付けるには立地の条件が悪いし、街中で大勢の人間が動けばどこぞのアホウに襲撃されるリスクも上がる。
幸い食料品以外の物資もほとんどそのまま残っているようだった。
「……」
店舗内を物色していると雑誌の陳列棚に目が止まった。
「とぉ……リンコ?」
「むぐ?」
僕は遠見さんに雑誌を一冊放り投げる。遠見さんは別のアイスを頬張っている最中だった。
「明日、服探しに行かない?」
僕が投げたのは若い女性向けのファッション雑誌。
所々破れたり血の跡だったりが散見出来る遠見さんのパジャマは『元、ピンク色』だと言った方が正しい。
要は小汚いのだ。
「………………」
雑誌に穴を開けるつもりなのだろうか?
噛み付くように雑誌を凝視する遠見さん。
「リンコ?」
「行く」
「じゃあ……」
「でもでも!私自慢じゃ無いですけど今まで生きてきてほとんどパジャマなんです!偶に散歩に出掛けた時もジャージで!ナイキのジャージですけど!だから私自分になにが似合うとか考えた事なくて……でもでも興味が無かった訳じゃないんですよ?なんて言いますかその手の雑誌を見るのが辛くて、あんまり目にしない様にしてたところもあって!だってだって、どうせ私病院から出られなかったしオシャレなんかして見せる相手だって居なかったし!」
興味は大いにあるし、僕の提案には大賛成だと言っているのは伝わってきた。
遠見さんは雑誌をパラパラと捲りながら興奮気味にまくし立てる。
目を輝かせて、ニヤニヤしながら。
「んじゃ明日に備えて寝ますか」
「うん!」
そう元気に返事をした遠見さんはその日寝付けなかったのか、懐中電灯でかなりの時間までそこの店にあった沢山のファッション雑誌に目を通していた。




