掴む【遠見】
「高坂さん高坂さん!」
ある程度の距離は稼いだところでちょっと意識もはっきりしてきた気がする。なんか落ち着くなーこの背中。
私は高坂さんの首に回した腕を軸に暴れてみた。
「締まってる!首!」
出血で意識は薄いが、なぜか私は心がフワフワして落ち着かなかった。
「ご両親はいた?」
思い出したように唐突に高坂さんが私に尋ねる。
「いたよ!」
「そっか。挨拶した?」
「しなかった!なんかシェルターの中入ってっちゃったんだ!目も合ったのにヒドくないですか!?」
高坂さんは私にロクに返事もせず、タップリ間を取ってからぼそりと「そっか」と呟いた。
「もう。なんで高坂さんが落ち込むんですか?」
「落ち込んでないよ」
普段がブッチョー面だから分かり難いけど、なんとなく落ち込んでいるような気がしたのだ。
「私ね、お父さんやお母さんに触れたことないんだ」
「え?」
「アレなんて言うのかな、抗菌の防護服ってやつ。病院内で私に接触する時にはみんないつもそれ着るんだけど」
「……」
「もうチャンスないかなって思って。直に撫でて欲しかったんだ!アタマ!」
まあ結局叶わなかったけど、なぜか私は全く未練が無い。
むしろ心が軽くなったように感じていた。
「家族っていざとなると冷たいよね!それぐらいしてくれたっていいじゃん!」
ぐにっ
「むが?」
前を向いたまま自分の腕をぐるりと回し無言で私の頬を掴む高坂さん。
『摘む』では無く『掴む』だった。
「願いを叶えてあげよう」
ぐにぐにぐに
「いたっ……ちょ、こうひゃかはん」
「あの人たちはあの人たちで必死なんだと思う。希望を捨てられないから怯えが極端に出てしまうんだよ」
ぐにぐにぐにぐにぐにぐに
「いいこほいふならはなひてからにしてくらはいっ!」
↑
(通訳)
いいコト言うなら離してからにしてくださいっ!
「周りを恨むのは遠見さんの自由だけど……似合わないから止めた方がいい」
私はようやく頬を解放される。
「別に恨みません!そんな暇無いですから!」
「……忙しい?もうすぐ隕石落ちてくるのに?」
「だからです!1日1日生き切ってやるんです!私が私の人生を肯定しないと誰も肯定してくれないもん!どうせ病気持ちのバイキン女だし!」
「……あと自虐思考に虚弱体質だし」
「あ、そっか!いけないいけない忘れてた……って泣くぞ私。背中でさめざめ泣くから」
高坂さんが何の躊躇いも無く肌に触れてくれたから……私の心はこんなにも軽い。
頑張って最期まで生きよう、なんて思ってみたりした。