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追放された王女の娘は侍女となって家族を取り戻します  作者: 鶴見 日向子


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毎日見る夢

第四作です

少女は必死に歩いていた。


母と約束したのだ。


「自分の足でしっかりと歩んでいきなさい」


母は少女の小さな手を両手で包み込み、まっすぐ目を見つめた。


「はい。私は自分で歩きます」


その数日後の出来事だった。


皆が黒い服を着て、長い行列を作っていた。


沿道には大勢の人々が集まり、静かに頭を下げている。


細長い大きな箱を担いだ男たちが、列の中央をゆっくりと進んでいた。


その横を少女は「遅れまい」と必死についていく。


途中、沿道から


「誰か、あの子を抱き上げてやれ」


という声が何度も聞こえた。


そのたびに側にいた誰かが少女を抱き上げようと脇へ手を伸ばす。


だが少女は、その手を振り払った。


「いいえ、自分で歩くのです。お母さまとの約束です」


息は上がり、足も重くなっていた。


それでも母との約束を守るのだ。


絶対に――。


少女は必死だった。


やがて列は、大きな穴が掘られた場所で止まった。


その穴の中へ縦長の箱が静かに下ろされ、その上から土がかけられていく。


少女はそれを見つめながら、ほっとしたように微笑んだ。


「お母さまとの約束を果たした。最後まで自分で歩いた」


しかし、その笑顔を見た老人が怒鳴り声を上げた。


「母親の葬式で笑顔を見せるとは! 何という冷たい娘なのだ!」


少女には、その意味がまったく分からなかった。


きょとんと老人を見つめる。


老人は怒りに任せて杖を振り上げる。


「おやめください……!」


周囲の者たちが慌てて老人を取り押さえた。



少女アリスは目を覚ました。


そこは自室のベッドだった。


その夢は、何度も繰り返し見る夢だった。


「変な夢……。どうして何度も見るのかしら?」


アリスは首をかしげながら起き上がり、身支度を始めた。


顔を洗い、着替えを済ませる頃には、もう夢のことは忘れていた。


両親が待つ食堂へ向かう。


ちょうど両親も食堂へ入ってきたところだった。


「アリスは相変わらず早起きだな」


父が笑いながら言う。


三人が席に着いてしばらくすると、兄のカイルがやって来た。


「おはようございます……」


身なりは整っているものの、顔には「まだ眠たい」とはっきり書いてある。


「カイル、妹を見習いなさい。七歳も年下の娘の方がきちんとしているとは」


父は呆れたように言い、母も困ったように微笑んだ。


「お兄様は毎日遅くまで勉強をなさっているのです。仕方ありません」


アリスは兄をかばう。


それは事実だった。


夜になると、兄は自分の勉強の合間に本を開き、文字や歴史、礼儀作法まで丁寧に教えてくれていた。


夜更かしの原因は、自分なのではないかとアリスは思っていた。


「まったく、どちらが年上だか分からんな」


父の小言はそこで終わり、朝食が始まる。


しかしカイルは時折こっくりと舟をこいでしまう。


「お兄様、しっかり!」


隣に座るアリスは、兄の腕をそっと揺すった。


「ごめんな。どうも朝は苦手だ」


カイルは小声でつぶやく。


アリスはにこりと笑った。


「そんなお兄様も大好きです」


カイルも、そんな妹が愛しくてたまらなかった。


両親は、そんな二人を見て見ぬふりをする。


「仲が良いのは結構だが……兄妹だからな。仲が良すぎるのも考えものだ」


父がぽつりとつぶやく。


「アリスはまだ幼いのです。それに、あとしばらくしたらカイルは家を出ます。それまで好きにさせてあげましょう」


母が夫をなだめた。


「そうだな。考えすぎか」


両親は再び食事を続けた。


やがてカイルは十五歳になった。


「城の兵舎へ騎士見習いとして入る。アリス、城は少し遠いが、休みには必ず帰ってくる。そなたなら大丈夫だと思うが、いい子にしているんだぞ」


カイルは優しくアリスの頭をなでた。


そして馬にまたがる。


「それでは、行ってまいります」


両親と使用人たち、そしてアリスに見送られ、カイルは城へ向かって旅立っていった。


アリスは最初こそ笑顔で手を振っていた。


だが、必死で涙をこらえていた。


やがてカイルの姿が小さくなり、見えなくなった瞬間、とうとう声を上げて泣き出した。


「あの時も泣いていれば、こんな田舎へ来ることはなかったであろうに」


父がぽつりとつぶやく。


「幼すぎて何も分からなかったのです。それに、『あの方』が短気すぎたのです」


母は静かにため息をついた。


そしてアリスのそばへ歩み寄り、優しく声をかける。


「気が済むまで泣きなさい。大丈夫。カイルは約束を守る子です」


アリスは涙を必死にぬぐった。


「いい子でいるって約束したから……私も約束を守ります」


嗚咽を必死にこらえる。


両親は顔を見合わせた。


「泣いていい時は泣きなさい」


「泣きません!」


アリスは唇をきゅっとへの字に結び、涙で濡れた顔をしっかりと上げて両親を見つめた。


「どちらに似たのであろう」


父は遠くを見るように目を細めた。


読んでいただき ありがとうございます

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