第255話 選択
「どうしてここにリリスがいるんだ?」
僕は同じ質問をもう一度する。
目の前にいきなり現れた僕の敵も、僕達を見て驚いている。
「そ、そっちこそ何でいるの!ま、まさか師匠を・・・」
「師匠?何のことだ?僕達はただ、近くを通っただけだ」
師匠って、誰のことを言っているか分からないが、おそらくその人を探すためにここにいるのか?
「な、何でもないのよね。じゃあ、また―――」
「おい待て!この先に何があるんだ?」
僕の質問に答えずにそそくさと逃げようとするリリスを呼び止めて質問をする。
どうしてこいつがここにいるのかは分からないが、何か嫌な予感はする。
「か、関係ないわ」
「何か隠しているだろ?ここは何処なんだ?」
問い詰めるが、なかなか口を割らない。
流石にうざくなった僕は、大きな声でもう一度聞く。
「精霊術についてだろ!何か早く言え!」
僕の言葉にビクッとなる。
「どうしてルイ君が精霊術を知っているの!?!?!?」
「当たり前だろ!だからお前との決闘に勝てたんだ。ってか、そんなことも分からないとか、これだから平民は・・・」
リリスは空中に意味不明な言葉で話しかけた後、僕の方を向く。
「薄々は気がついていたけど、確信が持てなくて」
「ふん、まあいい。それで、質問に答えろ。ここはどこなんだ?」
リリスは少し俯いた後、観念したように口を開いた。
「ここの森は、私がクロ―――精霊と初めて会った場所なの」
・・・そういえばそんな描写が小説にあったな。
確かクロはあだ名で、本名はクロノスだったっけ?
「まだ夏休みになっていない頃、私に精霊術を教えてくれて、育ててもくれた師匠から『助けてほしい』っていう手紙が届いたの」
「それがこの森に関係があると?」
「そう、何か森に来てって書かれていたから」
!!!思い出した!!!
小説内でそんな物語があったよ。すっかり忘れていた。
確か、師匠が”精霊神”に捕まってそれを助け出すという、物語の終盤の話。
強大な敵をリリスとアレックス、その他の仲間たちと共に力を合わせて倒すはず。
???だが、彼女の周りには誰もいない。
そもそも、この物語は冬に起こる話のはず。
今は夏だし、何でこんなに変化をしているのか。
「なあ、これからスピット村の遺跡に行くんだろ」
リリスは”スピット村”という単語が僕の口から出てきて驚く。
「ど、どうして知っているの!」
「だって、一回行ったことあるから」
テラ以外の二人は、あ〜〜といった感じで思い出す。
ちょうど二年前、精霊術の調査のためにオールドを含めて行っている。
めんどくさい依頼を受けて、不思議な遺跡の中に入って、危なく誰かにバレそうになって・・・
思い出深いところである。
「い、行ったことがあるの!」
「まあな。そこで中に入れる遺跡があったから、途中まで中を探索したぞ」
リリスはキラキラとした目で僕を見つめてくる。
・・・なんか嫌な予感がする。
「ね、ねえ、案内してくれない」
「嫌だぞ!そもそもここから遠くに離れているはずだぞ!」
僕は即答で断ったが、リリスはガンガンに詰め寄ってくる。
「この森はその遺跡と繋がっているの!おそらくだけど、地図で空白の場所があるんだけど、そこが遺跡と繋がっているんだよ!」
本当かと疑いたくなるけど、精霊術ならできなくもないのかもしれない。
だがしかし、
「興味はあるが、それだけでは行く理由にならない。アルスたちもそう思うだろ!」
僕は配下たちに同意を求めたが、誰もすぐに返答はしなかった。
「おい!こいつを助ける理由はないだろ!」
「ええ、合理的にはそうです。ですが、なにか嫌な予感がします」
アルスがそう言うと、他の二人も同意を示す。
「リリス、お前の仲間は何処にいるんだ?第3皇子とか」
「ア、アレックスくんとかには迷惑をかけれないから、黙って一人で来たの」
小説とは違った展開。
本来は一人で師匠を助けに行こうとするリリスの後を追ったアレックスたちは、途中で合流をする。
そこでくだらない一悶着があって、仲間との絆を深め、精霊神を倒す。
僕はリリスなんかに協力などしたくはない。
だがしかし、知っているのだ。
精霊神がどれだけやばい存在かを。
もしリリスが負ければ、最悪この世界が滅びてしまう。
それだけやばい存在が、スピット村の遺跡に眠っている。
もう一つ知っていることは、精霊神を倒すためにはリリスが不可欠だということ。
クソ、結局助けなきゃいけないのか?
こういう時に役に立たないあの取り巻き三銃士、まじでムカつくな。
「・・・そうだな、僕も嫌な予感はする」
やっとのことで絞り出した言葉。
これはあくまで僕自身の平和のためだ。
「手助けしてくれるの!私のことが嫌いなんじゃ?」
「ああ、嫌いだ。だが、それとこれとは別として考えてやる。見返りとして、今後一度だけ僕の言うことを聞け」
「う、うん!それぐらいなら」
交渉成立。パパっと倒してさっさと帰ろう。
そうだな、こんな人っ子一人いない森だし、神級魔法を思いっきり売ってもバレないだろうし!




