第253話 解決
「お前、何でそれを持っている?」
マリーの手にあるものは、おそらく僕たちが探しているもの。
実物は絵でしか見たことがないが、間違いはないはず。
精霊術士によって盗まれて、今現在行方不明なはず。
「どこで手に入れたんだ!まさかお前が―――」
「流石に私は関わっていませんよ」
流石に?どこか含みのある言い方だが・・・
「本当にたまたまですよ。ちょうど少し用があってこの街に来ていたんです。ご存知の通り、実家が近くにありますので」
そう言えばそうだった。マリーの―――つまりリリスの実家は南部の貴族だった。
「だが何で持っている?」
「何やら事件の匂いがしたので、あのシールドに覆われた場所へと向かったのです。そしたら怪しい動きをする奴がいたので、捕まえたら持っていたというわけです」
そんなに都合よく行くものなのだろうか?
「本当に真実か?」
「ですからたまたま・・・ということでいいじゃないですか」
また含みのある言い方。
たまたまで全てが行くわけがない。何か知っているかもしれない。
まさかこいつは・・・いや、今考えるのはよそう。
「とりあえずお前の言葉通りに受け取ってやろうじゃないか。だから早く、その本を渡せ」
「ええ分かったわ、お兄―――ルイ様。でも、少し取引をしたいわ?」
いきなり現れて、探し物を手に入れたかと思うと、今度は取引がしたいだと?
「まあ話くらいなら聞いてやる」
「ありがとうございます」
丁寧に頭を下げてくる。
「何を求める?」
「そう難しいものではありません。二つほどお願いがあります」
「二つ?」
「ええ、まずは夏休みが終わったら一度でいいのでお茶をしませんか?」
お茶をするだと!?
まさかこいつは僕のことが好きなのか!?
「そんな深い意味はありませんよ」
ニッコリと笑って、そう言われた。何かウザいな。
「もう一つは、ぜひこの街の近くにある森に寄ってみてください」
「???それがお願いなのか?」
「ええ、それだけです。それ以上は何も望みません」
それぐらいだったら、特に断る理由もないな。
「いいだろう、全ての願いを了承した」
「ありがとうございます!」
嬉しそうに言って、本を僕に渡してくる。
ペラペラとめくるが、おそらく本物で間違いないだろう。
内容は後で確認するとするか。
「よし、これで全てが上手く行ったな!」
さて、その後の対応はアルスに任せて僕はのんびり休暇を楽しんだ。
そのため、報告は三日後に聞いた。
まず五大商会については、改めて関係者達によって協議が重ねられて見事に傘下に加えることに成功した。
そしてマーセル侯爵家については、今回の件は秘密にするという裏取引を行った。
こちらからの協力してもらった報酬はなし。その代わりに僕が崩壊させた街の一部の復興費は出してやった。
ありがたく思ってもらいたい。
あの崩壊については、何者かのテロ組織の犯行として処理された。
さて、捕まえた精霊術士についてはオールドに任せて拷問させている。
情報をしっかりと吐いてもらわないとな。
今回、色々とあったが全てが上手く行ったな!
僕は僕で旅行を満喫できた。
お土産も色々と買えたし(ほとんど妹のために)、スッキリもした(神級魔法をぶっ放せたから)。
悔いの残らない旅となった。
・・・何かアルスたちは忙しそうだけど、そんなことなど知らない。
日頃グチグチ言っている分、しっかりと働いてくれよ!
さて、更に三日後。
オールドに言われて渋々滞在を延ばした。
この三日間で、今まで働いていた全員が街を満喫した。
若干の雑用を、僕に押し付けたことは腹立たしいが。
まあ、とりあえずは全員が元気になった。
マーセルにこれ以上いる意味はなく、僕達はブルボン領へと帰ることになった。
マーセルを後にした僕達は、マリーとの約束を果たすべく近くにある森を目指した。
本当に何の変哲もない森であり、どうして勧められたのが分からない。
「アルス、何か分かるか?」
「いえ、全く見当が付きません。強いて言うなら、この森がはっきりと地図には描かれていないことでしょうか?」
確かに、持っている地図に全容は描かれていない。
いったいどういうことか?
というか、どこか既視感がある森のような気がする。
僕とアルス、レーナ、テラの四人でしばらく辺りを歩いてみるが、特に何にもない。
少し奥まで来てしまったので、馬車へと帰ろうとした時、不意に足音が後ろからする。
警戒したアルスたちが僕の前に出る。
足音は近づいてきて、草むらの中から見知った奴が現れた。
黒の短髪に、控えめな胸と引き締まった体。
「・・・どうしてリリスがここにいるんだ?」
「!?!?!ルイ君こそ、どうしてこの森にいるのよ!」




