Ⅱ 噂の聖賢(5)
「少々、お待ちください」
入り口の扉をバイスが叩いて、中に入る。
「申し訳ありません。団長は今いらっしゃらないようです」
暫くするとバイスが戻ってきてそう言った。
「ふーん、仕方がない。では施設内を探索でもするかな。案内して貰えるか?」
「ええ、構いませんよ。こちらです」
しかし、このバイス。
本当に操りやすい青年である。
ミルヒがいないのは残念だが、このままいけば黒幕の人物にも辿りつけるかも知れない。
ネージュは一人でニヤニヤと笑みをこぼした。
騎士団寮観察を十分堪能すると、辺りはもう暗くなっていた。
「そろそろ、団長もお戻りになっているかも知れませんね」
バイスがそう言ったので、ネージュは詰め所へ戻る事にした。
扉をノックすると、「どうぞ」と誰かの声がする。
バイスが扉を開く、ネージュもそれに続くと透明な飴菓子のような薄い色の髪に、碧眼の双眸を持つ美しい男。
見慣れたその顔があった。
「おう、グラースではないか、久方ぶりだな」
ザイデル団長とやらではなかったので、ネージュは少し意気消沈した。
「ネージュ様! 何故こんなところにいらしゃるのですか!?」
「ああ、実は大変な旅なのだ。まぁ座れ、話は長いぞ」
ネージュはそう言うと、椅子に腰掛け足を組む。
「君は、誰だ?」
グラースはバイスを見て無骨そうにそう呟いた。
新人騎士であるバイスを知らないのも、魔国にいたグラースなら仕方がない。
「まぁ、それはおいおいな。さて、何から話したものか――」
不信な顔をしたグラースの問いを制して、ネージュは事情を説明しようと頭を捻らせた。
†
「――お前は!?」
亜麻色の髪をした偉丈夫、ザイデルはその姿を見て思わず驚嘆の声を上げた。
弟からの手紙を握りしめて立ち尽くす。
ザイデルの目の前にいたのは真剣な表情の少女とマントのフードを目深に被った子供。
そして翡翠の瞳を輝かせた魔体だった。
「おお、あんたがクロイツの兄さんかい?」
「そうだが。……ああ、何故、セカンド。お前は戻って来てしまったんだ」
ザイデルはそう嘆きながらも、冷静に思考をした。
ここは城門から少し離れた場所で、もう辺りは薄暗いが、魔体の姿を見られるわけにはいかないのである。
「ヤハリ、我ヲ逃ガシテクレタ、ノダナ」
「セカンド。お前、話すようになったのか?」
ザイデルは驚いて声を上げた。
「こいつはセカンドじゃないフォーゲルだ。オレはミルヒ、こっちはヘルツ」
「そうか、名まで貰ったのか」
フォーゲルは微笑む。その表情を見て、ザイデルは胸を撫で下ろした。
「笑えるようになったのか、良かった」
「とにかく、詳しい話は後にして欲しいなぁ。手紙に何が書いてあったかは知らんが、オレらを城に入れてくれ」
「そうだな。一般兵はフォーゲルを知らないから姿を見られるのはまずい。裏口があるからそこから入ろう。こっちだ」
城の周りは林になっていた。草むらを進むと、城の側面に鉄格子があった。その先は下水道のようで水が流れている。
「すまないな。歩きづらいがこの道が一番安全なんだ」
ザイデルは持っていた鍵束で、鉄格子の鍵を開けるとミルヒ達を促した。
「いや、構わんよ。それよりハルトって奴には会えるんかな?」




