Ⅱ 噂の聖賢(2)
「――じらすな早よう言え。それは何だ。特殊なレアアイテムか何かか!?」
「わ、分かったあるから、目が回るから、やめて欲しいであるよ~ネージュ殿!」
ネージュはベルの肩を掴んで前後に激しく揺らすと、ベルが目を回してふらふらとした。
「こ、これは元来、聖域で保管されている、聖具の一つでな。我が輩の身に危機があったら連絡しなさいと、教皇様から賜ったものであるよ」
それを隣で聞いていたマテリアが声を荒げた。
「教皇様って、ロータスに居られる、あの教皇様の事? 何でベルなんかが面識を得てるのよ」
「我が輩、実はベルディヒというのは本名ではない。詳しくは話せぬが、我が輩は然る枢機卿の義子であってな。
……父、本当のベルディヒ・ゲーゲルが身罷った際に、義父上と教皇様に御世話になったのであるよ」
マテリアが言葉を失って息をのむ。そんな中で彼は続ける。
「黙っていてすまなかったのである。我が輩はあまり身の上を語れる立場でないのだ」
ベルは不安そうに呟く。マテリアは悩んでいる様子だったが、しばらくして小さく頷いた。
「あの、それで。我が輩は、まだここに居てもいいであろうか?」
「そんなの好きにすればいいわよ。
っていうか、あんたトロイアの命の恩人だし。……ありがとう、ベル」
彼女はそう言って微笑む。それを聞いたベルは安堵して微笑みを漏らした。
マテリアが顔を上げて、不思議そうな表情でリヒトを見た。
「今まで気づかなかったけど、あなたもしかして、リヒト?」
マテリアは懐かしそうなものを見るような眼差しでそう問いかける。ネージュは横目でリヒトを見た。
「なんだ、リヒトはその娘と知り合いだったのか?」
彼は「知らん」と首を傾げている。
「やぁねぇ。とても幼い頃だったけれど、孤児院で一緒だったじゃない。私も今まですっかり忘れていたけど」
「孤児院? 貴様また私の知らん話を!」
ネージュがリヒトにつかみかかると、彼は観念したように語り出した。
「俺は、祖体から生み出されて、幼い頃から聖国で軍事訓練をしていたんだ。
人の習慣を学ぶために、少しの間だが孤児院にいた事がある」
「そうだったの。どこかに引き取られたんだとばかり思っていたわ」
マテリアの声に反応するようにトロイアが眉を寄せる動きを見せた。
「トロイア、気が付いたの!」
「……るせぇ」
「トロイア! トロイア! 良かったトロイア!」
マテリアが、うっすらと目を開けたトロイアの体に額をすり寄せる。
「うるせぇ、わーわー耳元で喚くな」
マテリアが泣きながらもトロイアを凝視すると、不快そうな表情をした彼はのっそりと上半身を上げた。
「嫌な夢見で不愉快だ。何で俺は死ななかったんだ、クソッ」
「トロイアよ。お前、なんか性格変わってないか?」
ネージュが目を細めてそう言うとノヴァがうきうきと嬉しそうに側へ寄ってきた。
「相棒は元々こんな感じだよ! 皆の前では猫を被ってるんだぁ」




