祖は欣幸を得るか?(4)
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ふわりと。
翡翠色の髪を踊らせた青い衣の人物がミルヒとフォーゲルの後方へ、華麗に着地をした。
振り返ったミルヒも、
その場にいた全員も思わず目を疑った。
そこにはフォーゲルと全く瓜二つの女が立っていたのだ。
性別が女と分かるのはその甘ったるい声と、括れた色気のある身体だったからである。
《任地へ向かう道中で、兄弟が居る気配を感じたのじゃ。……おやおや、懐かしい》
そう微笑んで、女はフォーゲルを見た。彼は不思議そうな顔をして女を見返す。
「オ前ハ、何者ダ?」
《アア、兄様よ。嘆き悲しや。妾を忘れたのかぇ?》
「マサカ。第三番、ナノカ?」
女はそれを聞いて再び高笑いを上げた。
《人は妾を魔体-第三番と呼ぶ。そして妾は殺戮の女神よ》
女、リーニエは麗しいその体を大きな熊の様な手で撫でた。ペロリと舌をだして厚い唇をなぞる。
《女神の姿貌を見た不埒な輩は消さねばならぬ。そういう訳で、兄弟以外は皆殺しよ!》
微笑みを絶やさずに彼女はそう言い切った。溢れんばかりの殺気が辺りを埋め尽くす。
しかし、飛び出したのは女神では無かった。クラウンがその恐ろしいまでの相貌で彼女に向かって行ったのだ。
「――貴様が、妻の仇ッ!」
叫んでクラウンは短刀を投げつけた。しかしそれは見えない何かで弾かれる。
リーニエは涼しい顔でただ笑っている。それでもクラウンは諦めなかった。
何度も短刀を投げ、ついにはその側まで迫る。
「――死ねええええ!!」
リーニエに飛びかかったクラウンが刃を掲げた。その刹那、彼女の姿が完全に消失する。
「どこだッ、どこにいる!?」
クラウンが標的を見失って、狼狽えた声を上げた。
次に彼女が姿を現したのはクラウンの真後ろだった。そのまま腕を振り、その大きな手で彼の喉をいとも簡単に掴み上げた。
《残念じゃったのぅ。逝くのは汝ぞ》
その時、ノヴァが動いた。トロイアの表情だけで命令を読みとり、リーニエの後ろへ瞬時に移動する。その釜が光を反射して鋭く光った。
「お姉さん、バイバイ~」
しかし、彼女の方ははすぐに体制を変えると、クラウンを掴んでいない方の手を上げ、ノヴァの脳天めがけて振りかざした。
少年はその凄まじい反射スピードに驚いた。その攻撃を避けようと仰け反るが、リーニエは腕を今度は真横へと振りはらう。
その腕はノヴァの腹部に命中する。受け身も取れなかった彼は飛ばされ大木に衝突した。
その衝撃で大木が上下二つに折れて、少年の頭上へと落下。粉塵が辺りを覆い尽くし、枝や葉が踊り舞う。




