祖は欣幸を得るか?(2)
リヒトが銃を構えて威嚇発射をすると、男はようやくその動きを止めた。
膝をついた格好のまま、フォーゲルは表情を衰えさせていなかったが、まだ短刀はその喉元にある。
襲撃者の男は顔の右片側に仮面を付けていた。
左半分は傷だらけで、目元は半月のように不気味な笑みを湛えている。
彼は短刀をあてがっていない方の義手で羽織っていたコートの内ポケットから何かを取り出す。それは顔ほどもある大きな鋏であった。
男がニヤニヤした表情でそれを鳴らすと金属の擦れる音がした。
リヒトが「何をするつもりだ」と叫んで、再び銃のトリガーに指をかける。
男はそれを見て口を開く。
「それは、魔銃か。それに加えてこの人数、多勢に無勢のようだな」
男は劣勢と言いつつも嬉しそうに微笑むのを止めない。
「今からコレを生きたままバラす! 簡単に死なせてやるものか、足掻き悶えて逝くがいいッ」
「やめろっ。フォーゲルッ!」
ミルヒが悲痛な声を上げると、男が微妙に表情を変えた。
「フォーゲルだと? お前はり――」
そう男が言い終わる前に、草陰から何者かが飛び出してきた。それは嬉々とした様子の少年である。
「魔人のお姉さん、見~っけ!」
少年は鎌を振り上げてネージュに奇襲をかける。
リヒトは迷わず、片銃を標的に向けると素早く発砲した。
少年は銃弾を機敏な動きで全て避けてみせる。
リヒトが標的を見誤った訳ではない、その動きはもはや人間とは思えない程のスピードなのだ。
「ノヴァ、待て」
そんな威喝がして少年はその動きを止めた。リヒトは引き金を引く指を弱める。
ノヴァと呼ばれた少年が出てきた草影に端正な顔立ちの男が立っていた。赤い軍服に身を包み、長剣を携えている。
短く切りそろえられた銀色の髪が太陽に輝いている姿を目の当たりにした、リヒトが目を見開く。
「――トロイアッ!!」
彼が絶呼した次の瞬間には男、トロイアめがけて発砲していた。
捕らえられているフォーゲルにも構わず、両銃で撃ち続ける。
標的を外れた銃弾が地面に当たって土煙が上がる。
全ての弾を使い切っても、リヒトはそれを止めなかった。
「おいおい。リヒト、いきなり人を撃つもんじゃない」
煙があがると、男は長剣を構えて涼しい顔で立っている。その剣で弾を全て撃ち落とし、無傷の様だった。
「ノヴァはこちらへ戻りなさい。それから、クラウン、彼を離してあげてくれないか?」
ノヴァが渋々といった様子でトロイアの方へ跳躍する。
リヒトは弾倉を入れ替えながら、ネージュを庇う形で彼女の前方へと移動した。
クラウンが悲痛の叫びを上げる。




