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招かれざる者(6)


 妹たちにそっと毛布をかけてから玄関へと向かう。そこには大きな音を聞きつけたのか、ヘルツが玄関口を観察するように、こそこそと動き回っていた。


「クロイツ? お客さんかな?」


「いや、風で戸が鳴っているんだろう」


 くしゃっと頭を撫でると、ヘルツは微笑む。



「でもボク、何だか変な感じがするんだ」


 そう言ったヘルツの後に「ふむ」と声がした。いつの間にか、テーブルの傍でネージュが仁王立ちしていた。

 その脇にはリヒトも控えている。



「ふむ、魔獣がいそうな気配がするぞ」


 ネージュがそう言うと、ヘルツが怖がって男の服端を掴んだ。

 まさか、まさか、魔国じゃあるまいし。魔獣なんかいる訳がないとクロイツは呆れた。


「脅かすなよ」


 何もいないことを確認してやろうと扉に手をかけた。

 そっと開けると扉の隙間から、なま暖かい風がビュっと吹き込んでくる。


 しかし、入ってきたのは風だけではなかった。

 人の物とは思えない、熊の腕のような大きな手がぬっと進入してきたのだ。


「うわっ!」


「ひゃあ」


 驚いて尻餅を付いたクロイツの頭部を、ヘルツがぎゅと抱きしめた。ふわりと石鹸の匂いがしてちょっといい気分がした。


「――って、それどころじゃねぇ! 魔獣だっ、早く閉めろ」


 真っ青になったクロイツが叫ぶと、扉からそばかすの少女がひょっこりと顔を出した。


「いやっ、獣なんかじゃねぇよ?」


 その錆色の髪も、布着みたいなボロボロの衣服もびっしょりと雨に濡れている。




「驚かせてすまねぇ。オレら旅の者なんだが、すっげぇ嵐なんで一晩泊めてもらえんかなぁ」


 凛とした声なのに、その鈍った話し方が妙にのんびりとした雰囲気を醸し出している。


 ネージュが大きく頷く。


「ああ、構わんぞ!」


「いや、なんであんたが了承してんだよ。もう、別にいいけどさ」


 クロイツはもうどうにでもなれといった様子で叫んだ。もうすでに二人いるので、あと何人か増えたところで関係ないと思えた。少し自暴自棄になっている。


「うちは狭いし、大したもてなしも出来ないが、それでもよかったら入ってくれ」


「おお、ありがとな」



 そう言った少女の後から顔を出したのは、翡翠の瞳と髪をもつ長身の男だった。その灰色の肌から生気が感じられない。鱗まで生えているのでもはや人間ではない。


「うわっ!」


 再び腰をぬかしたクロイツは彼に見下げられる。その深い翡翠の瞳を見ると吸い込まれそうな感覚に陥った。


 クロイツはぞっと全身に悪寒が走るのを感じた。


 それを悟ったのかは分からないが、男は眼を閉じると熊のような手を差し出してくる。


「見た目は恐ろしい奴だが、こいつは優しいもんで。大丈夫だぁ」


 少女がそう言って笑うので、クロイツは「どうも」とその手を取って、起き上がらせて貰う。

 ヘルツが長身の男を窺い見ているが、怯えている様子はない。


「なにか拭くもの持ってくるよ」


 クロイツはタオルを取りに部屋の奥へ向かう。


 一体今日はなんなのか、喧しい者ばかりが集まってくる。ふぅと息を吐いてからクロイツは顔をパシっと叩いて気合いを入れた。


 しっかりしなければ、家族を守れるのは自分しかいないのだ。


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