Ⅲ 僅かなる旅路(5)
「まぁ、俺は天才肌なので。あ、あと俺のことは呼び捨てででいいぞ。敬語もやめないか」
「ですが……」
「俺は偉くもなんともない平民なもんで、堅苦しい言葉で喋られると背中がぞわぞわするんだよ」
「わ、分かりました」
「分かった、だろー」
「分かった。クロイツ」
「よろしい」
クロイツは身を乗り出して、ヘルツの頭を撫でた。ヘルツはくすぐったくて身を捩る。
それを見た双子が「なでなでして~」とスプーンで机を打ち鳴らした。クロイツが困ったように苦笑したが、ヘルツは困った顔でもクロイツは嬉しいのではないかと感じる。
「クロイツは、嬉しい?」
ヘルツは思い切ってそう質問してみた。
「え、嬉しいちゃ嬉しいかな。なんで?」
「だってずっと笑っているから」
「そんなん。嬉しくても楽しくても、面白くても笑うだろ」
それはそうなのだが、でもヘルツはなんだか不思議な感覚に襲われていた。この感情は、嬉しいし、楽しいし、面白い、けどどれもしっくりこない。
「んー、なんて表現するのが妥当かな」
ヘルツが正直に今の気持ちを話すと、クロイツは腕を組んで首を捻った。
「全部ひっくるめて、幸せとか?」
「幸せ?」
そうか、とヘルツは頷いた。確かに今、自分は心一杯に幸福を感じている。
ヘルツは正直な己の感情に嬉しくなって、「ありがとう」と感謝の言葉を呟いた。
「俺、なんかお礼言われるようなことしたっけ?」
「うん、たくさん!」
ヘルツは笑う。
ただ、幸せだったからだ。




