Ⅲ 僅かなる旅路(わずかなるたび)
白兎の毛並みの様な、長い白髪が風に泳いでた。
一人の少年が地面に突っ伏している。
茶色くすす汚れて虫食いのように穴の開いたのマントが乾いた風で舞い上がると、彼は驚いてはっと目を覚ました。
ゆっくり起きあがって辺りを見回す。
「どこ?」
暖かな眩い光に包まれて、彼はその蒼い宝石、ブラックオパールの様な瞳を瞬かせる。そこで、少年の方へ「おおい」と声がかかった。
「そこのお嬢さん。そんなところで何やってるんだ?」
背後からそんな声がして彼が振り返ると、鍬を担いだ男。
亜麻色の髪を後ろへ撫でた髪型で頬に三本傷のある人物が立っていた。
彼の首元にかかった青色の宝石がついた首飾りが、太陽の光に反射してキラキラと光っている。
「おお、お嬢さんは別嬪さんだなぁ」
「べっぴん?」
「そうそう、美しい人ってこと。でもこの辺で見たことないな、どっから来たの。旅のもんか?」
男が無精ひげを撫でて微笑む。よく見ると彼は太陽のように眩しくて、暖みのある顔をしている。少年は安堵して息をはく。
「どうやら、ボクはここに連れられて来たようです」
「僕っ子、だとぉ」
そう呟いて拳をぐっと握りしめる男に対して少年は不可解そうな視線を投げかけた。そして何かを決心したように「うん」と頷くと男を見上げる。
「あのう。もし宜しかったら、ボクを助けてくださいませんか?」
†
男の家へ招かれると、同じ顔をした二人の幼女が現れた。彼女らは不思議そうに少年を見上げると声を上げる。
「わぁ、へんなお顔~」
「まじんなの~」
「……まじん?」
少年が首を傾げると男が「コラッ!」と叫んだ。幼女たちはわーっと言いながら辺りを逃げ回る。
「ミッテ、ロッテも。お客さんだに失礼だろう。……あ、ごめんな。気にすんなよ」
困った様子の男とは裏腹に、神妙な表情を浮かべた少年は眉間にしわを寄せる。
「あの、まじんとは何ですか? ボクのことでしょうか?」
そう訪ねると男は少しだけ眉を上げて、驚いた様子を見せた。
「あー、魔人ってのは。
そうさなぁ、人間じゃない奴? うーん、実は俺もよく理解してないんだが。まぁ、お嬢さんは人間には見えんな」
彼がまた首を傾げると、男は顎に手を当てて考える仕草をした。
それから、「ちょっと待ってな」と奥の部屋へ入って行く。戻ってくると手に薄くて丸い物を持っていた。
「ほら、鏡。見てみるか」
「かがみ?」
その丸い物を受け取るとのぞき込んでみた。
そこには痩せた人物が映っている。邪魔な前髪をかき上げてみると、現れたのは青白い顔をした子供だった。
瞳は蒼く輝いているが、耳は鋭く尖っていて長い。顔に血管の浮き出たような青白い文様の様なものまである。
その姿を見て、少年は驚いてその手鏡を落とした。
ガシャンと音が鳴って鏡は転がって行く。
「これなんですか?」
「何って鏡だよ。自分の顔が映ってると思うんだけど」
「ボクは、まじん、魔人。そしてどうやら魔人は変なのですね。なるほど……」




