Ⅱ 翡翠色の悪魔(8)
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「オレには圧倒的に力がねぇ。
腕も足も細っこい枝みてぇで、役にたたねぇんだ。だから、悪魔でもバケモンでもその力が必要なんだ」
「……」
「頼むよ、フォーゲル」
その言葉にフォーゲルが頷く。しばらく無言の時が流れた。
そこでミルヒが唐突には力なくその場にへたり込んだ。
先ほど頭を打ち付けたこと心配したように、フォーゲルは慌てた様子である。
確かにくらくらとしているけど、それは頭を殴ったからだけじゃないとミルヒは思う。
ふと子供たちの笑顔が蘇ってきて悲しくなった。
でも、泣き言を言っていても仕方がない。
それでも前に進むしかないのだから……。
「なぁ、フォーゲル。さっきの奴はどこから来たんだ?」
ミルヒが問うと、フォーゲルは「「城」」っと呟いた。
「城ってどこだ。どこにそんなものがある?」
ミルヒはきょろきょろと頭を動かす。少女にはお城なんてものは無縁で、見たこともないのである。
「サナアト」
「さなあと? どこだそりゃ」
「東ノ方角」
フォーゲルは空中を指さした。その方角には、高々と山がそびえ立っている。
「山の方か。さて、どうやって行ったものかな」
「ダイジョウブ」
そう言ってフォーゲルはミルヒの体をひょいと持ち上げた。大事そうに抱え込むと空を見上げた。
「おっ?」
そうすると、すっとフォーゲルの体が中に浮いた。
「おお、本当に飛んだ。すげぇっ」
ミルヒが興奮したように腕を上下に振る。
だんだん高度が上がると、眼下でクスリラの街が小さく見えてきた。
「飛んだのなんか生まれて初めてだ!」
しかし、中に浮いたのはいいものの速度が早くない。ふよふよと揺れながら微妙に進むと途中で、ミルヒは眉を寄せる。
「もうちょっと速く進めないのか?」
「可能。デモ、サナアト迄ハ、魔力、ガ保タナイ」
「よし。じゃあ、取りあえず山だけでも越えよう」
「山ノ向コウハ、ルクライヤ」
「じゃあ、そのルクライヤさんへ全力で行こう!」
「解ッタ」
フォーゲルが目を細めて了解した。と思ったら、急に視界が歪む。
「――ぶあっ!」
脳が処理できないほどのスピードで世界が回る。
速度に抵抗した風が痛いくらい肌に打ち付けてきて、ミルヒは叫ぼうとした。
しかし、舌を噛みそうになってミルヒは唇をキツく閉じた。
「(まって……)」
速すぎでフォーゲルの顔も見えない。遠くの方で雷の音が鳴っている。
それを最後にガクリと意識を手放してしまった。




