Ⅱ 翡翠色の悪魔(7)
「うぎうぇきやっ」
そして彼は意味の分からない言語を叫び始める。そのまま倒れ込んで悶絶すると、徐々にその体がボコボコと膨張し始めた。
「なんぇ、これッ」
最期にその言葉を残して体が弾ける。赤黒い体液が辺りに散布して、雨のように降りかかった。
その様子を無言で眺めているフォーゲル。ミルヒはふらふらと彼へ近づいた。
「何がどうなったんだ。フォーゲルお前がやったのか?」
そう呟くと、彼はその翡翠の双眸を向けてきた。先ほどかかった赤褐色の液体がぬらぬらと光っている。
彼の悲しそうなその表情で、ミルヒは自分が怯えていることに気がついた。足も肩も体もガタガタと震えて止まらない。
フォーゲルが踵を返す。ミルヒは「待て」と叫んだが、それでも彼は歩みを止めなかった。
ゆっくりとだが確実に距離をとる。ミルヒは拳を握りしめた。
「許さねぇっ、許さねぇよ。――フォーゲル、お前も悪魔の仲間なんだろっ!」
無我夢中にその背中に跳び付いた。涙がとめどなく溢れてくるのをどうしても止められない。そんな自分が、ミルヒは悔しくてたまらなかった。
足下に落ちていた木片を拾い上げると、フォーゲルの腰元めがけて打ち付ける。バキッと嫌な音がするが、その割にはあまり効果がないようだ。
フォーゲルがとても悲しい目をしていることに、ミルヒはカッとまた頭に血が上ったのが分かった。
堅い木片を握りしめると、その木片で、自分の頭を殴りつける。全身に痛みが伝わのを堪えて、自身をもう一度殴りつけた。
これには彼も驚いて、今まで見たこと無いような軽快な動作であわあわと手を動かしている。
だが、どうしたらいいのか分からないようで戸惑っている様子だ。
「これで痛み分けだ。オレの方がちょっと少ないけどさ」
「……」
「フォーゲル、これで許し合おう。これからは、何があってもお前を裏切らない」
ミルヒの額から流れた血液が目に入ると、それを豪快に拭う。力強い眼差しをフォーゲルに向ける。
「だから、お前の知ってること、全部、話せ」
「……」
「さっきの奴はお前がいたところから来たんだな?」
「……」
「オレは頭良くないけど、これだけは分かる。まだあいつのみたい奴が来るんだろう」
フォーゲルは躊躇った様子で小さく頷く。
「セカンドとか命令とか分かんねぇことばっかだ。でも、ほっといたらまた誰かが死ぬんだ。違うか?」
ミルヒは、拳を握りしめる。




