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聖地巡礼(4)


 二人はすぐさま踵を返す。

 入り口の扉から野外へ出ると、人々が街の方を指さして叫んでいるのが分かった。



 遠くの街並に砂埃のような煙が舞っている。

 「おい、崩れるぞ」と一人の男が叫んだ。


 そちらを見ると、

 街の中心にある長い塔が音を立てて崩れていく。その噴煙の中に異様な影を見つけると、リヒトが眉を潜める。


「魔獣、だと」



 崩落に気を取られて気づくのが遅れたが、彼の言葉でネージュもその正体を確認した。


 焦げ茶色の体毛で覆われ、尻尾が蛇、獅子の様な胴体に山羊の頭をした魔獣だった。十メートル以上はある大きな体を揺らしながら、街を破壊しながら移動している。



 肌で感じられるのは大きな魔力の存在。先ほどからネージュが感じていた妙な違和感の正体だった。



「醜い容姿だ。あれが野生の魔獣だというのか」


 ネージュが鬼気として呟くと、それを聞いたリヒトの表情が強ばる。

 民衆が口々に叫ぶ。


「こっちに向かってくるぞ、逃げろ!」

 

 そして、その場は地獄絵図の様となった。


 呆然と立ち尽くしているのは修道女たちである。他の者は我先に逃げようと人を押し退け倒していた。



 丘から転げ落ちて血を流しているような者も見受けられたが誰も助けようとはせず、寧ろその上を平然と走り抜ける者までいる。巡礼者も、見物客もみな関係はなく、自分を守ることで必死なようだ。


 そして一部の聖職者たちは教会内に立てこもる動きを見せた。


「俺たちも教会内へ待避するぞ」


 リヒトがそう叫んだが、ネージュは冷静だった。「自分が持っているのは何のための能力なのか」と右手の方へ魔力を集中しながらそう考える。


 眼前には今にも丘を越えようとしている魔獣の姿があったのだ。




 †


 ネージュが丘の下へ駆け出すのを見て、リヒトは一瞬失神しそうな程に冷静さを失った。

 止めろと叫んだが、もはや彼女には届いていない。


 止めろと叫んだが、もはや彼女には届いていない。

 彼は銃のホルスターに手を掛ける。魔力で操る二丁の銃をリヒトは素早く引き抜く。


 しかし、さすがは魔王の娘である。彼女はもう魔獣の眼前で右手を振り上げていた。ネージュから閃光が放たれると、幾重にも重なった光線が魔獣に襲いかかる。


 ドッと魔獣の頭から真っ赤な血液が噴き出して、山羊の頭が華麗に宙を舞う。



 しかし、魔獣は歩みを止めなかった。巨大な足に敷かれた人々が阿鼻叫喚のくぐもった声を上げている。


 そんな人々のことなど、リヒトは気にも止めなかった。恐怖に転がった人々を避けながらネージュへの元へと駆け寄る足を休めない。


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