守護斬殺
「ねね、見よ」
そう言ったのは帰蝶様の部屋で、いつもどおりの煌びやかな着物に身を包んだ帰蝶様だ。
帰蝶様のその視線は目の前に置いてある水を溜めた桶に向けられている。
ゆらゆらと揺れ、外光を反射する水面には舟の形をした鉄が浮いている。
「次の物を入れてみるぞ」
帰蝶様はそう言うと、桶の横に並んでいる鍛冶師に作らせた様々な大きさの舟の形をした同じ重さの鉄の一つを手にした。
その舟の形は小ぶりな大きさ、つまり舟を形作る鉄が厚いものだった。
帰蝶様がそれを水面の上に置き、手を離した。
当然のごとく、ぶくぶくと沈んだ。
「これは確かに沈んだ。
ねねの言うとおりじゃなぁ」
新しい知識を得て、帰蝶様は生き生きとしておられる。
そんなところに、信長様がやって来た。
「お濃、大変な事が起きた!
お、ねねも来ておったのか。
二人で何をしておったのじゃ」
「よいところへ、信長様。
これをご覧ください」
帰蝶様が目の前の桶を指さした。
そこにはさっき帰蝶様が入れた二つの舟の方をした鉄が、一つは桶の底に沈み、もう一つは水面に浮かんで入っている。
「これはいかがした事じゃ!
て、て、鉄が浮かんでおるではないか!」
「ですが、一つは沈んでおりますでしょう。
どちらも同じ重さなんですよ。大きさが違うだけで。
ほら、まだいろんな大きさのものがあります」
帰蝶様が桶の横に並ぶ、舟の形をした鉄を手で指し示した。
「わしも、一つ入れてよいか?」
「どうぞ、好きなものをお選びください」
「うむ。できれば、この桶の中で浮いておるのと同じように、浮くものを選んでみたいものじゃ」
そう言うと信長様は桶の中の浮かんでいる舟の形の鉄と、並べられた舟の形の鉄を見比べ始めた。
「なるほどのう。
そう言う事か。
大きな物の方が重くて沈みそうじゃが、同じ重さとさっき言っておったのう。
とすると、大きい方が大きさに比べて軽いと言う事か」
そう言って、信長様は並べられた舟の形の鉄の中で、一番大きなものを選んで、桶の中に静かに置いて、手を離した。
「おお、浮いたぞ。
やはりそう言うことなのか?」
「はい。信長様。
ねねが申すには水と同じ大きさにした時に、水より軽いものは浮くのだそうです。
ねねと話していると暇にはなりません。ほほほほほ」
帰蝶様が笑っている。
「ところで、大変な事が起きたとおっしゃっておられましたが、何があったのですか?」
「おお。そうじゃ。
清須の城で斯波様が坂井大膳めに討たれたそうじゃ。
斯波義銀様が助けを求めて、駆け込んでこられた」
「と言う事は織田信友様を討つ大義を手に入れられた訳ですね」
「この機を逃してはなるまい。
守護殺しの信友と坂井を討ち、清須城を奪い、義銀様を我が手で守護の座にお戻しつかまつる。これは名実ともに尾張を我が手にする手始めになろうぞ」
おお、このイベント。それほど詳細を歴史では習わないけど、麒麟が〇るでは見た!
策略で清須城を奪うやつ!
「近日中に出兵するぞ」
「ですが、信友様相手に多くの兵を失うのはいかがかと」
キター! 帰蝶様の策略。
「ですよね。帰蝶様。
ここは信光様あたりと組んで戦ではなく、策略で清須城を落とされては」
「ねね。
色んな事を知ってはおるが、まだ人と言うものを理解するには幼いようじゃな」
「はい?」
「清須の城を手に入れるに、信光様を使って策略を用いるのはよい考えじゃ。
信光様の兵を清須城に招き入れさせ、信友様を討つと言ったところであろう?
我が方の犠牲を最小限に抑えられますからね。
ですが、それには信光様に頼らざるを得ないほど、信友様が弱っている必要があります。
まずはここで信長様の力を示し、信友様の兵力を削いでおきましょう」
「うむ。お濃の言う事、もっともじゃ。
しかも、その信友様との戦では出来る限り我が兵の犠牲を抑えたい。
ここは信勝の兵を利用させてもらおうかの」
「ほほほほ。信長様のお考えは、私の考えと同じようですね。
我こそは正統な後継者と考えておられる信勝様はきっと信長様に負けまいと頑張りましょう。
信長様はほんによい所に目を付けられる」
「うむ。
信勝の下には猪武者の柴田勝家がおるから、信長めなどに手柄は立てさせまじと、奮戦するであろう」
「しかも、そうなれば、柴田殿の兵も減りまするなぁ。
信長様にとってはよいことばかりではないですか。ほほほほほ」
そう言って、にんまりと微笑む帰蝶様って、マジで怖いかも。
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