藤吉郎の頭の中
「ねね。あの店の団子でも食うか?」
市の中の小さな店を差して、あかめが言った。
「はい」
「よし。行こう。
だが、ねね。
なにゆえ、こやつもおるのだ?」
あかめさんの横で、に妬けている藤吉郎を差して、あかめさんが言った。
「先日、前田様とお二人になられたではありませんか。
あの時の事を根に持っているようでしたので……」
「ねね。何を言うか。
わしはそのような心の狭い男ではないわい。
お前たちだけで何かあったらいけないと思うて、一緒におるのではないか」
「単に若い女子と一緒にいたいだけであろうが」
「あかめ。それは誤解じゃ。
それではわしは女子であれば誰でもいいみたいではないか」
「違うのか?」
「違うわい。
あかめだけじゃ。わしが欲しいのは」
「私は、お前にはやらん!」
「木下殿、ではお市様なら?」
「おお。いいのう。お市様。
そうじゃ。なぜ、わしをお市様の近くで働かせてくれるぬのじゃ」
どうやら、藤吉郎の頭の中では、一番がお市様、その下にあかめさん。そして、ずぅぅぅぅっと下の方で、圏外に私なんじゃないだろうか?
これが好きな人に、そんな風に思われていたのなら、一晩中泣いていたかも知れない。
いや、そうでない藤吉郎にその程度にしか思われていない事でも、なんだか少し悲しい気がする。
「なんでよぉぉぉぉ!」
「どうした、ねね?」
「あ、あかめさん。
気にしないでください」
「そうか。
困ったことがあれば、何でも言えよ。
ところで、お前たち、お市様に会った事があるのか?」
「おうよ。
信長様の所でな」
「あかめさん。ちらりと見ただけです」
「藤吉、あれは止めておけ。
いや、あのお方がお前など相手にする訳ないから、そもそも選択権は藤吉にはないか」
「何を言うか、わしだって、これから手柄を上げてだな。
ねね! 信長様は出自を問わず、力のある者を重用してくれるのだったよな?」
「はい。
木下殿はこれからますます出世なされます」
「ねね。
どうして、お前はそんなに藤吉に肩入れする。
お前、まさかこやつが好きなのか?」
「えぇーっ、お前。
わしの事が好きだったのか。
じゃが、残念なことにわしは童女には興味ない。
お市様は別じゃがな」
「えっと、えっと」
正直、好きって言う感情は持っていない。でも、ここで否定して、関係が悪化しても困る。
「おお。そうか、そうか。
その反応。わしの事が好きであったのか。
まあ、童女とは言え、好きと言われて悪い気はしないからな」
「ねね。今からでも遅くはない。
思い直せ、こいつが手柄を立てれると思うか?
力もない、小柄な男だぞ」
「あかめさん。
戦は力と力でぶつかるだけではないですよ。
南蛮に昔あった大帝国のローマの強さは土木工事技術と兵站能力にあると言われています。
この二つを磨き上げれば戦の形も変わりましょう」
「ねねはなんで、そのような事を知っておる?」
「まあ、色々と。
これからは戦は兵を多く失わずに勝つ事が必要なんです」
「そうだとしても、こいつに土木作業もできまいて」
「そう言うのは何も木下殿がやる必要はありません。
人を使えばよいのです」
「おうよ。
わしに任せておけ」
「いやいや、お前に人は使えんじゃろ」
「あかめさん、たとえばですよ。
敵の沼城があるとします。
どう攻めますか?」
「沼城では攻めにくいのう」
「ねね。沼城と言う事は近くに川があるのではないか?」
「あります」
「さっきの話からいけば、ねねが想定している答えはこれであろう。
城を堤で囲い、川の水を引き込み、城を水の中に沈める」
「さすが木下殿。
正解です」
備中高松城水攻めを行った秀吉だけの事はあるじゃない!
「いやいや、待て。
正解と言うが、所詮子供の妄想ではないか。
その堤を築くのに、どれくらいの日数がかかると思うておる。
それだけの工事をやるには多くの人と、道具や土がいるではないか」
「あかめ。そんな事は簡単な事ではないか。
周りの村人を使えばよいだけじゃ」
「そう簡単に敵国の兵に協力するかしら?」
「何を言う、あかめ。
土を詰めた俵を持って来れば、銭や米に代えてやると申せば、近隣の村々から民が集まって来るに決まっておろうが。
何しろただの土が米や銭になるのだから、我先にと何度もやって来るわ!」
「おお。さすが木下殿」
この作戦に関しては、算術が得意な石田三成を付ければ最強ね。
「わしは貧しい農民の出じゃからな。そんな事くらい、容易に分かるわ!」
「とは言え、ねねに藤吉。
その話は確かにそうかも知れぬが、そのために必要なのは財力であろう。
それを持ってはおらぬであろうが」
「それは出世していけば、その内に」
「そうじゃ、ねねの言う通りじゃ。
わしもいつまでも、今のわしではない。
手柄を立てて、出世していくからの。
あかめ、期待しておれ!
いや、お市様にも惚れてもらうぞ!」
はぁぁぁぁ。心の中でため息をついた。
この人、やっぱり人を動かす才とかはありそうだけど、もしかして頭の中は女の人の事だけ?
でも、まあいいか。それでモチベーションが上がるのなら……。
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