空の旅へ・・・
今回は戦闘描写・解体描写がありますが、一瞬・血液描写なしのため、残酷描写ではないと作者は思っております。しかし、不快に思われる方もいらっしゃるかもしれませんので注意書きをさせていただきます。
「うーん、もう少し食料を買っておいた方が良いかな、いや、途中で何か狩ればいっか。リンって料理できる?」
「うん、時々教会の皆で作ってたから。一通りは出来ると思うよ。」
よし、ならば兵糧はオッケーだね。じゃあすぐに出ようか。
二人でトコトコ歩いていって十分ほどで城壁へとついた。衛兵に、ギルドで依頼を受けたから外に出たい、と言うと、分かりました、と了承して手続きをしてくれた。その後、三分ほどで許可を出してくれた。
「では依頼、頑張ってくださいね。」
「はい。じゃあいってきまー、」
<騎士団団長のイーヴァです。大至急マナさんを探してください。つい最近騎士団に来た黒髪の女性です。服装は珍しいものを着ているのでわかりやすいと思います。今は十二歳程の女の子と共に行動していますので、見つけた方はすぐに私の執務室まで連絡してください。よろしくお願いします。>
無線で連絡が入った。いくらなんでも早すぎるでしょう、イーヴァさん。あれだけくすぐり地獄に落としたのに、もう起きれたんだ。流石は騎士団長。基礎体力が一女子高生とは違う。
「あ、あの、どういう事ですか、マナさん。」
おずおずと私に聞いてくる衛兵。うん、仕方ないね。
「許可貰ったんで出国します。では!」
そう言ってリンの手を握って走り出した。後ろからは、追ってください、と言う声が聞こえたがそんなことに構っていられない。門の格子が降りてくる。やばい、間に合わないなこれ。
「『インテシオ』」
自身に身体強化の呪文を唱え加速し、なんとか門の外に滑り出た。
「門を上げろ!」
という声と共に格子が上がっていく。振り返ると、十人程の衛兵が追ってきた。ああ、めんどくさいな。そこで私はリンに聞く。
「ねえ、リン?空って飛んでみたい?」
「え?」
それを了承と取って、さらに呪文を唱える。
「『ハルシオン』」
私の背中に翼が生えた。それを見てリンが目を丸くして訊いてくる。
「お姉ちゃんって天使だったの?」
「うん。そうだよ。リンを救いに来た天使なの。」
大嘘を吐く時点で天使ではない。むしろ私は悪魔の様な性格だ。何で黒翼じゃないんだろう、私の翼。しかし、そんな事を知らない衛兵たちは気後れしている。そりゃそうか。自分たちが追っている相手が天使の様な白い羽を生やしているんだから。でもそんなことは関係ない。
さあ、空の旅と行きましょう!
「しっかり掴まっていてね、というか掴むよ。」
といって後ろからリンを抱きしめる。そしてその状態で羽ばたいた。すると私たちの体は一気に空へと舞いあがった。
「すごい・・・」
リンは目をキラキラさせながら見下ろしている。高度約五百メートル、知人に魔法使いがいなければ見られない景色だろう。さて、こうやって空高く浮かんだんだったらあのセリフを言わなければならないだろうか、いや、言わなければならないだろう。それでは、
「ハハハ、人が〇〇のようだ!」
「・・・」
リンが突如、どうしちゃったの?というような目で見てきた。ごめん、とある作品を見た人は言いたくなるもんなんだよ。だからそんな目で見ないで、お願いだから。
「さて、気を取り直して。海だったよね、どっちにあるの?っていうかどれぐらい距離あるの?」
そう訊くと私に後ろからホールドされているリンは、やっぱりか、という様な雰囲気と共に溜息を吐いた。妹に溜息吐かれると悲しくなるな。
「お姉ちゃんってすごいのか抜けてるのか分からないよね・・・海はあっちの方向で馬だと急いで一週間ぐらいかかるらしいよ。」
そう言ってリンが差したのは国の西側。
「一週間かぁ。結構長いなー思ったより。魔力がどれぐらい続くのか調べるために出来るだけ飛んで行こうか、それでいい?リン。」
「分かったよー。」
そう言ってリンは景色を楽しむ仕事に戻る。喜んでくれたようで何よりでございます。
じゃあ、私も出来るだけ魔力を使ってみようかな。といっても何使おうかな。手を使うのはリンを落っことしちゃうし。あ、そういえば丁度いいのがあったっけ。
「『クアリー』」
呪文を唱えた瞬間、私の視界が、視界というより自分の感覚全体が広がっていく。
「お姉ちゃん、今何やったの?変な感じがしたんだけど。」
「ああ、分かっちゃった?大丈夫。害を及ぼすものじゃないから。」
今の『クアリー』は索敵呪文。自分の感覚を広げて魔物を先に発見するという呪文である。魔法を使う人、もしくは感覚が強い人は私が広げた感覚が分かっちゃうんだよね。何でこんな設定にしたんだっけ。私の事だから単純に面白くなかっただけな気がするけど。ホント、まさか設定した呪文を自分が使う事になるとは思わなかったな。
索敵したところ、森の中にいろんな魔物がたくさん、後は空に、しかも私たちの進行方向に翼竜型、ワイバーンかな?が三匹群れていた。どうやって料理してやろうかな。
「お姉ちゃん?顔が悪人みたいになっているよ?」
おっと危ない。大丈夫、なんでもないよと言いながら強く抱きしめる。既に諦めたようでリンは黙ってされるがままになっていた。
数分後、私達の前方には三匹のワイバーンが目に入った。向こうも気づいたらしく咆哮した後に襲い掛かってきた。第一陣を翼を羽ばたかせて旋回して避け、念のために『ディフェンシブ』を唱えた。これでやられることは無くなったけど、どうしてやろうか。あ、そういえば訊いておくことがあった。
「ねえリン、あいつらの肉ってうまいの?」
その質問に小首を傾げ、
「翼竜の肉は市場に出回ったことが無いからわからないけど、文献にはラプター帝国の方々は食していたって書いてあったよ?」
よし、食べられるように強化後の踵落としで決定。
「リン!」
「何?」
「今日の夕ご飯は翼竜の肉で焼き肉だよ。」
「そ、それは初日から豪華でもたれそうな晩餐だね。後で野草とかも探しておこう。」
リンも何やら決意を固めたようなので戦闘の準備に入る。と言っても身体強化をかけるだけなのだが。
「『インテシオ』」
自分の体が強化されたのを感じて頷き、再び翼を使って旋回し、翼竜一匹の背に回る。
「さーて、まずは、一匹!」
と、踵落としを喰らわせる。全く女の子らしさも、魔法使いらしさも皆無な攻撃方法である。ドゴッとすごい音がしてワイバーンが落ちていく。後で回収するから待っててねー。
他の二匹も狩ろうかと思ったけど戦力差を自覚したのか、狙う前に逃げて行ってしまった。個人的にはもう少し戦いに慣れたかったけど、三匹の翼竜を狩ったところで使い道が無い。毎日違うものを主菜にしたいものだ。
海では魚介類のオンパレードだからそれまで肉をがっつり食べておきたいなーと女子らしからぬ事を考えながら急降下し、落としたワイバーンの横に着地する。全長三メートル、肉にすると何キロぐらいあるかなーと考えたところで気づく。
「どうやって捌こうか。」
「考えてなかったんだ・・・。衝動的に出てくるからこうなるんじゃない?」
う、痛いところを。まあいいけどね。自然のナイフがあるし。
「『アウラ』」
風魔法を使ってとりあえず翼を切り落とす。それを見てリンは、
「奇跡の御業であるはずの魔法をそんなことに使うなんて・・・。他の魔法使いさんが知ったら激怒するよ。」
と呆れた声を出していた。私は『アウラ』という初級風魔法を使ってワイバーンを捌きながら、
「使えるものは使っていかないと損だよ、お嬢さん。」
とおどけて言った。
それから『アウラ』を唱える事、十数回。ワイバーンは肉塊と化した。皮に肉が残っていて少しもったいない気がしたけど、ワイバーンを落として騒がしたお詫びという事で森の生き物にあげればいい、ということで放置しておくことにした。
「えーと?これでカードをかざせばいいんだよね?」
そう言いながらカードをワイバーンの肉の上にかざした。すると目の前にあった肉塊が消え、ギルドカードの右側の欄に{ワイバーンの肉×5}と表示された。
「へー、便利なもんなんだねー。」
とギルドカードを眺める。するとその{ワイバーンの肉×5}の下に{ナイフ×1}や{テント×1}などあったのに気づきショックを受ける。
「しまった、これ使えばよかったんだ。」
「気づいてなかったんだ、ギルドにいたフォーセさんって人に言われてたのに。私はもしかしたらと思ってたけどてっきり魔法の練習してたんだと思ってた。」
「教えてよー。でもまあこれでとりあえず夕食の材料はゲットできたね。」
「い、いや、野菜もちゃんと取ろうよ。」
苦笑いで返された。よーし、無視することにしよう。悲しくなってくるからね。
「もう一度飛ぶよ。出来るだけ魔法を使って魔力の底を見たいんだ。」
「はーい。」
そう言って私の前に立つ。それをギュッと抱きしめる。そしてリンの右頬に頬ずりする。再び『ハルシオン』を唱え翼を出した。
「ねえ、明らかに一つ余計な動作混じってたよね?」
気のせいです。
「じゃ、飛ぶよ。」
翼を羽ばたかせて再び空の旅へと戻る。さっきから展開し続けている『クアリー』に気を向けると周りにぶつかりそうな魔物はいなかった。リンに言わせれば安全第一なんだろうけど、私から言うと全く面白くない。
「『クルスト』」
ボソッと呪文を唱えた。
「何か言った?お姉ちゃん。」
いーや、なにもー。
というわけで久々の戦闘でした。一方的に一撃を入れただけの出来事を戦闘と言ってよかったらの場合ですが。今のところ無敵ですね、マナさん。これからもな気がしますが。
さて、最後にマナが唱えた『クルスト』とはどんな効果の呪文なのでしょうか。因みにヒントは、暇つぶし、です。それではまた次話でお会い出来たら嬉しいです。




