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ゴールデン

 

 

 まもなく連休。高校生になって初めての連休。特にイベントも無く平々凡々な日々の中で、学園生活に慣れ始めた頃にやってくる大型連休。

 黄金週間。とてもゴールデンな響きだ。このゴールデンな休みは、やはりゴールデンに過ごさなければならない。

 そんな訳のわからない事を考えながら、キノコ頭がトレードマークの鬼頭が一年四組の扉を開き、鋭い目つきで中をキョロキョロ見回した。

 その挙動不審な動きにクラスの誰もが冷めた視線を投げかける。無言の拒否反応に鬼頭は開きかけた口を閉じる。

(……くっ、こいつら、なんて冷めてやがる……いったい俺が何をしたっていうんだ……)

 教室の中に入れず立ち尽くす。挙動不審に加え鋭い目つきでジロジロ見回す鬼頭の姿は、どう好意的に見ても不審者以外何者にも見えなかった。

「――鬼頭くん、何やってんの?」

 後ろから女性の話し掛ける声がする。ずいぶん勇気のある行動だ。

 鬼頭はその声に振り返ると、そこにひかるが立っていた。隣に女子を連れている。どうやらトイレに行っていた様だ。

「どうしたの? めちゃくちゃ怪しいんだけど」

 ジト目で挙動不審な鬼頭を見るひかる。隣の女子も若干ひきつった表情で見ている。

「ひかる、ちょうど良かった。今日、クラブ会議を行うから休まずに来てほしい。用件はそれだけだ。伝えたぞ、じゃあな!」

 緊張しているのか、少し早口に用件を伝えると鬼頭は足早に去って行った。

「……はぁ。ま、いいっか。小春ちゃん、早く戻ろう」

 最後まで挙動不審な行動にひかるは首を傾げつつ教室に入る。

(メールで済む話よね、あれって)

 もうすぐチャイムが鳴る。せっかくの休み時間にわざわざ教室にやって来た鬼頭に少し呆れるひかるだった。

 

 次の休み時間。今度は一年六組の教室の前に来た鬼頭。

 中に入ろうとすると、大きな歓声と共に拍手の音が聞こえてきた。

「キャー、すご~い!」

「キレてるぞ!」

「スゲェ! なんだ、あのケツ!」

「もっこりヤベー!」

 黄色い歓声の中、交じる野太い声。

 教壇に立ち、様々なポージングを決める好男がいた。ブリーフ姿で生徒たちに筋肉を文字通り魅せている。

 その姿はまさに、ボディビルダーそのもの。高校生離れした肉体にクラスは興奮覚めやらぬ様子だった。

(……休み時間に何やってんだ……)

 鬼頭は呆れて言葉が出ない。

 これは、生活指導の先生に見つかったら確実に職員室に呼び出しをくらうレベルだ。いや、もしかしたら一発で停学コースかもしれない。

 端から見れば、ただの露出狂なのだから。

 だが、クラスは何故か大盛り上がり。高校生には刺激が強いのであろう。

 好男のワンマンショーだったボディビル大会。しかし、好男の筋肉に触発されたのか、体格の良い男子生徒が一声叫ぶと学生服を脱ぎ出し教壇へ上がる。

「――いいぞ!」

「下も脱いでしまえ!」

「もっこりしろ~!」

 黄色い歓声が湧き起こる。もしかしたら、筋肉よりも股間の盛り上がりに興奮していたのかもしれない。

 教壇を下りた好男は、鬼頭の視線に気づくと菊門を呼び寄せ、入り口で呆然と立ち尽くすキノコ頭の元へ行く。

「――やぁ、鬼頭くん。どうしたんだい? 六組に来るなんて珍しいじゃないか」

 菊門から制服を受け取った好男は、ズボンを履きながら珍しい訪問者に爽やかな笑顔を振りまく。

「ホント、珍しいね。鬼頭くんが来るなんて。もしかして、好男さんの筋肉を見に来たの?」

 うら若き乙女、という言葉が似合う男の娘・菊門が横から口を出す。

「でも、好男さんはボクのものだぞっ。いや~ん、言っちゃった~」

 自分で言って照れる菊門。その仕草は女子そのもの。小柄で華奢な菊門は、制服が男子用で無ければ女子でも通用しそうな程女の子らしかった。

「おいおい」

 鬼頭は容赦なくラブラブっぷりを見せつけるこのカップルに苦虫を噛み潰した様な顔になる。

「今日、クラブ会議をするから休まずに来てほしい、って伝えに来たんだよ」

 これ以上ラブラブっぷりを見せつけられたら堪ったものじゃない。鬼頭は用件を簡単に伝える。

「わかったよ。大事な会議があるなら行かなくてはいけないね」

 好男は笑顔で頷き菊門の方を向く。

「香、今日はクラブに出るぞ。いいね?」

 優しく肩を抱き寄せながら菊門に同意を求める。

「うん、もちろん。ボクはいつでも好男さんと一緒だよっ」

 好男の肩に抱かれながら菊門は頷く。

 暑苦しい空気に鬼頭は吐き気を感じ、二人に手を振ると足早にトイレへと向かった。

 

 

 お昼休み。

 キング・オブ・休憩、みんな大好きお昼の時間だ。

 一年三組の教室に来た鬼頭は、窓際の席でたそがれる金太のところへ真っ直ぐ向かう。

「おお、鬼頭ではないか。どうしたでござるか?」

 珍しい来客に金太は驚きの声を上げる。

 いつも一緒にいる様な感じの二人だが、クラスが違う事もあり学校ではあまり会う機会が無いのだ。特に鬼頭はがり勉色が強く、見た目のユーモラスさとは裏腹に成績が何気に良かったりする。

 そのため、余程の用事があるのでは、と金太は密かに思うのだった。

「同志・金太よ、今日はクラブ会議をするので必ず来てくれ。ゴールデンな企画を考えたんだ」

 先ほどまでとは打って変わって生き生きとした表情で鬼頭は力強い口調で話す。その気合いの入った声に鬼頭の意気込みが垣間見えた。

「ゴールデンな企画でござるか……なんか、ワクワクする響きですな」

 金太は鬼頭の意気込みに何か面白い事が起きそうで期待に胸を躍らせる。

 彼は時折みんなを驚かせる事をしてくれる。いつもはロクでも無い事の方が多いが。

 今回の企画は、何かありそうな予感がする。

 学園生活初の企画。金太は期待せずにはいられなかった。

 

 

 




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