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ローザタニア王国物語 〜A FAIRY TALE〜  作者: 月城 美伶
Artémis des larmes ~アルテミスの涙~

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Artémis des larmes ~アルテミスの涙~ 第十二話

 「エレナ?何だか少し顔色が悪いですね」

「ヴィンセント様…何だか私、少し人酔いしてしまったようで…少し気分が…」

「おや、大丈夫ですか?少し夜風に当たりに外に行きましょう」

「お気遣いさせてしまって申し訳ございません…」

「何を仰っているんですか。さぁ…」


パーティーも終盤の夜遅い時間、未成年の者たちは会場から引き揚げて大人たちの少しムーディーなゆっくりとした時間が流れております。

緊張のためかシャンパンを飲み過ぎたのもあるのかエレナは少し青白い顔でヴィンセントの袖を掴みました。ヴィンセントはそんな彼女の身体を支えるようにそっと腰に手を回します。


「…ヴィンス?」


二人が外に出ようとしたその時、ヴィンセントの背後から甘くて柔らかいお声が聞こえてきました。

ヴィンセントは聞き覚えのあるその声の方に振り返ると、驚いたように瞳を大きくしてその声の方を見つめております。


「フローレンス…」

「ヴィンス!久しぶりね」

「…あの…ヴィンセント様…」


ユリの香りを纏い、亜麻色の美しい髪を品よくまとめ上げたペリドットの様な輝く瞳の女性―――…フローレンスの姿を見て驚いて固まってしまっているヴィンセントに、エレナは不安そうなお顔でチラッとヴィンセントのお顔を覗き込みました。

あ、あぁ…と生返事の様に一声返すと、ヴィンセントはエレナの方を向き少し先にいたメイドに声を掛けて呼び寄せました。


「そこの君、彼女は少し気分が悪いようだ。医務室にご案内してやってくれ」

「あの…ヴィンセント様…」

「申し訳ありませんエレナ。少し席を外させてもらっても…?」

「え…えぇ」


戸惑いながらもエレナは頷くとヴィンセントはホッとしたように微笑み、メイドにエレナの案内を託しました。フラフラした足取りでエレナはメイドに案内されて医務室の方へと向かっていくのを見送ったヴィンセントは再びづローレンスの方を振り返ると足早に近くまで詰め寄って行きました。


「女性と一緒だったのね。お邪魔だったかしら」

「いえ…そのようなことは…。と言うか…何故貴女がここに…」

「あら失礼ね、きちんとご招待を受けているわよ?」

「それは知っています。リストに名前がありましたから。…貴女がパーティーに出て来られていることに驚いているんです…!」

「いつまでも塞ぎ込んでなんかいられないもの。ちょっと久しぶりにパーティーに出たかったのよ」

「…そう…ですか」

「ねぇヴィンス、医務室の彼女のあとを追って行かなくてもいいの?」

「…貴女が私を立ち止まらせたんでしょう」

「フフフ…ごめんなさい」


フローレンスは白い扇子でパタパタと少しお酒で火照っているお顔を醒まそうと仰いでおります。少し赤らんだ頬が彼女の白い肌と相まってただならぬ色香を放っているかのように見えます。

その近くでは男たちがどんなフローレンスを見ていつ声を掛けようかとタイミングを見計らっております。


「…相変わらず無邪気ですね貴女は」

「そんなことないわ、失礼ね」

「気付いていないんですか?今その辺の男どもが無邪気で無防備な貴女を虎視眈々と狙っていますよ?」

「そう?…じゃあヴィンス、貴方が私を守ってくれる?」

「…何でそうなるんですか」

「貴方はそうする義務があるはずよ…?だって貴方は―――…」


フローレンスがにっこりとほほ笑みながらヴィンセントを見つめております。そして最後まで言い切る前にヴィンセントはフローレンスの唇にそっと指を当て遮りました。フローレンスは驚いたような表情を一瞬見せましたが、ヴィンセントの指を取ってニコッと微笑み返します。


「全く…困った人だ、貴女は」

「何かあったらいつでも助けてくれる…そう約束したはずよ?」

「えぇ…そうですね。でもずっと昔の約束ですよそんなの」

「期限は決めていないから継続中じゃなくて?」

「…はいはい」

「はい、は一回よ」

「はい」

「…ねぇ、少し踊らない?」

「貴女には逆らえませんね」


二人は手を取って少し広めのスペースの方へと移動すると、ゆったりと流れているムーディーな音楽に乗って身体を寄せて踊りはじめました。最後のワルツの曲だったのでしょうか、近くで見ていた男どもは残念そうな顔をしてその場を去っていきます。近くに邪魔が居なくなったヴィンセントとフローレンスはワルツの音楽に身を委ねておりました。


「フフフ…そう言うところが大好きよ、ヴィンス」

「私は…貴女が大好きで大嫌いですよ」

「正直ね」

「私はいつだって本能に忠実ですから」

「そう…。じゃあ…この後ウチに来てくれるかしら…?」

「命令ですか?」

「命令よ」

「…嫌だと言ったら?」

「そう言われると無理やりにでも連れて行きたいわ」

「…嫌です」

「そう…残念だわ」

「貴女はそうやっていつも私を困らせる」

「…それが好きなんでしょ?」

「さぁどうだか」

「フフフ…困らせちゃったわね…ごめんなさい。いいのよ、久しぶりにこうやってお顔が見られたんだもの。それで充分よ」

「…」

「さぁこのワルツが終わったら医務室に行ってあげて頂戴。きっと彼女、ヤキモキしているわ」

「そうですか?」

「そうよ。でも…時間が出来たらその時はウチに顔を見せに来て頂戴ね。約束よ」

「分かりました」


ヴィンセントが少し眉をしかめプイッとあさっての方向を見ると、フローレンスはニッコリと満面の笑みで返します。

音楽が最後の盛り上がりに入り、一段に大きく展開し始めるとフローレンスは大きく優雅にクルクルと回ります。一度離れたお二人でしたが、ヴィンセントはもう一度フローレンスをしっかりと抱きしめるようにホールドすると、そのまま二人は身体を密着させながらフィニッシュへと向かいました。


「ダンス上手になったわね」

「紳士の嗜みですから。それに貴女に昔特訓させられましたからね」

「そうね。陛下もヴィンスも可愛い生徒だったわ」

「今だって可愛いですよ」

「…よく言うわね」

「そっちこそ」


お互い顔を見合わせて笑い合うと、フローレンスは繋いでいたヴィンセントの手をスッと離しました。

そしてさぁ…と言わんばかりに微笑みます。


「それでは失礼しますよ」

「えぇ。またね…」


ヴィンセントは一礼するとパッと踵を返して足早に医務室の方へと向かっていきました。

フローレンスはその背中が見えなくなるまで口元に微笑みを浮かべたままじっと見送っていたのでした。


何かが胸騒ぎするような夜、神秘的な月の光に魅せられて狂わされて何かがゆっくりと動き始めているのかも知れません。

それを知っているのは運命の女神様だけ―――…かも知れません。

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