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ローザタニア王国物語 〜A FAIRY TALE〜  作者: 月城 美伶
jardin secret ~秘密の花園~

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第4章 Jardin secret ~秘密の花園~ 第十三話

…………………………


 「やぁルチア…こんなところに居たのかい?」


色とりどりの花々が咲き誇るお庭の奥にある白い石を積み重ねて出来た小さなガゼボをカルロ伯爵は満面の笑みで覗き込まれました。


「カルロ…!」

「あ…大丈夫、そのままで構わないよ…。隣に座ってもいいかな?」


ルチア―――…と呼ばれたその女性はカルロ伯爵の方にパッと下を見ていたお顔を上げて、とても驚かれたような表情をしておりました。

カルロ伯爵はスッとまるで爽やかなそよ風が入り込んできたかのようにガゼボの中に入っていき、ごくごく自然にルチアの横に座られました。


「伯爵…どうしてここが…?」

「貴女の香りを追ってきたんですよ。そうしたらここに誘われたんです」

「まぁ…相変わらずお上手ね。そうやって何人の女性に甘く囁いて(たぶら)かしてきたの?」

「おっと…手厳しい」

「貴方のその甘いルックスには騙されないわよ。私、軽薄な男は嫌いなの」


伯爵がルチアの肩に揺れている淡い栗毛色の髪をそっと指先に絡めご自分の口元に持って行ってキスをしようとされましましたが、ルチアはピシッと伯爵の手を叩いて伯爵をたしなめました。


「…軽薄とは失礼な!私はただ…私に好意を寄せてくれる人に対しては常にウェルカムというスタンスを取っているだけですよ」

「まぁあきれた…」

「淑女も娼婦も少女も…男女構わず私に好意を持って下さる方を愛しております。もちろん貴女のような神に忠誠を誓った聖女であろうと…」


伯爵は叩かれて手持無沙汰だった手をルチアの肩に回し込んでルチアを自分の方向かせ、そっと手を取りルチアのヘーゼルナッツのような色をした輝く瞳を真剣な瞳でじっと見つめられました。

しかしルチアも負けてはおりません。そんな軟派な伯爵には負けずと伯爵のお顔をキッと鋭い視線で睨みつけて捲し立てました。


「伯爵!貴方はいつかきっと神からのお怒りを受けますよ!そのような…神の教えに反するような恋愛など神はお許しになりません!」

「ルチア…」

「その手を離してくださる?伯爵…。私、友人としての貴方はとても大好きだけど、貴方の愛に対するスタンスに関しては絶対考えが相容れないの」

「…ルチア、私は君にも知ってほしい…人を愛することの喜びを」

「伯爵が仰る『愛』は私には知らなくていい愛だわ」

「あぁ…貴女のようにこんなにも若くて美しくしい女性が…愛の喜びを知らずに過ごしているとは何とも嘆かわしい―――…」

「…私は神に対する愛(アガペー)だけで充分よ。伯爵の仰る愛―――…愛欲(エロス)なんてそんなもの知らなくていいの」


伯爵は負けじとさらにルチアの手をギュッと強く握り、他の女性であれば一発で堕ちそうに甘い囁きと視線でルチアを見つめ返しました。ですがルチアはピシッと伯爵から顔を逸らし、大きな瞳を閉じて冷静に伯爵の仰る言葉を拒みます。


「ルチア…」

「そうだわ、伯爵も今度一緒に教会にお勉強に行きましょう!」


ハッと、ルチアは名案を思い付いたかのようにワンオクターブくらい高い声を発して、今度はルチア自ら伯爵の手を握り返します。


「えっ」

「そうよ、それが良いわ!!伯爵、貴方も神に対する愛(アガペー)を学べば、きっと正しい生活を行えるようになるはずよ!!」


伯爵は思いもよらなかったルチアの発言に驚きルチアの手を離して後ずさろうといたしましたが、ルチアのキラキラと輝きまっすぐに伯爵を見つめる瞳にがっちりと捉えられて逃げることが出来ませんでした。


「そうと決まったらさぁ教会に行きましょう!」

「ルチア…私は教会のあの辛気臭い雰囲気はちょっと苦手なんです…。それよりかは修道院で美しい花の様なシスター達とお話をしている方がよっぽど好きです」


ルチアは伯爵の手を引いて今すぐにでも教会に連れて行こうとします。しかし力の差は歴然、ルチアがどんなに伯爵の手を引っ張っても伯爵は岩のようにうんともすんとも動かずにベンチに座っております。


「まぁ…!伯爵はいつも修道院でシスターと長い時間お部屋に籠っていらっしゃるってお噂をお聞きするけど…本当だったのねっ!?」

「まぁお茶くらいはしますが…」

「お茶と言って若くて可愛い(シスター)を誘い込んで、その後にいちゃいちゃされているってもっぱらの噂ですわよ!?」

「それは…彼女たちと神に対する愛(アガペー)愛欲(エロス)の違いを一緒に身体を使って実践…じゃなかった、魂と魂をぶつけ合って研究しているんですよ」

「…ほんっとうに!!最低な方ですわねっ!!ほら、今すぐ教会に行って神父様に今までの懺悔を聞いていただき、そして一からお勉強し直しましょうっ!!」


何としてでも伯爵を動かそうと奮闘するルチアをからかうように、伯爵はルチアに引っ張られる手をブランブランと揺らしながらケラケラと笑顔で楽しそうにしております。そんな様子にルチアはさらにムキになりながら今度は伯爵を羽交い絞めにして立ち上がらせようとした時、ルチアはバランスを崩して後ろにひっくり返りそうになりました。


「ルチア、危ないっ!」

「キャッ!」


ドサッと大きな音が立ったのと同時に辺りの花びらが空に舞い散りました。


「痛…」

「…ルチア…大丈夫ですか?」


ルチアがゆっくりと目を開けるとガセホを飛び出して芝生に倒れ込み葉っぱまみれになったカルロ伯爵の身体があり、その上に乗りかかるようにルチアは倒れ込んでいました。


「カルロっ!」

「怪我はなさそうですね…」

「ご…ごめんなさいカルロっ!大丈夫!?」

「…大丈夫ですよ。ただ…」

「ただ…?」

「なんて幸せな景色なんだろうと、今幸せを噛みしめております…」

「えっ!?」


伯爵は自分の上に乗っているルチアをギュッと抱きしめました。ルチアは驚きと恥ずかしさの余りパニックになっておりましたがそんなのお構いなしにカルロ伯爵は抱きしめる手を緩める気配はありませんでした。


「離してカルロ…っ!」

「嫌です」

「お願いよ…カルロ…」

「ルチア…愛している…」

「…カルロ…っ」


伯爵はパッと起き上がると今度はご自身がルチアに覆いかぶさるような体勢へと変わりました。

少し怖いのか小動物のように震えているルチアの唇にそっと指を這わすと、伯爵はそっとルチアに自分の唇を重ねました。


「…っ!」

「ルチア」

「やめてカルロ…もう私たち…そんな関係じゃないわ…」

「ルチア…どうして…」

「…もう何もかも遅いのよ。もう私は貴族の娘じゃない。神に忠誠を誓ったただの修道女(シスター)なの。もう貴方の愛に応えることは出来ないの…」

「ルチアっ!」

「…ごめんなさいカルロ…私はもう貴方のことを…何とも思っていないわ…。ただの幼馴染の…友人なのっ!」

「ルチア…」

「嫌…っ!」


そんなの関係ないとばかりに再び唇を重ね熱い口づけを交わそうとする伯爵をルチアは渾身の力を振り絞って跳ね除けると、荒い呼吸と潤んだ瞳のまま一目散に駆けて逃げて行ってしまいました。

一人取り残された伯爵はそんなルチアの後姿を見つめながら、再びゴロンっと芝生の上に寝っころがりフフフ…と乾いた笑いを天に向かって投げかけながらどこか寂しげにどこまでも澄んだ空を見上げているのでした―――…。


…………………………


 「…ん」


まだ意識がはっきりとしない微睡の中カルロ伯爵はゆっくりと瞳を開き、まだ薄暗い天井を見つめておりました。


「…朝…か」


一人で寝るには広すぎる白いリネンで統一されたベッドの中で目を擦りながらカルロ伯爵はゆっくりと起き上がり、ぼんやりとした頭で窓のカーテンの隙間から差し込む日の光を見つめておりました。


「夢か…」


伯爵はフッと笑いながら大きな独り言を言って、伯爵は寝乱れてはだけている寝間着の前を整えてゆっくりとベッドから立ち上がり窓に近づき厚手のカーテンをシャッと開け、ゆっくりと繊細な模様が細工された窓をゆっくりと開けました。

窓すぐ下には赤いバラがたくさん植えてある中庭が広がっております。伯爵はまだ少しオレンジがかった朝の光の中に包まれているバラの蕾たちから発せられる香りを胸一杯に吸い込み、大きく深呼吸をされました。


「嫌ですね…昔の夢を見るなんて…。最近滅多に見ることなかったのに」


フワッと庭に咲き誇る花たちの甘い香りがする柔らかい風が通り抜け、伯爵の肩にかかっていた髪を優しく揺らしました。

伯爵はバラの香りを堪能しているかのようにうっとりとした表情でもう一度大きく深呼吸をしようとしたところ、屋敷の1階からガタガタと何やら大きな物音が聞こえてきました。


「…朝からにぎやかですね」


静かな空気の中に現れた音に一気に現実に引き戻され、伯爵は乾いた笑いがつい出てしまいました。

ギィ…っと軋む窓を閉めて伯爵はソファーに無造作に脱ぎ捨ててあるガウンをサッと手に取ってはおられ、お部屋から颯爽と出て行かれました。


 「ロイ、今朝は早いですね」

「カルロ様!おはようございますっ!」

「おはよう。今朝はよく眠れましたか?」


まだオレンジ掛かった空が薄い水色と混ざり合い、ひんやりとした朝の霧がまだ残っている時分のことです。寝間着にガウンを羽織ったカルロ伯爵がギシギシとなる古めかしい階段から降りてきますと、ロイと呼ばれた栗毛色の髪のその少年はまるで主人に名前を呼ばれ喜んでいる子犬のように嬉しそうに振り返りました。


「…あっはい」


しかし伯爵はロイの顔を見るなり眉をしかめてロイの近くへと寄ってこられました。


「ロイ、嘘をついてはいけません。昨日よりもさらに君の肌の艶が減っています。寝られなかったんでしょう…?それに昨日私が君にお使いに頼んだりしたから疲れてしまったのではないですか?」

「…そんなことは…ないです」

「そうですか?ならいいんですが…」


伯爵はロイのブラウス越しでも分かる細い腕を取り、慈しむかのように自分の顔にロイの手を持って行かれました。ロイはそんなカルロ様に戸惑い、伏し目がちに佇んでおりました。


「お茶にしましょう、ロイ。今朝は私が入れてあげましょう」

「えっ!」

「私の入れるお茶はなかなか美味しいんですよ。さぁロイ、君は座っていなさい」

「でも…」

「遠慮は無用です。さぁさぁ!」


伯爵は戸惑うロイの背中を押して居間へと押し込みふかふかのソファーに座らせると、膝の上にクッションを積み重ねて動かないようにと念押ししてキッチンの方へと向かって行かれました。

本気で戸惑うロイはどうしたらいいのか分からずキョロキョロと辺りを見回しておりましたが、ロイの他に誰も居ないので答えてくれる人など居りません。しばらくするとそのままクッションを抱きかかえて大人しく座って伯爵を待つことにしました。

その間に伯爵は素早くキッチンの方へと進んでいき、カウンターの目立つところに置いてあるバラの花びらの砂糖漬けが入った瓶を持って軽快にワゴンを押してロイが居る居間へと戻っていきました。


「君がお湯を沸かしてくれていたから助かりましたよ…。さぁ一緒にいただきましょうか」


伯爵はテキパキとポットからお湯をティーポットに注いでお茶の準備をスマートにこなします。

本来ならば家来であるはずの自分が主人に対してしなければならないお茶の準備をいとも手早くかつ流れるようにされているのを見たロイは、ソファーに座りながらソワソワと少し居心地が悪そうにしておりました。


「セイロンティーですか…良い香りですね。君が準備しておいてくれたんですね」

「はい…今朝はあっさりとしたクセのないお茶がよろしいかと思いまして…。先日のパーティーの疲れがまだ抜けていらっしゃらないかと思いましたので…」

「よく主人を見ていますね」

「昨日起きて来られるのが遅かったですし、昨日少し…その…カルロ様のご気分が優れないような気がいたしましたので…」

「仕事があるとはいえ連日夜遅くまで起きているのは最近身体に応えますからね…私も歳を取ったもんです」

「あ…あの…お気を悪くされたのであれば申し訳ありません!」

「構いませんよ、真実ですから」


カルロ伯爵を怒られたのではないかと青ざめて慌てふためくロイを面白く感じたのか、伯爵は笑いながらお茶をカップに注ぎ、伯爵は口元に優しい笑みを浮かべながらスッとロイに差出しました。

ロイは申し訳なさそうに上目づかいでカップを受け取ると、小さい声でいただきますと呟き一口お茶を口に含みました。


「…美味しい」

「お口に合い何よりです」

「まったく苦味が無くてとても飲みやすいです…僕が入れると…もっとなんか雑味が入るというか…」

「そうですか?それもそれで美味しいですよ。毎日君が私の為に慣れないお茶の準備に奮闘しているのが分かりますし…一生懸命な君をとても愛おしく思いますよ」

「…からかうのは止めてください…」


伯爵の言葉に何と返答して良いのか分からないロイは、顔を真っ赤にしてそう呟きました。伯爵はそんなロイを不思議そうに小首を傾げながら見つめると、ロイの横にすとんと座りました。


「からかってなんかいませんよ。毎日一生懸命に、純粋に私の為に働いてくれる君を見ているとただ素直にそう思うだけです」

「…」


ロイの顔はさらに真っ赤になり、ついには耳まで赤く染まっていきました。


「そんな君だからなおのこと…いつまでも私の傍にいて欲しいと思うんですよ。だから君に倒れられたら困るんです」


伯爵はロイの肩に手を回し、ちょうど口元にあるロイのおでこに優しくキスをしました。

ヘーゼルナッツ色をした大きなロイの瞳がさらに一段と大きく見開き、伯爵の腕の中でどうしたらいいのか分からないままずっと戸惑ってオロオロとしております。伯爵はそんなロイがを見てもう一度にっこりと微笑まれると、立ち上がってワゴンの上に置いていたバラの砂糖漬けの瓶を手に取り一つ取り出すとロイの口の前に持ってきました。


「カルロ様…これは…?」

「バラの花びらの砂糖漬けですよ」

「…」

「美味しいですよ。さぁ食べてごらんなさい」

「ハイ…」


ロイは伯爵の指からバラの花びらの砂糖漬けを受け取ると、おずおずと口に含みました。

ゆっくりと咀嚼をしてゴクンッとロイの小さな喉が動くのを伯爵はじっと見つめておりました。ロイも伯爵に自分の行動の全てを見られているのが恥ずかしく、花びらを食べた後後伏し目がちなままモジモジとしていました。


「…紅茶に入れて飲むとまた美味しいですよ」

「ハイ…」


伯爵は砂糖漬けを一つまみ取り出すと、ロイのカップにパラパラと2、3枚散らしました。

横でむしゃむしゃと砂糖漬けを食べる伯爵を横目で見ながら、ロイは伯爵に言われるがまま紅茶を一口飲みました。


「…美味しい…」

「人はね、適度に美味しいものを食べないと駄目なんですよ。君は今までそんなに甘いものを食べてきたことが無いでしょうから…これからはここでちゃんと食事と甘いもの、そして睡眠を取りなさい」

「カルロ様…」

「これは命令ですよ、ロイ。絶対に破ってはいけません」

「…ありがとうございます」

「君のように素直で丁寧に仕事をしてくれる従者はそう居ません。君に倒れられては困るんですよ」

「…ハイ」

「さて…今日はもう一度ビストリツァに戻らねばなりませんね…。あ、そうだロイ、近々大切なお客様がグララスの屋敷(ここ)に来る予定です。また少し手伝ってもらうこともあるかも知れません」

「お客様…」

「えぇ、とびきり極上のお客様です。粗相のないように頼みますよ、ロイ」

「ハイっ!」

「それでは私は…昨晩かいた汗も流してサッパリしたいのでシャワーを浴びてきますね」


伯爵はカップの中の紅茶を飲み干すとガウンを脱ぎ捨てて立ち上がりました。緩く無造作に結んである髪を解き、少し着流した状態の寝間着からは意外と筋肉質な胸元が露わになります。

ロイは見てはいけないっと視線を逸らしました。伯爵はそんなロイを見て悪戯っ子のように口元に笑みを浮かべながら、そっとロイの背後に周り肩にそっと手を置き極上の甘い声で耳元で囁きます。


「…一緒に入りますか?」

「えっ!?」


顔を真っ赤にして驚くロイを見て伯爵はまた更に笑い出しました。


「冗談ですよ!…さぁ準備にとりかからねば!」


まるでゆでだこの様に耳まで真っ赤になったロイはポカーンとした表情のまま一人部屋に取り残し、伯爵はロイの肩をポンッと叩くと軽快に笑いながら部屋をあとにされたのでした。

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