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ローザタニア王国物語 〜A FAIRY TALE〜  作者: 月城 美伶
jardin secret ~秘密の花園~

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第4章 Jardin secret ~秘密の花園~ 第三話

 森の中で迷子になってしまったシャルロット様とセシル。

二人を探しにウィリアム様とケヴィンは森の中に入って行かれました。

ここでもシスコンが炸裂するウィリアム様でありましたが、そんなお二人が森の中を探し回っていると、シャルロット様の悲鳴らしき声が聞こえてきたのです。

 「…シャルロットッ!」


ウィリアム様は大声でシャルロット様のお名前を叫ばれながら、重なり合うように生い茂っていた木々を取っ払い少し開けた場所へとやっと辿りつき辺りをキョロキョロと見回されます。

大きな木が生えている方向へと視線をやりますと、ウィリアム様はパッと剣を構えながらジリジリと進まれました。


「お兄様っ!!」

「妹から離れてもらおうか…」


そこにはシャルロット様とセシル、そしてシャルロット様の背後に金髪と銀髪が混ざり合った肩にかかるくらいの髪をゆるく結び、深い赤色に黒い繊細なレースや宝石があしらわれているジャケットやブーツに身を包んだ一人の男性が立っておりました。


「これは失礼…」


振り返られた男性は口元に優しい笑みを浮かべながら、灰色に金色がかった切れ長の瞳をそっとウィリアム様の方へ向けられました。


「いきなりお声を掛けずにマドモアゼルの肩に触れてしまって、驚かせてしまいました。大変な無礼をお詫びいたしますムッシュー…」

「そうなの、お兄様。ただ私この方のお声に気付かなくて、肩を叩かれてびっくりしただけなの…」


男性は申し訳なさそうにウィリアム様に頭を下げますと、シャルロット様は男性をかばうように前に出てウィリアム様に剣を下げるようにお願いいたしました。


「…そうなのか?」

「えぇ本当よ。この森はこの方のお屋敷の森なの…。私たち勝手に迷い込んじゃっていたの」

「妹を保護してくださった方に剣を向けるなどこの無礼なんとお詫び申し上げればよいのか―――…。誠に申し訳ございません」

「いえ…誰だって警戒されていればそうなります、お顔を上げてくださいムッシュー」


剣を素早く鞘に戻し、ウィリアム様はこの森の持ち主である屋敷の主人である男性に深々と非礼を謝るかのようにお辞儀をしました。

屋敷の主人はとても心地よいリラックスさせる癒しを含んだような声を響かせながら、ウィリアム様にお顔を上げてくださいと謝罪を受け入れております。


「申し遅れました。私はモンテフェルロト伯爵家のカルロ・ジャン・モンテフェルロトと申します。この屋敷は最近別荘用に購入したのですが…前の持ち主の方が5年ほど前に亡くなってから誰も管理しておらず、柵や塀が朽ち果てしまっていたのでこちらのマドモアゼルは私の敷地の森に迷い込んでしまわれたようですね…」

「そうでしたか…。カルロ殿、こちらも知らずとは言え申し訳ない。私は隣国のローザタニアの国王ウィリアム、そしてこちらが妹の―――…」

「シャルロットです」


シャルロット様は花のように可憐に、ウィリアム様は威厳を持ってカルロ伯爵に軽くお辞儀をしてご挨拶をされました。これこれは…とカルロ伯爵もしっかりとお辞儀をされご挨拶を交わしました。


「いえ、お気になさらないでください陛下。私もつい先日こちらに来たばかりで、この屋敷の現状に私自身も驚いております。果たしてどうしたものやら…近くの村人たちも良く迷い込んでいるので何とかせねばですね」

「ここに迷い込んだのは私たちだけじゃなかったのね」

「えぇ。先日もお使いに出た近くの村に住む少年が迷い込んでいたみたいです。恥ずかしい話です…」


ポリポリと人差し指でこめかみ近くの頭を掻きながらカルロ伯爵はにこやかにシャルロット様とウィリアム様に微笑まれました。


「しかしこのような辺鄙な場所を…高貴な方が通られるとは珍しいですね」

「我々はこれからグララスにある城へ向かう所でして…休息の為に少し休んでおりましたら好奇心に駆られた妹が森の中に入って迷ってしまいまして…」

「そうでしたか。グララスの城…あぁ…あの蜂蜜色のミエル城ですね。なるほど、確かにグララスへ向かうにはこの近くを通っている道が抜け道ですね」

「えぇ。少し早めにこちらに着きましたので湖の畔で休憩を取っておりました」

「そうでしたか…。ではお急ぎでしょう。戻り道をご案内いたします」


どうぞこちらです、とカロル伯爵は先頭に立って歩き始めました。その後ろをウィリアム様とシャルロット様、そしてケヴィンとセシルが並んで付いて行かれます。

ケヴィンは無言でセシルの腕をの引っ張って自分のすぐ近くに寄せて肩をしっかりと抱き、何か耳元でこそっと囁きました。そして一歩下がって早くシャルロット様の後に付けよ、と一言こぼして少し照れくさそうに下唇を噛んでプイッと顔を逸らしました。セシルは少し頬を赤らめて嬉しそうな笑顔をケヴィンにこぼした後、再びシャルロット様の後ろにピタッと付いて行きました。

皆がちゃんと歩いて行ったあと、ケヴィンはしっかりと周りを見回して安全を確認して最後尾について歩いて行きました。

森の中は相変わらず霧が立ち込めております。先程まで皆が近くに居た大きな木もぼんやりと霞に隠れてしまい、ひんやりした空気の中森は再び水を打ったかのように静かになり、木が風に揺れる音だけが響いておりました。


・・・・・・・・


 「屋敷の管理不足ですっかりと荒れ果てておりますね。…お恥ずかしい限りです」

「そう?なかなか趣もあって素敵よ」

「なんとお優しい…。慰めいただきありがとうございます…。屋敷の中は少し整理は出来たのですが森まではなかなか整備できず…」

「そうなのね」

「まぁ少しずつ頑張るしかないですね」

「なかなかの大作業になりそうですわね。お気張り下さい」

「ありがとうございます。シャルロット様からのお声を頂戴して何だか頑張れそうな気がします」

「まぁ!お上手ね」


カルロ伯爵とシャルロット様は並んで談笑されながら楽しそうに、時にシャルロット様の歩調に合わせてゆっくりと森の中を歩かれます。

その後ろをキョロキョロと森の風景を確認しながらウィリアム様とセシルは付いて行かれ、最後にケヴィンがゆっくりと付いて行きます。


「あぁ…森を抜けました。こちらが私の屋敷です」


ガサガサと藪を掻き分けると目の前にはたくさんの蔦が絡み合うように茂っている古びた大きな洋館が立っておりました。ほぼ蔦に覆われて、洋館はまるで森の大きな木のように森に紛れ込んでいるかのようにひっそりと建っております。


「…なかなか趣のあるお屋敷ですね」


多い茂っている蔦の多さをご覧になって、ウィリアム様は驚いて少し言葉を失いそうになりながらもポロッと呟かれました。


「いやぁ…本当に蔦と言うのは取り払っても取り払ってもすぐにまた生えてきてしまいます。本当に厄介なものです」

「ウチの庭もなかなか人が通らないところは草や蔦が生え放題です」

「えぇ本当そうなっちゃいますよね。…森も迷路のようになっておりますからね。いっそのこと迷路としてしまおうかと思っちゃいます」

「防犯にはいいかも知れませんね」


ハハハ…とウィリアム様とカルロ伯爵はだいぶ打ち解けたように笑いあいました。


「さて戻り道ですが…この道をこのまま真っ直ぐ歩かれますと5分もかからず湖に着くと思います」

「そんなに近いの!?」

「おそらくシャルロット様は森の中をグルグルと回られていたのでしょう」

「まぁ…本当に迷路みたいな森だったのね」

「そうですね。さて…是非お茶でも…と思いましたが如何せん屋敷もこの状態ですし、おそらく従者もお待ちでしょう。また機会がございましたら是非…」

「えぇ是非。このご恩は忘れません」


ウィリアム様とカルロ伯爵が握手を交わしてご挨拶をされました。そしてカルロ伯爵はスッとシャルロット様の手を取って少し身を屈めて優しく口づけをされました。


「愛らしい姫様…少しの間ですが貴女にお会い出来て光栄でした」

「私も、助けていただいて本当にありがとう。またこちらに遊びに来ても構わない?」

「もちろんです。こちらの屋敷にしばらく住もうと思っておりますので」


ニコッと天使のような微笑みをしてシャルロット様はカルロ伯爵にお礼をお伝えしました。心なしかカルロ伯爵も嬉しそうに、灰色の瞳を細めながら微笑まれております。


「さぁ…霧も少し晴れてきました。今のうちにお戻りください」

「ありがとう伯爵、またいづれ!」


ウィリアム様とシャルロット様はゆっくりとお辞儀をして、湖に続く道の方へと歩いて行かれました。ケヴィンとセシルは最敬礼のお辞儀でカルロ伯爵にお礼を伝え、ウィリアム様とシャルロット様の後に着かれました。

カルロ伯爵も深々と最敬礼のお辞儀をして皆の姿が遠く見えなくなるまで見守っておりました。

またどこからか風が吹いてきて、森の木々をガサガサと揺らします。

一瞬霧は薄くなりましたが風に流されてきたのでしょうか、カルロ伯爵を包むように辺りはぼんやりと霧が森を覆いかぶさっていったのでした。


・・・・・・・・


 「姫様~っ!心配いたしましたよっ!!」


カルロ伯爵が申した通り道なりに真っ直ぐ5分ほど歩いたところで、四人は無事湖の畔へと戻ってきました。シャルロット様のお顔を見たばあやは痛い腰をさすりながらすぐさまシャルロット様の近くへ走っていきギューッと抱きしめられました。


「ごめんなさい…森の中で道に迷っちゃって」

「もう…勝手知らない場所で動き回らないでください~っ!ばあやは本当に今度こそ心臓が止まるかと思いましたよーっ!!」

「ちょっとばあや…それは大袈裟よぉ」

「大袈裟なことあるものですかっ!だいたい姫様はいつも危機感が無さすぎるんですっ!!本当にお気を付け下さい~っ!!」

「分かったってば…」

「そうだぞ、シャルロット。皆お前のことを愛しているからこそ心配しているんだ」

「…」

「さぁ皆に何か一言いうことはないか?」

「お兄様…」


ウィリアム様がシャルロット様の肩に優しく手をやり、シャルロット様の瞳を覗かれて何かを促します。

シャルロット様は一瞬躊躇われましたが、周りを見渡してばあやや他の従者の皆が心配そうなお顔をしてご自分を見ているのをしっかりとご覧になって、一度瞳を閉じて深呼吸をし、ばあやの手を取りました。


「皆…心配かけてごめんなさい」


シャルロット様がぺこりと頭を下げて皆に謝られました。それを見た、ばあやをはじめとする従者たちはちょっと驚かれましたが、すぐにホッと安心されていました。


「そんなことないです姫様、御無事で何よりです」

「ホント…お気を付け下さいね」

「いやぁー無事に帰って来てくださってよかったよかった!」

「…許してくれるの?」


シャルロット様は不安そうに上目づかいで皆に伺いました。従者…特に若い兵士たちは一瞬で目がハートになり、デレデレとシャルロット様の前で鼻の下を伸ばしております。


「許すも何も、我々は怒ってなんかいませんよー」

「そうですよ姫様ー!」

「ご無事で何より!姫様の為に働くのが俺たちの使命ですからーっ!」

「…でも皆に迷惑かけたわ」

「迷惑だなんてっ!これっぽっちも思っておりません!」

「そうです!そんなこと思うやつが居たら、俺たちがコテンパンにやっつけてやりますよっ!」

「へぇー…私は毎日すげー迷惑しているんですけど…じゃあお前たち私をやっつけてみるか?」

「…っヴィンセント様っ!!」


若い兵士たちの背後から、シラーッと軽蔑するかのような眼をしたヴィンセントがニュっと顔をだして棒読みで一言セリフを吐きすてました。


「えっと…いや…その…」


兵士たちは一瞬で青ざめ、しどろもどろになりながらジリジリと少しずつ後退していきます。


「ったく…口先だけのやつらめ」


兵士たちはそう言えは馬の様子を見て来なければ…など言って次々とその場をいち早く去ろうとして走っていきました。その様子をヴィンセントは溜息をついて流し目で見ながら呆れていました。


「ちょっとヴィー、皆を苛めないでよ」

「苛めてませんよ。本当のことを言っているだけです」

「もぅ、相変わらず口が悪いんだから!」

「口が悪くて結構。あいつらはいつも平和ボケしているのでこれぐらい言ってやらないと駄目なんですよ。しかし…いったいどこほっつき歩いていたんですか。まぁお蔭で私ゆっくりと寝れましたけれども」


ヴィンセントはシャルロット様の髪の毛に絡んでおりました葉っぱをスッと取り、珍しそうに見つめておりました。


「んもぅ…ヴィーったらっ!心配なんてしていないと思っていたけれども本当にちっとも心配していないのね。…それにしてもヴィー、ノアと仲良しになったのね」

「え?」

「だってほら、肩にノアが乗っているじゃない」

「あぁ…コイツですか」


よくよく見て見ますと、まるでヴィンセントの制服の毛皮のように肩の上にはノアがちょこんと乗っておりました。


「…犬でも猫でも人間でも馬鹿じゃなければ私は好きですよ。こいつ賢いんです。まるで人間の言葉を理解しているみたいですね」

「まぁ❤ノア凄いわ」


ヴィンセントはノアの喉元に指を持って行き、チョイチョイと撫でまわしております。ノアは気持ちよさそうに目を細めてゴロゴロと喉を鳴らしております。


「あと誰に逆らってはいけないかとかちゃんと理解してますね。飼い主と違って賢い猫です」

「…最後の一言は余計よ」


プゥッと頬を膨らませてシャルロット様はヴィンセントに対して怒りましたが、ヴィンセントはそんなこと気にせず、マイペースにシレッと対応されております。


「もうそろそろ行かないとパーティーに遅れますよ。そしてまたあのバカ親子に鬱陶しく絡まれますよ」

「うん、ヴィンセント…ここナルキッス国だから…発言に気を付けなさい…」


ウィリアム様のさりげない突っ込みを無視して、ヴィンセントは時間の遅れを取り戻すかのようにテキパキとし始めました。


「確かにここナルキッスでしたね。失礼いたしました。しかし陛下、そろそろここを発ちましょう。でないと本当に遅刻してしまいます」

「あぁそうだな…。ケヴィン、皆、急かしてすまないが馬の準備を!」

「はっ!」


従者たちはいつでも動かせるようにと準備していたのでしょう、ウィリアム様の命令を受けた後すぐに馬たちがカッポカッポと足音を響かせながら道にスタンバイいたしました。


「陛下、姫様、馬車の準備が出来ましたのでどうぞお乗りください」


スッと従者の一人がこちらに…と誘導してお二人を馬車乗り場へとお連れしました。


「うん、ありがとう。さぁシャルロット」


ウィリアム様はシャルロット様にスッと手を差しだして馬車までエスコートされ、お二人は馬車へと乗り込まれました。

ヴィンセントはお二人が馬車に入られたのを確認し、忘れ物が無いかなど辺りを見回してチェックしてみおります。そして手に持っていた、先ほどシャルロット様の髪に付いていた葉っぱをもう一度しげしげと見つめておりました。


「甘い香りがする…珍しい葉っぱだな」


葉っぱを捨てようとくしゃっと丸めましたが、少し考えられて少し調べてみるか…と一言ポツリとそう呟いた後、制服のポケットからハンカチを取出して葉っぱをくるんで再びポケットの奥にしまいこんでノアを肩に載せたまま最後に馬車に乗りこみました。

馬に合図をして、馬車がゆっくりと動き出しました。

まだ昼の時分とは言え、日が少し傾いてきたようで森の木々の影がゆるやかに長くなってきました。風も再び吹いてきてカサカサと木々を揺らす音が響きます。

ローザタニア王国の馬車一行は少し急ぎ足で再びグララスの古城へ向けて走り出して行きました。

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