プロテスト公の悩み
この世界にある12の聖剣。
ⅠからⅫの文字を刻まれた聖剣は、メシア教において時を司る神より人類に送られたと口伝される。
今ミカエスト王国が所持するは王子アベルが持つ一振り、Ⅱの聖剣バイナリスターのみである。
聖剣は祠と呼ばれる遺跡に眠り、聖剣士のみがその件を引き抜くことを許される。
祠は10階層の構造となっており、各階をモンスターが守る。
そして最後に待ち受けるはドラゴン。
聖剣に頼らず聖剣を得て、所持者として相応しい証を立てよとでもいうのだろうか。
故に始めの聖剣奪取は相当な犠牲が出たと言われる。
今では聖剣士2人で新たな聖剣士を導く体制が出来たため、それほどでもないが。
だがミカエスト王国には聖剣が一振りしかない。
そしてその持ち主たる王子アベルが出陣できぬとあれば、新たな聖剣は犠牲を払って得るしかないのだ。
聖剣獲得。
もしドラゴンが現れたら。
その想定において絶対必要戦力である聖剣獲得は今やミカエスト王国最大の命題でもある。
過去にドラゴンを撃退した実績あれど、次も同じとは限らない。
だが犠牲を払うわけにもいかない。
国王アダムも決して国民の命を軽んじているわけではない。
ただその強すぎる子への愛情が、それ以上に息子の命を優先させているだけなのだ。
それが一番の問題でもあるが。
何にせよ、国王アダムは何も聖剣獲得を考えていなかったわけではない。
どうすべきか常に頭を悩ませていたのである。
そこに現れたドラゴンスレイヤー。
その力を目の前で見せつけられた国王はこれを好機と捉えた。
「三ヶ月以内にレメク・オソドクスに聖剣獲得をサポートせよ。」
パーティー会場に現れた黒き巨人。
その責任として国王アダムはプロテスト公爵家当主カールに命を下した。
以前より受けていた命ではあったが、改めて公にされ、期限をつけられた訳である。
カールは考えた。
愛詩を失うわけには行かない。
彼はただ自由に生きようとしている。
このような使命を彼は嫌うだろう。
そもそも愛詩は聖剣士ではない。
聖剣獲得は彼に何のメリットもないのだ。
だが、この状況をどうにか出来るのも愛詩だけだ。
国王もそれを分かって言っている。
「少し気分転換をしようか・・・。」
自室で悩んでいても埒があかないと、カールは外にでる。
風に当たろうと廊下を進むと、妻エリーザベトと愛詩、ジャンヌの姿が見えた。
盗み聞きは趣味が悪いが、カールはなんとなくその話を聞いてみたくなり隠れて聞き耳を立てた。
「人手が足りないですか・・・いえ、マナウタさんのご依頼です。可能な限り尽力させて頂きますが、強制は出来ませんわ。」
「ですよねぇ・・・。」
「とはいえ、こちらも店をお任せした身。何か考えさせて頂きますが・・・。」
「お願いします。行列が道を塞いでしまって苦情が殺到してるんですよ。」
「存じておりますわ。」
どうやら屋敷の前の店の話題らしい。
「とはいえ、この領地、恥ずかしながら他に比べて人員が薄く、なかなか難しいんですのよ。」
「人が少ない?公爵領なのにですか?」
「ええ、ご存じかと思いますがこの領は他の公爵領よりモンスターの生息地に近いんですの。加えて今王国には聖剣が一振りしか有りませんのよ。」
「はあ・・・ああ、だから皆不安で来ないと。」
「ええ、故にどんなに産業が発展しても人が集めるのは難しいんですの。いざモンスターが攻め入ったとき最初の犠牲になるのはこの地ですから。」
「他の地ならいざというとき逃げられると。」
「そういうことですわ。」
「じゃあ、聖剣を集められれば人は来るんですか?」
「絶対にモンスターが迎撃できる、となれば人は集まるとは思いますわ。あくまで聖剣獲得は必要最低限でしてよ。とはいえ、かなりの効果は見込めるかと思いますが。」
「ふむ・・・因みに聖剣て聖剣士がいないと獲得出来ないんですよね?」
「そうですわ。貴方の場合ジャンヌがいるから問題はありませんでしょうけど。」
「うーん。」
「聖剣を揃えられる戦力はいわばドラゴンを迎撃できる戦力。その名声が噂になればその庇護下に入ろうとする者も増えますわね。」
「なるほど・・・。まあ、一振りは元々獲りに行く予定だったからいいんですけど。さっきの理屈だとあと二振り集めなきゃ駄目ですよね?」
「簡単に言いますわね。ですが・・・ええ、国民が安心し、この領に集う為には。」
「そうですか。となると・・・聖剣士の知り合いとかいません?」
「そういうことでしたらワタクシの方から口利きして差し上げましてよ。丁度オソドクス公より聖剣獲得の援助を申し込まれていましたの。」
「それはまた都合の良い。では、そうですね・・・1ヶ月後に出発するので準備をお願いしますと。」
「わかりましたわ。」
「では、俺達は出発しますので。」
「ああ、ちょっとお待ちを・・・であればコレを持って行って下さらないかしら?」
「何ですか、これ?」
「メタエスター島であれば王都を通りますでしょ?その際王城の門番にこれを渡して頂きたいの。」
「手紙なら郵便屋の方が早くないですか?」
「いえいえ、こちらはマナウタさんが渡すことに意味がありましてよ。」
「そうですか・・・まあ、いいですけど。」
カールは察した。
なんか解決しちゃってると。
◇◆◇◆◇
「リチャード様・・・。」
トゥーリアの気遣う言葉は当然主であるリチャードに向けられていた。
その眉間には深く皺が刻まれている。
「まさか、完成体がああも簡単に・・・。」
リチャード達もパーティーの場にいたのだ。
ポンテオを魔人へと変え、要人の一人でも殺害できればエンシェントは大いなる脅威として大陸全土に名を轟かせることが出来ただろう。
そう狙って送り込んだ魔人はしかし、四肢を吹き飛ばされ、簡単に捕縛されてしまった。
「それと、お気づきでしたでしょうか?」
「ああ、ハムか・・・。死んだと思っていたが・・・。」
そこにはリチャードの元を離れ、逃げ出した者がいた。
「つくづく予想外だね。ここは。」
「如何なさいます?」
「この国は一度離れよう。」
「宜しいので?ハムはそのままで・・・。」
「どうせ何も話せないさ。彼は僕と同じなのだから・・・。」
「左様でございますか。」
「不満かい?」
「いえ、私はただリチャード様の望むままに。」
「そうか・・・。」
静かな沈黙が場を覆う。
その沈黙の中リチャードは思考に沈んでいく。
彼の頭にあったのはハムではない。
(それに・・・あの男・・・。)
マナウタの姿が何故か頭から離れない。
「して、リチャード様。次は如何様に?」
トゥーリアはリチャードを気遣い、敢えて話題を変えた。
「そうだな・・・北の国にお邪魔しようか。」
「いよいよで御座いますか?」
「ああ、そろそろ人々に知らしめてもいいだろう。崇め信じる神とやらの加護が、如何に脆く、くだらないのかをね。」
「承知致しました。では出発の準備を致します。」
背を向けるトゥーリアを目で追いながらリチャードはまた思考に耽る。
そこに出てくるのは魔人を打ち倒した愛詩の姿。
(僕等にとって君は驚異か、それとも・・・。)
強く息を吐き、その姿を頭から追いやる。
(何にせよ僕はとまれない。そうだろう?)
目をつぶり自身のステータスを出現させる。
(なぜなら僕は・・・この世界と相容れないのだから。)
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名前 = リチャード フッド
所属 = ノースガブリ聖国
爵位 = なし
天職 = 魔獣使い
先天技能 = 魔獣契約 使役 技能取込
後天技能 = 精神異常耐性 竜息 竜爪 飛行 身体硬化
罪状 = 殺戮 拉致 強盗 詐欺 人体実験 違法薬物使用 魔獣侵入援助
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