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軍師ヨシュア

大分長くなってしまいました。

軍師ヨシュア。


「軍事改革の始祖」と言えば王城では誰もが彼を思い浮かべる程に有名な通り名だ。


大したメディアもないこの世界で、「有名」というのは即ち多くの人々の記憶に残る大きな結果を残したことを意味する。


もう5年程前にもなる。


学問に秀で、才を示したヨシュアはその天職もあり、若年でありながら王国軍軍師に就任した。


この頃既に聖剣士ジョージは病の床に伏し、残る聖剣士は王子アベルのみであった。


王アダムがアベルに危険を冒し、聖剣奪取を命じることはない。


既にそれを分かって居たヨシュアは、軍を見直し再編成を急いだ。


どの国でも軍の編成は騎士職が占める。


敵の進軍を戦士が抑え、魔導師が遠距離攻撃により破壊し、暗殺者がとどめを刺す。


負傷した味方を僧侶が癒やし、要人の警護を格闘家が務める。


そしてドラゴンが現れれば聖剣士をもって対抗する。


これが四国における共通戦略であったのだが、戦える聖剣士がミカエスト王国にはいない。


ヨシュアが目指したのは聖剣士不在であってもドラゴンを撃退出来る軍。


その為にヨシュアは優秀な農業職を選び抜き、軍に取り込んだ。


当初は反対の声が大きかったが、その声も暫くすると収まった。


兵達がモンスター討伐時にその効果を目の当たりにしたからだ。


モンスターは全て強固な防御能力を持つわけでも、驚異的な生命力を持つわけでもない。


当たれば殺せるなら魔法でも矢でも同じこと。


農業職の編入により魔導師は魔力を節約でき、隊の持久力が上がった。


加えて、俊敏性を武器とするモンスターには溜めが必要な魔法より時に矢の方が優位に戦況を進めることもある。


今まで隊が苦手としていたモンスターにも対処出来るようになった。


水辺の戦いには漁師を、植物型モンスターには木樵を、虫型モンスターには駆除士を。


適材適所前衛に出す兵を敵に合わせて変える戦術。


その効果は3年前ドラゴンの来襲時、皆が知ることになる。


現れたのスピノドラゴン。


怒れる四大竜が一種。


背に大きな鰭を持ち、鰐を連想する顎はその内に刃の如き牙を揃える。


ティラノドラゴンと派遣を争うとされる王者の一角がミカエスト王国の関所より確認されたのだ。


国王は全軍による防衛を指示。


しかしそこに聖騎士アベルの名はいない。


戦場を絶望が覆う中、ヨシュアは魔導師達に最大火力による攻撃を命じる一方で、狩人と漁師達に矢と槍による眼球への攻撃を命じた。


作戦は成功したと言えるだろう。


攻撃を嫌がったスピノドラゴンは撤退。


聖騎士不在にしてドラゴンの撃退に成功したヨシュアは将軍エノクの信用を勝ち取り、以降全軍の指揮を任されるようになった。


しかしヨシュアにとってこの戦いは敗北に等しい。


ドラゴンを倒せたわけではないのだから。




故にヨシュアはその噂を聞いたとき、誰よりも早く真偽を確かめようとした。


結果はおそらく「真」。


聖騎士に頼らずドラゴンを打ち倒す力が、今この国にはある。


早速会いに行こうかとも思ったが、相手は公爵家の客として滞在しているという。


変に動けば引き抜きを勘ぐられるか、いやそれ以外のあらぬ疑いをかけられる可能性もある。


ヨシュアはなんとかしてその者と会う段取りをつけようとしていた。


公爵が一度王城に来た際に希望しようとしたが、ヨシュア自身が多忙な上、公爵は気付けば王や王女と会話しており、ヨシュアが話せる時間が中々とれなかった。


そんな中ヨシュアに公爵家でのパーティー開催の話が舞い込む。


慎重派であるヨシュアは事前に為人を調べておきたいと思っていたが、折角の機会だ。


ぶっつけ本番、彼は公爵家のパーティーに出席することにした。


いったところでヨシュアは度肝を抜かれることになる。


まずは屋敷だ。


屋敷の塀では馬車の車輪のようなものがぐるぐると回っている。


(なんだこれは・・・。)


塀を越え、ヨシュアは直ぐにその異変に気付いた。


(なんだ・・・そうか・・・臭いが、ない・・・。)


どの屋敷でも糞尿の臭いには苦労している。


花を咲かせて誤魔化しているものだし、それは王城でも変わらないのだが。


ここにはその異臭がそもそもなくなっている。


(一体どうやって・・・それも直ぐにわかることか・・・。)


ヨシュアはもう、この先に起きる何かに期待せずにはいられなかった。


会食の始めに挨拶をした男。


夫人によれば彼こそが噂のドラゴンスレイヤーだという。


マナウタと名乗った変わった風貌の男。


王城で噂の彼が、パーティーの料理を取り仕切るという。


「あの豪傑女房は一体何を考えておる?」


隣で呟く将軍エノクの言葉は無礼なれど、ヨシュアも同感ではあった。


貴族にとってパーティーは政治。


名目は人を集める題目であり、集まった者達にある者は自領のものを宣伝し、売りつけ、あるものは力を見せつけ、この国に自領は欠かせぬと威を示し、援助を受ける。


故にドラゴンスレイヤーはきっとパーティー会場で置物のように見せびらかされると思っていたのだ。


だが、ドラゴンスレイヤーは挨拶が終わると早々に引っ込んでしまった。


(奇策にも程がありますよ。)


ヨシュアはエリーザベトを見る。


プロテスト公爵夫人エリーザベト。


前妻エリヤの妹にして格闘家。


剛胆でかつ策略家。


プロテスト公が生命の実獲得の命を受けたとき、身重故に別荘に隔離したのは、放って置けば彼女が何をするか分からないからだ。


ヨシュアはそれを思い出し、ならば相手の手に乗ってやろうと席で料理を待った。


そこには驚愕が待っていた。


「美味い!!なんだこれは・・・!?」


「塩味とは誓う、コクと深みのあるこの味わい・・・。」


「こっちは塩味だが、我が屋敷で出される塩焼きとはまるで違う。煮込んだわけではないようだが味がしっかり中まで染みているぞ!!」


会場の会話はただただ料理への評価で満たされた。


貴族のパーティーにあるまじき事に。


ヨシュアもついつい食べることに夢中になる。


ヨシュアが我に返るのは食事の合間のみ。


エノク将軍と目が会う。


その目が「やられたな・・・。」と語っていた。


周囲は既に調理法の教示、見たことのない調味料の買い付けに湧いている。


「夫人の持つあれはなんだ?」


誰かが言った言葉に目を向ければそこには羊皮紙とは違う、文字の書かれた白い何か。


(布?・・・いやあれは違う・・・。)


夫人の手持つ真新しいそれに視線が集まったのを確認してから、エリーザベトは料理を解説する。


「次はスープです。味噌というこれも新しい調味料を使ったスープですわ。」


豪傑女房とは良く言ったもの。


なまじ目で見ていないドラゴン殺しの噂より、これはある一点においてわかりやすい。


即ち、彼は誰も知らないことを知っている。


ふと目線を上げると公爵夫人と目が合った。


ヨシュアを見て口元を隠す夫人。


口元はきっと笑みが浮かんでいるのだろう。


そして、その目線でヨシュアは気付いた。


(狙いは・・・私か・・・。)


夫人はきっとこう言っている。


見極めろ、と。


(自領の売り込み、援助の両方を得ながら、軍に新たな風を吹かせるか・・・。夫人、欲張りすぎではありませんかねぇ。)


心の中で呟く皮肉は、しかし決してエリーザベトの策を失敗と見なすものではない。


(いいでしょう。ならば私は私なりに見極めさせて頂きます。が、その前に・・・。)


運ばれてくる料理の香りの誘惑にはもはや勝てない。まずは食事を楽しもう。


ここはあくまで会食の場、バチは当たるまい。


開き直ったヨシュアは食事を進め、


「美味ッ!?これ美味ッ!?」


デザートで出たプリンの味の虜となった。




会食も終わり、人が捌けていく。


冷静になろうと外にでると、ヨシュアはマナウタを見つけた。


風に当たっているようだ。


さて、どう声をかけようか?


マナウタとの距離を詰めようと一歩進めると、遠くから声が上がった。


「モンスターだぁ!!モンスターが出たぞーーー!!!」


どよめく屋敷にいる人々。


門の先に現れたのは黒く大きな影。


ヨシュアは既に密偵よりそのモンスターの情報を得ていた。


サヘラントロプス。


各国で暗躍する組織、エンシェントが使う人を化け物に変える薬「ダーウィン」。


(間違いない。)


人の倍もある姿と、黒く硬質な皮膚。


太く長く変形した腕は、凶悪な爪を伸ばし,獣の腕の如く近づくものを薙ぎ払うだろう。


慌てて対処しようとする警備兵を片っ端から蹴散らしながら、その影は屋敷へと進んでくる。


「ならぬ、ならぬぞアベル!!」


「父上!!今ここで出て行かずに私の存在意義はどこにあるのです!?」


(愚かな王が、と言いたいが・・・好都合か?)


見ればマナウタは銀髪の美しい女性と共に黒い巨人に向っていった。


(さて、どうする?)


先手は銀髪の女性。


同じ聖剣士であるアベルが驚愕するほどの速度で巨人の腕に刃をたてるも、その剣は腕を断つには至らない。


「黒くて大きくておまけに固いっ!!」


「突っ込み待ちか?」


「セクハラですよ?あんなもの突っ込まれたいわけないでしょう?」


「そういう意味じゃねえよ!?」


(何を言っているのか?)


「しかも臭い・・・男ね。良くも悪くも。」


「ジャンヌ、マジで黙れ。」


「ならばマナも男気を見せては?」


「全く意味分からんが・・・こいつが家に来たら困るのは確かだ。」


言葉と同時にマナウタの手に握られたのは見たこともない筒のようなもの。


(なんだあれは?)


ヨシュアの疑問に答えるかのように轟く轟音は4発。


吹き飛ばされる巨人の四肢にヨシュアは全てを察した。


技能でもなく、軍の編成でもない、ドラゴンを打ち倒したる力。


それは道具だった。


(これが、ドラゴンを撃った力・・・。)


そしてそれはヨシュアが欲してやまぬもの


一国に三振りしかない聖剣の力に頼るものではない。


今ある力を再編し効率的にするだけのものではない。


道具による軍力の革命。


それが今目の前で示された。


(ドラゴンスレイヤー?いや・・・彼の存在意義はそんなものではない。)


ヨシュアはエリーザベトがいるであろう屋敷に向って頭を下げた。


(この出会いと、夫人、貴方の心遣いに感謝を。)

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