動き出す国家
鉄と金の帝国
そう形容されるウリウェスト帝国は、強大な鉱山をバックに形勢される軍事国家だ。
帝王を頂点とし実力主義の名の下に弱者を虐げる。
鉱業士を数多く囲い込み、他の農業職に強制労働を強いる国。
本来なら反乱が起きてもおかしくない国会体制だし、実際起きたこともあるのだが、騎士職を圧倒的に優遇することで反乱を鎮められる武力もまた確保していた。
他国からの脱走者、亡命者も騎士職であれば罪状に目をつぶり採用する。
そして自国の鉱山から生み出される武具で強化する。
パラディア大陸最強国家はそうやって成り立っている。
隣国とは同盟を、対国とは敵対を。
この大陸で帝国の対となるミカエスト王国はある意味で不運だ。
彼等が武力を増強する程に、帝国側のモンスター達は縄張りをミカエスト王国側へと変えていく。
そしてそこに現れたアダム王。
子供を想う余り聖剣の獲得が出来ぬ王。
その情報は既にウリウェスト天帝ネロにまで届いていた。
「ガイウス将軍、分かっておるな?」
「はッ、陛下。」
「なれば急げ。この帝国の繁栄は今ぞ!!」
「はッ!!」
領地の拡大。
どの国も願ってやまぬ悲願。
今帝国はその野望に手をかけた。
「我等が聖剣は帝国のために!!このゼロの聖剣ベツレヘムが我が帝国の先陣を切り、化け物共より帝国の地を切開いて見せましょう!!」
「うむ、期待しておる。」
白金に輝き、神に挑むが如く天に掲げられる聖剣は、正に帝国の意思を表していた。
◇◆◇◆◇
ミカエスト王城に儲けられた軍師ヨシュアの私室。
ノックに対する返事を待つこともなく扉は開かれた。
ヨシュアも慣れたものなのか諦めたようにため息をつく。
「ヨシュア。」
「これは将軍閣下、本日も「挨拶はいい。」
将軍は遠慮なく部屋に入り、我が家のように椅子にどかっと座り込む。
「何かお飲み物でも?」
「よい。気遣いも不要だ。」
肩をすくめるヨシュアに将軍は構わず要件を切り出す。
「聞いているな?」
それだけでヨシュアは察した。
「はい。エンシェントの国内での活動を確認しました。」
「ああ、場所はプロテスト公領地。幸いにも市民への被害はなかったようだが。」
「脚を矢で撃たれたものが20人程いたようですが?」
「それは別の者の手によるものだろう・・・いや、切り離せはせぬか・・・。」
「20名を瞬時に無力化し、変異体3体の腕と脚を斬り飛ばした。・・・なかなかプロテスト公は部下に恵まれていらっしゃるようです。」
「フン・・・その様だな。」
「不満ですか?」
「少し羨ましく思っただけだ。」
「将軍であると同時にオソドクス公家当主でもある。大変ですね・・・二足の草鞋は。」
「全くだ。が、不満ばかり言ってはいられん。それより・・・。」
「はい。20人を無力化したのは噂の彼のようですね。」
「変異体の方は違うのか?」
「そちらはプロテスト公が引き取ったダルクの娘のようです。」
「ほう・・・聖剣士を侍女になどしてどうするのかと思ったが。戦えるまでに育て上げるとは・・・これは本当に商人公爵などとは呼べんな。」
「何がなくとも呼ばないで下さいよ。特に公の場では。」
「分かっておる。何にせよ出鼻をくじかれたのだ。奴等は去るか?」
「いえ、エンシェントの今までのやり方を見る限りでは、少なくとも後一手はあるかと。」
「となると、やはり狙いは・・・」
「奴等の目的が国家であるならば場所、条件共に最適でしょうね。こちらにとっては最悪ですが。」
「嫌なタイミングで出産してくれたものだ・・・。」
「子供は神の贈り物、ですよ?将軍。」
「分かっておる。本当に固い・・・。」
「それが取り柄と申し上げております。・・・それで。」
「ああ、準備をせよ。」
普段気をつけているのだが、ついため息をついてしまう。
この将軍という男、基本的に急なのだ。
だが、今回はヨシュアもそうせねばならないかと考えていた。
故に、問題があるわけではない。
「分かりました。いつ?」
「明日プロテスト公が娘を連れて王城に来るそうだ。数日の滞在後戻り、国王陛下も後を追う形となる。おそらく10日後と行ったところか。」
「承知しました。ではそれまでに王国軍師に恥じぬよう、しっかりおめかししておきますよ。」
「そうしておけ。まして次期国王正妻の御実家となる場所だ。粗相があっては上司の儂が困る。」
「確かに・・・嫌ですね。気を使う相手が多いというのは・・・。王家、おそらくケイトリック公もいらっしゃいますかね?待っているのは次期王女にプロテスト公家そして・・・。」
「ドラゴンスレイヤー・・・か。」
力というのはそれだけで驚異だ。
ヨシュアはまだ見ぬマナウタに思いを馳せる。
(さて、一体いかなる人物か・・・。)
◇◆◇◆◇
「リチャード様・・・。」
「分かって居るよトゥーリア。」
心配そうなトゥーリアの前で、しかしリチャードは笑みを浮かべていた。
「まさか、あんな簡単に片をつけられるとはね。人的被害はゼロに等しい。」
「精々警備隊の一人に負傷を追わせた程度。彼等を仕留めた者達は全員無事と。」
「商人公爵などと呼ばれているから大した事はないとこの地を選んだが、中々の武力をお持ちのようだ。」
「ええ。とはいえ所詮人の枠に収まる力に過ぎぬのでしょうが・・・。」
「まあ、あれはデモンストレーションの様なもの。結果は振るわなかったが兵が警戒してくれれば彼等の役目は終わりだ。」
「他国での動きも伝わっておりましょう。魔人が現れたと知れば、警備隊は動かざるを得ません。」
「ならばいいさ。それに・・・。」
「はい。今月最後の日になる模様です。」
「くくッ、領地にモンスターが現れたというのにパーティーとは、プロテスト公というのは中々の大物だね。」
勿論皮肉だ。
「折角のパーティーだ。誠に勝手ながら盛大な贈り物をさせて頂きますよ?ねえ?」
視線を後ろに向けるリチャード。
その先には手脚を縛られ猿ぐつわをされた一人の男。
「ムグ、ムグーーーーー!!」
「そろそろ始めようか・・・会長殿?」
声にならぬうめき声を発するその男の名はポンテオ。
ピラト商会会長。
しかし、転がされ、やつれ果てたポンテオに会長としての面影などはなかった。




