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精霊の正体

アグネス・・・アグネーーーース!


いない。


どうしてこんなことに・・・。


「ですからお嬢様と一緒にお出かけしたと・・・。」


黙れ、ジャンヌ。


お前にあの子が・・・じゃない。


理由とかどうでもいいのである。


なぜ、この大事なときに・・・。


いや、ぶっちゃけ俺が忘れていただけなんだが。


アグネスはいない。


当主とお嬢様について王城へ向って行った。


何をどう詐欺ったのか、お嬢様が王子の妻に選ばれたらしい。


王城から帰ってせわしなくなんやかんやしていた当主だが、今日一段落ついたのか、お嬢様と一緒に王城へ出発した。


ジャンヌなき後、お嬢様の世話役となったアグネスさんは、当然一緒に王城へ。


つまり俺が知っている発酵職人が今いないという状況だ。


米が手に入るのもまだまだまだ先。


・・・しゃーない、誰か見つけよう。


誰かといっても俺のコネには限りがある。


あいにく孤児院に発酵職人はいない。


うーん。


そも屋敷のパンはどうやって焼いているのだろうか・・・。


「パン焼きは侍女の仕事ですが何か?」


さいで。


いや、睨むなよジャンヌ。


別に屋敷からパンを貰っているだけのお前を責めているわけじゃない。




結局俺達はジャンヌの知り合い、というかアグネスさんの身内の所へ。


アグネスさんは元々ワインを公爵家に納めていた発酵職人の娘だそうだ。


ワインというのはこの世界ではもっともメジャーな飲み物の一つ。


一般市民も飲むが故に、普通に撃っているものは混ぜ物がされていて当たり前。


そういえば前に止まった宿で出てきたワインはやたら薄かった。


というわけで金持ちはお抱えの発酵職人がいて当たり前。


そのお抱え発酵職人が繋がりを強くする為に、奉公に出した娘ってことらしい。


「公爵家の侍女ともなれば男性の引く手も数多。娘想いのいい親ですよね・・・。」


ということらしい。


いまいち俺にはよく分からん感性だ。


さて、辿り着いたのは屋敷からそれほど遠くない民家。


デカい庭と、その庭を占領するデカい倉庫が門の前から見える。


「あら、ジャンヌちゃん?お久しぶりね~。」


家をボケーっと視ていた俺達に話し掛けてきた、やたらと恰幅のいいおばちゃん。


多分、というか絶対アグネスさんのお母さん。


アグネスさんの顔を横に広げたら多分こんな顔になる。


「お久しぶりです、シプトンさん。」


ジャンヌも気安い。


「それで?こちらはジャンヌちゃんのコレかしら。」


親指をたてるシプトンさん。


この辺りのサインは元の世界と一緒らしい。


「いえ、寧ろコレです。」


小指を立てるジャンヌ・・・どうゆーこと?




「美味しいパンを作るために来た?」


快く家に上げてくれたシプトンさんに、まずは要点を伝えたが首を傾げられた。


まあ、知らなきゃ何のこっちゃか分かるまい。


というわけで説明する。


材料はジャンヌが鼻息荒く担いで持って来たから大丈夫。


では始めよう。


パンは早い話が小麦粉の塊だ。


小麦粉を捏ねて焼いたものがパン、なのだが、捏ねて固めるから当然焼けた後も固い。


柔らかくするためには練り固めたパン生地をほぐしてあげる必要がある。


この工程が発酵。


パン生地の中のショ糖や澱粉をアルコールや炭酸ガスに変え、パン生地を内部から膨らますわけである。


北空に輝く星の暗殺拳伝承者の技みたいだ。


発酵というのは酵母と呼ばれる菌の成す技。


菌はこの世にいくらでもいて、悪い菌がついてしまうと発酵は腐敗に変わる。


ちゃんと発酵させてあげるには発酵してくれる菌を捕まえて、パン生地に混ぜる必要がある。


菌をどうやって捕まえるか、なんてのはサイトがなかったのかディクションが拾わなかったのか調べられなかったが、代わりにいい情報を手に入れた。


本来パンを焼くにはイーストと呼ばれる酵母を使うらしいのだが、ワイン酵母でも代用がきくらしい。


同じ酵母だから根本は同じなのだろうか?


よく分からん。


つまりワインを作って要る人ならパンも余裕なのである。


「酵母?・・・何かしら?」


・・・はい?


「ええと・・・ワイン作りに使っているのでは?」


「いえ?ワインはヴィティスの精霊が造ってくれるのよ?」


・・・何故いきなり電波系な会話を始めたのだろうか、この人は。




暫く話して漸く俺の思い違いが分かった。


まず、ワインがそもそもどう造られるのかを俺が知らなかった。


大丈夫か俺。


ワイン酵母はブドウの皮に住んでいる。


ブドウを潰せば酵母が潰したブドウと混じり合い、ブドウを発酵させて、ワインになる。


わざわざ酵母なんて用意していないらしい。


因みにブドウがヴィティスで酵母というか多分菌全般をここでは精霊と呼んでいるっぽい。


ヴィティスの精霊、サッカロミセス。


若干危ない人の発言に聞こえるが、元の世界でも酒造途中に蒸発して目減りした分を天使の取り分だか悪魔のぼったくりだかと呼ぶらしいから、これはこれでよしとしよう。


まあ、理解できれば問題なし。


発酵職人がなぜ召喚士よろしく精霊制御とか使えるのか疑問だったがこれで謎が解けた。


つか精霊培養て・・・。


発酵職人の技能に精霊格納なるものがあったから何とかなるだろう。


「そりゃあありがたい精霊だもの。ちゃんと守り神として格納しているけど・・・。」


会話が通じているのか不安になるリアクションだが、まあいい。


それを途中で買ったリンゴ・・・じゃなくてマルスだっけ?を潰して造ったリンゴジュースに投入。


「はあ・・・別に舞わないけど・・・。」


そう言ってシプトンさんが手をかざすとホワンとした綿毛のような光がジュースに舞い降りた。


・・・本当に精霊みたいだな。


精霊視たことないけども。


これを発酵促進して貰うと泡が立った。


シードルだ。


「あら、これもお酒ね。・・・へえ、エールみたいにシュワッとしてなかなかおいしいわね~。」


こっちにはワインとエールぐらいしか酒がない。


他のもので酒を造ろうという発想がないらしい。


じゃあ、どうやってエールやワインは出来たんだって話だが、土地が限られ果物も貴重なこの世界。


機械もなく自分お手で頑張らなきゃいけない人達にとって今あるものを継続して造る事が重要なのかもしれない・・・。


俺の知ったこっちゃないが。


これに小麦粉を混ぜ、中種を作り、更に小麦、バターを混ぜて生地を作る。


発酵促進有能すぎ。


工程がガンガン進む。


生地を契って捏ねた後二次発酵までが一日かからず終わるという。


折角なので食べてみよう。


シプトンさんの家の釜でパンを焼く。


さあ、召し上がれ。


「こ、これは・・・?」


「まあ・・・これ本当にパンなの?」


ジャンヌもシプトンさんも驚いている。


「シプトンさん、ところでご相談があるのですが?」


折角だ、ついてに今後のことも交渉する。


・・・・・・。


このパンは売れる。


シプトンさんにとってワインと双璧を成す商品になるだろう。


シプトンさんはそう思ったらしく、パンは材料費プラス若干の手数料で安く俺達には売ってくれることになった。


店に売っている固いパンとほぼ同じ金額。


代わりにこの知識を他に広めない。


知識の独占はこの世界では稼ぎの常識。


まあ、俺としても問題はない。


自分が手に入れられれば、他のことは知るところではない。


「いい娘の嫁入り道具が手に入ったわ~♪」


なお、シスコンイケメン大好きアグネスさんが旦那をゲットできるかも、俺の知るところではない。


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