予定を入れた日ほど
一晩寝て優先順位を考えた。
まずは石けんとシャンプー。
できればリンスも。
勿論家に次いで。
代理の訊く物は代用しないと。
何でも最初からというわけにはいかない。
洗浄は衣服屋に行けば大抵有料でやってくれるらしい。
洗浄技能が何処までを汚れと判断し、落してくれるのか検証してみたい気もするが、今は技能を信じよう。
石けんは髪に良くないと言うが、全く洗えないわけではないはずだ。
洗う回数を何日おきとかにして妥協すれば、まずは石けんがやっぱり優先か。
いやいや、屋敷でも料理とかしているわけで、手を洗う石けん位在るだろうと思うかも知れない。
でも、ナッシング。
キトルスと呼ばれるレモンみたいな果実を漬けて置いた水で洗うだけ。
外出から帰ったとき使わせて貰ったけど、確かに脂はそれなりに落ちる。
最悪コレで代用かもと考えたが、ちょっと無理。
身体洗うのにどれだけのコレが必要か。
実際俺の計画が上手くいくかの実験もかねて、最初に石けん作りと行こう。
作ると行っても苦労は最小限に。
まずは手っ取り早く自分の持ってるボディソープを小分けに持って行き、作ってくれる所を探すべきだろう。
何処だろうな。
名前的には薬師かな。
諸々模索するしかないだろうな・・・。
まずは行ってみて、だ。
よし、今日のやること決まり。
ジャンヌに薬師のアテがないか訊いてみようと思って、ベッドから立ち上がるとドアがノックされた。
「マナウタ様、起きていらっしゃいますか?」
ジャンヌ、ナイスタイミング。
「申し訳ありませんが本日の朝食は食堂までおいで下さい。お嬢様がお話があると。」
珍し。
基本朝と昼は部屋でも食堂でもいいと言われていたので、俺は遠慮なくルームサービスをお願いしていた。
あの無駄に広い食堂にまだ慣れない。
とはいえ家主、正確にはその娘に呼ばれたんじゃ無視はできないか。
「マナウタ様、実はお願いが・・・。」
マリア嬢様、朝のごきげんようをすませ、席に着いて最初の一言。
「どうかしました?」
「その・・・ワタクシと狩りに行って頂きたいのです!!」
・・・本当に何を言っているのだろう。
「実は・・・」
お嬢様ご説明タイム。
長い。
がんばって要約してみる。
まずモンスター、というものを説明しておきたい。
この世界では動物も技能を持っている・・・マジで?
全部が全部ではないらしいが、人を害する技能を持つことが確認された獣をモンスターと分類するそうだ。
で、基本的にモンスターは関所で食い止められ、人の住む領地には入ってこない、となっているが関所を護っているのは人間である。
例外が発生する訳だ。
今回の例外は鳥。
飛ばれちゃったらねー、どうしようもないよねー。
そう害鳥である。
狩人の出番だ。
只の害鳥なら農業センターを通して狩人を集めればいいが、相手がモンスターとなると話が変わる。
モンスターというのは災害として扱われているので、避難なり何なりの指示を責任者、つまり領主がかけ、討伐の音頭を取らなければならないのだが、その当主が今いませんと。
そこでお鉢が回ってきたのがお嬢様だ。
本当は奥様が出張ればいいのだが、現在2人目の出産が控えており、別館で完全隔離状態。
心配させてなるものかとお嬢様張り切っておられます。
ふむ、空回っていらっしゃる。
別にあんたが行く必要はなかろうに。
「お母様に負担はかけられないわ!!ワタクシが行って奴等の羽を全部むしり取って差し上げましょう!!」
勿論、家臣達は諫めた。
ぶっちゃけ出現場所に避難勧告と私兵団に討伐命令をだしたあと、避難すればOKの簡単任務だ。
なのだが、悲しいかな現在の公爵家トップはこのポンコツである。
自身の天職が魔導師なのもあるのか、戦闘に無駄に積極的だ。
ウッキウキのキラッキラだ。
好奇心全開、行く気満々のこの娘の説得を諦めた家臣達はジャンヌに相談。
説得合戦に敗北したジャンヌは眉間を抑えながら、絶対かつ完全なる護衛体制を敷くことを条件に折れた。
俺が同行するならOKと。
俺に断って貰おうとしたともいう。
そりゃ俺だってNOと言いたいんだが。
「さあ、マナウタ様!!ドラゴンスレイヤーの狩人の力を見せつけて差し上げましょう!!」
ハズい渾名つけんなや。
ともかく、俺も1週間で学ぶくらいはしている。
ここで断るとこの御嬢様拗ねる。
それも割と長期間。
ダダこねて暴れて色んなものに当たり散らす。
ジャンヌが宥め役に回る。
俺一人放置・・・という図式が出来上がる。
他の人でも俺は良いのだが、ジャンヌが他の侍女に俺の面倒はジャンヌが見るから手を出すなと言っているらしい。
ジャンヌ曰く他の人間は俺の力を隠すよりも、好奇心で力を見せるように促すからだと
俺の力というか現代日本文明の力だが、まあそこはいいや。
俺一人で外に出ることも遠慮するよう強く言われている。
つまり、ここでお嬢様がヘソを曲げると俺は数日自由がない。
「そのモンスターのいる場所はお分かりなので?」
「ええ、愚かにも我が領の農場地で我が物顔で居座ってくれてますわ。」
「なるほど。その愚かな鳥のいるところまではどの程度の距離で?」
「馬車で半日といったところですかしら。」
ふむ、これから出れば明日から自由か。
まだ必要はなさそうだが農場を見ておくというのはアリかな。
「あくまで護衛としてであれば、同行くらいはさせて頂きますよ。」
「流石ドラゴンスレイヤーですわ!!」
その呼び方やめい。
あと、ジャンヌから「おい、テメエ!?裏切ったな!!」みたいな視線を感じるが、今回俺は悪くない。
お嬢様が農場付近の地域に避難指示を出す。
といっても一筆書いて出せば、対応する役所みたいなのがあとは上手いことやるらしいが。
「お嬢様、やはり危険すぎます!!」
「ジャンヌ、聖剣士ともあろう方が何を怖じ気づいているのです。ご安心なさい。ワタクシが全て焼き尽くして差し上げましょう!!おーほっほっほ!!」
子供にこの笑い方はして欲しくなかった。
ジャンヌが怖がってるのはモンスターじゃなくお嬢様の暴走だし、農場で焼き付きしたら害鳥以上に迷惑だと思うのだが。
何にせよ、準備を整える各々。
一応俺もジャージと剣鉈を装備。
飛び道具と弾丸、矢は格納済みだ。
つーても俺の出番は多分ないんだよね。
暇つぶしにタブレットを持って行こう。
トイレも持って行こうかな・・・この世界の農場のトイレとか嫌な予感しかしない。
いや、馬車の容積を大分とるし無理か。
大っきい方は向こうで出ないように念入りに振り絞っていこう。
馬車に揺られること3時間。
尻が痛くて仕方がない。
まあ、今回は気楽なものだ。
後ろに私兵団が乗った馬車が続いている。
彼等が頑張っている中一番安全なところで護衛という名の下、ボーッとしていれば良いんだから。
いくらお嬢様とて実際の狩り場に単身切り込みはしないだろう。
そして目的地、「アララト農場」に到着。
木の柵で囲われたいかにもな農場だ。
遠くに見える家畜の死体。
牛と豚が1頭ずつやられていた。
放置すると病気が蔓延しそうだが、モンスターがいつ襲って分からないんじゃ仕方ないか。
遠くからターゲットの鳴き声が聞こえた。
『アホーー!!』
ほう、貴様らか。