言わなくても良かったらしい
希望が出てきたからか、今日の朝は目覚めが良かった。
このミカエスト王国には四季があるそうだ。
今は夏。
約3ヶ月ごとに季節が変わるそうだから、サイクルは日本とざっくり一緒っぽい。
つまりクソ暑い。
この辺りもエアコン生活に慣れた俺には、もうね。
寝苦しいから眠れず、夜遅く漸く寝て、朝起きれないという典型的夜型スパイラルに嵌りそうになっていた。
本当に今をなんとかしなくては。
ということで、金が要る。
対価だ金だと言うたって、現在一文無しじゃなぁい?
なあ、俺?うん、その通り。
充電カラカラで使えなくなった電子マネーや、念のために財布にれてる紙幣はあるが、ここで日本円は使えないだろう。
現状公爵家で生活費を奢ってくれているが、この後どうするにしたって甘えている場合じゃない。
ではまず、狩人は何を金に換えるのか?
「獲ってきた獲物でしょうね。」
当たり前だろうと言わんばかりのジャンヌ。
「農業センターに行けば、必ずお抱えの加工職人がいますから、そこでアイテム化して貰い、不要なものを売って金銭に換える、というのが狩人や漁師達の基本的な稼ぎ方です。」
「農業センター?アイテム?」
「はい。」
だめだ、ここで質問しても頭に入っていく自信がない。
「後でいいや。で、基本的って事は違うヤツもいるのか?」
「素材格納スキルを売りに騎士達の討伐部隊に同行し、荷物持ちをやったり、矢を騎士達に売ったりして小銭を稼ぐ者もいますね。」
「そ、そうか、わかった、ありがとう。」
なるほど、底辺と呼ばれるわけだ。
気を取り直して。
つまり俺が格納している素材、これを金に換えたいわけである。
「それはドラゴンの素材を市場に卸す・・・ということでしょうか?」
「ああ、他にもヴェロキちゃんとかクマちゃんとか。」
「クマちゃん?」
「数が少ないからいくらになるか分からないけど、ここを出た後も先立つものは必要だし。」
「出て行くって、何かご不満が御座いましたか!?」
青ざめたマリアが後ろに立っていた。
世話役を仰せつかって出て行かれましたじゃ、この娘の面目も立つまい。
はい、とは言い難い。
「あ、いえ。御当主様がお帰りなさった後の話ですよ?いつまでもここに寄生していてはご迷惑でしょう。」
「そのようなお気遣いは無用ですわ。」
「あはは、ありがとう御座います。」
顔色が戻ったようでほっとした。
「それと、正直街の中を見てみたいというのもあります。」
「理由を伺っても?」
「記憶がありませんので、今のうちに社会を見て回って、常識を取り戻さなければ。」
「なるほど。そう言うことでしたら止めるわけには参りませぬが・・・ふん。」
可愛らしく手で顎を触りながら悩むマリア。
え、俺に外に出るのもダメな感じ、これ?
「ドラゴンの素材は、様々なものに使用できる超優良素材ですから。こちらとしては当主様がお帰りの後、お口添えの上で卸して頂きたいのですよ。」
ジャンヌが補足っぽいことを言っているが、
「なにゆえに?」
「誰もが欲しがり、何処にも売っていない超高級優良素材。そんなものが個人間で勝手に出回れば、市場がどうなるか分かりません。下手すれば事件が起きます。」
「そういうもん?」
「はい。例えばドラゴンの鱗は鎧等に使えます。公爵領でそのようなものが出回れば、王家より献上を求めらのが必然。しかしものは市場に流れ、ばらまかれ、転売に継ぐ転売で価値がとんでもなく上がっている、となった場合。」
「公爵家はご破算とか?」
「その素材を狙い、最悪犯罪に手を染める者も出てきますね。」
「領の治安もヤバくなると。」
「はい。ですので当主様がお帰りになるまで、行動を控えて頂く意味もあって、アナタにはここにいて頂いているのです。」
「なるほどね。そっちにも益があったわけだ。」
「はい。」
これって思っているより、ここにいるの危険じゃねえかな?
「よかったのか?そんなに正直に話して。」
「アナタは警戒心が強い上、頭も良いですからね。下手に隠すより言ってしまった方が良いと判断しただけです。」
「ふーん。」
ジャンヌの中の俺の評価が意外に高い。
「勿論アナタにこう言えば様々な事を考えるのでしょうし、これについては信じて頂くしかありませんが、当主様は他者が自分の為に働くことを当たり前と思い込むような、腐った貴族ではありません。」
「その台詞大丈夫?マリアの前で。」
奴隷が貴族を腐ってるとか言っちゃったよ。
「問題ありませんわ。ジャンヌの言うとおりですもの。大義を忘れたゴミのような貴族がいることはワタクシも知っていましてよ?」
ちょいちょい言葉悪いんだよね、このおにゃにゃのこ。
まあ、公爵家に睨まれればこの町では生きて行けまい。
他の街にアテもないし。
最悪逃げる選択肢を忘れず、現状維持と。
マジかよ(泣)。
「じゃあ、ドラゴン以外ならOKなのか?」
「ドラゴネットもできれば勘弁して頂きたいですね。」
「ほとんどダメって言われた感じだな。」
「他には何かあるのですか?」
「えー、ステータスオープン。」
「それ毎度言いますが何故です?・・・って後天技能が増えてる!?」
「言わなくても見れるのか?」
「ええ、念じれば出てきますよ。あとその場合はステータスが他者の目に映りません。」
初めて知った。
「それで、なんで増えたんですか!?」
「本当に後天技能持ち・・・。しかも3つも・・・。」
詰め寄るジャンヌ、青くなって呆然としてるマリア嬢。
「いや、俺が聞きてえよ?」
ジャンヌの詰問を躱しつつ、格納素材を表示する。
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素材格納 格納数 = 4/50
・ティラノドラゴンの死体 ✕1
・生命の実 ✕2
・ヴェロキドラゴネットの死体 ✕3
・アーケオプテリクスの死体 ✕1
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ふむ。
あのクマちゃんアーケオプテリクスっていうのか。
覚えられる気がない。
「生命の実・・・まだ持ってたんですか!?」
「ああ。」
「もしかして・・・食べました。」
「1個試しにね。なかなか美味かっ・・・どうした?」
「それのせいです・・・。後天技能が増えたのは。」
へー。
「ドラゴン以外って、まさかそれを売る気だったので?」
だめだろうか?
「ドラゴン以上にヤバイやつです!!煎じて飲めば万病を治し、その身を囓れば技能を得る!!神の果実!!」
なるほど、つまりダメっぽい。
そしてマリア嬢が白目剥いているが放置で良いのだろうか?
「あの、分かってます?」
「言ってることは。」
寧ろお前は?といいたい。
一応侍女の筈なんだが。
「その割に慌てたりしてない気がするんですが?」
「技能のせいでない?」
OK、じゃあ俺もスルーで。
「ええ・・・なるほど。」
となると、俺が個人で売れるのはクマちゃんだけか。
「本当はそれも、かなり貴重で市場を混乱させかねない素材なんですがね。」
「貴重じゃない素材が知りてえよ。これ、お前に案内された河原で俺を襲ってきた奴だぞ。」
「え?」
え?じゃねえよ。
「・・・なるほど。アーケオプリテクスが跋扈していたから・・・道理で草原にモンスターが少ないと思っていましたが・・・。」
いや、何訳知り顔で他人事決めてんの?
「で、これもダメなのか?」
「・・・当主様を待たなければならないほどのものではありませんし・・・、分かりました。ワタシも同行しても?」
「ああ、寧ろ頼むわ。道分からんし。」
「では、馬車を用意します。」
「遠いのか?」
「そこまででは。」
「じゃあ、歩こう。街の中を見ておきたいんだ。」
折角の軟禁解放タイムだ。
行って帰って終わりではもったいない。
「承知しました。・・・面倒事を起こさないで下さいね?」
本当にコイツは俺を何だと思ってる?
ともかく、漸く俺は街中デビューをすることになった。
さて、お勉強の時間だ。